じゅうよん 数学
百億万年後、私は生きているでしょうか。
と至極真面目な顔で言う彼女に、俺は言ってやりたい。
百億万なんて数字はないのだと。
存在しないのだと。
言ってやりたかったから、言ってやった。
すると彼女は、
「またまた」
と返すのである。
マに受けないのである。
冗談でもないのに。
「そんなこと言ったら、百億万に失礼じゃないですか。礼を失ってるじゃりませんか」
そもそも存在しない数字を擁護する彼女であった。
そもそも存在しない数字をそうやって、何食わぬ顔で、平気な顔して口にしてしまうのだから、お釣りがまともに受け取れないのも納得である。
彼女は数学が大の苦手らしい。
ということはトックのトーに知っていたにしても、あまりにもひどすぎる。
この前なんて、
「ユウ、一足す一は何になるか分かるか?」
「一足す一ですか? 一足す一……。一足す一……。……。……。……ゴハンにしましょう」
である。
これはもう、数学が苦手というよりも、数学を拒絶していると表現した方が正しい。
好き嫌いではなく、アレルギーなのか?
数学アレルギー?
なんだ、それは。
「私に訊かれましても」
「お前、そんなことで、今まで困らなかったのかよ」
「困りませんでしたね」
「困らなかったのか」
「はい、一ミリメートルも困りませんでした。誰が一ミリメートルの身長ですか」
お前はそのカギカッコを使って何がしたいんだ。
数字もダメで、会話もダメって、お前は本当に、家事をするためだけに生まれてきた人間なのか?
それでいいのか?
「でも実際、困りませんでしたし。数学なんて、生活では使いませんよ」
「適切な金額のお釣りを当たり前のごとく受け取れるようになってから言え、その台詞は。第一に、お前、数学どうのの以前に、騙されてるんだからな?」
お釣りが多かったあの時は、知らん。
「せめて金の計算ができなきゃ、そうやって騙されちまうんだぞ。そうやって痛い目見るんだぞ」
「私は痛い目を見ていません。見ているのはラステムさんです」
そうだった。
こいつは自分の金を未だに使っていないから、まだ痛い目を見ているのは俺だけだった。
理不尽じゃね?
「そうなるとやはり言えるのは、お前にお使いは任せられないということだな」
「えー、そんなー」
いやでも、仕事が減るんだから、むしろラッキーではないのか?
ううむ、俺はこいつの感覚が分らん。




