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じゅうご 愛情表現

「……きゃっ、ネズミ……」


 ある日、彼女にしては珍しい声色の声が一つ。


「どうした、なにがあった?」


「ネズミが……あ、窓から逃げましたね……」


 見れば確かに、灰色のネズミが窓の隙間から逃げていくところであった。


 と言っても、俺が視認できたのは、ネズミの尻尾だけだったか。


 なんだ、ネズミか……。


 最近見ねえなと思っていたが、出たらしい。


 忘れたころに、出たらしい。


「大丈夫か? 触ったりはしてないな?」


「触れるワケないでしょう、あんな極悪非道なモンスター」


 ネズミだよな?


 ネズミの話だよな?


「ネズミ、ムリなんです」


「そうか。まあ、ムリじゃないやつの方が少ないだろうしな」


「ラステムさんはムリじゃないんですか? 平気なんですか?」


「平気ってワケじゃあないが、見慣れちまったな」


 ここでだって、俺の実家でだって、散々見てきたし。


 そういう意味では歴戦。


「兵器ってワケじゃあないが?」


「俺が頭ン中で浮かべた『歴戦』という単語と微妙に引っ掛けるような聞き間違いをするんじゃない。というか、『平気』という言葉を最初に使ったのはお前だ、ユウ」


 その聞き間違いは故意だ。


「恋だなんて、そんな」


「お前、面倒臭い性格をしてやがるな」


 故意が過ぎていた。


 友達が絶対にできないタイプだろ。


「ラステムさんがお友達です」


「そうか、嬉しいよ」


「ウソです」


 お前、友達が絶対にできないタイプだろ。


「ラステムさんはお友達ではなく、私のご主人様です、きゃぴ」


「止めろ、鳥肌が立つ。背筋が凍る。きゃぴって何だ、きゃぴって」


 ネズミが今から食べようと思っていた料理にお邪魔する、よりも目にするのがツライ光景だった。


 その無表情からそんな言葉を聞きたくねえ。


「私なりの愛情表現です」


「そうか、嬉しいよ」


「ウソです」


 ウソだった。


「私の行動の全ては常に、『こうしたらラステムさんは嫌がるだろうな』の思考の下に行われております」


「どんな訓練を受けてきたんだ。俺を敵視しすぎだろ」


「ずっと隠していましたが、実は私、ラステム暗殺し隊のメンバーなんです」


「アジトにネズミを送り込んでやろうか」


 そんな部隊、雲散霧消してしまえ。


「こんな他愛ない冗談まで含めて、ラステムさんへの愛情表現なのですよ」


「ウソだろ」


「本当です」


 彼女曰く、本当らしかった。

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