じゅうろく 散歩
ユウへグが家事をする際の実働時間は、限りなく短かい。
もしくは短時間に限られている。
理由はもちろん、彼女が凄いから。
料理や洗濯、掃除や、その他雑用、その一切を、彼女は長くとも一分で終わらせるから。
「えっへん」
そして得意げだ。
「褒められるのは好きなのです」
「褒められるのが嫌いなヤツっているのか?」
「さあ? いるんじゃないですか。世の中、広いんですし」
世の中、広いんですし、って、子供がよく言うぜ。
まるで世の中を端から端まで隈なく見てきたような口ぶりである。
お前は世界を知らないだろ。
世界を知らない、世間知らずが代名詞のユウへグだろ。
「誰が世間知らずですか」
「お前だ」
売買で騙された過去を持つ、お前だ。
逆に俺は、お前より世間を知らないヤツを見たことがないぜ。
「ひどい言い方ですね。ひどい言われっぷりですね」
「事実だから仕方ねえな」
仕方ない、仕方ない。
「そこまで言うのなら、私に世界を見せてくださいよ。どこかに連れてってください」
「良案かもしれないが、無理だな。そんな金はない」
「じゃ、一先ずは、お散歩にでもどうです?」
散歩……。
「そのこころは」
「き、ば、ら、し」
気晴らし。
まあ、散歩程度で、それで世間知らずが治るなんてことは、まずないだろうが……。
彼女は、気晴らしがしたいと言う。
もう、世間知らずの話題は終了しているらしかった。
話題の切り替えが速い。
「今、私がやるべきことはアラカタ終わったんで、行きましょう。ラステムさんも、どうせお暇なのでしょ?」
「どうせお暇なのでしょ? じゃねえよ」
暇なワケあるか。
こちとら現役の作家だ。
仕上げねばならないアレやコレやが沢山あるんだぞ。
「知りません」
「知ってろ。ひとつ屋根の下に住んでるんだから」
「そうでしたっけ」
忘れられていた。
ストレートに悲しい。
「分かった。散歩には付き合ってやる。ただし、今からではない。明日だ。明日にしよう」
「りょーかいです」
まあ確かに、こいつが俺の家に来てからコッチ、よく外に出ていたとは言えないしな。
気晴らしか。
どこへ行こうか。




