いち 子供
奴隷を一人引き取ることになった。
なんでも、俺の遠い親戚の、さらにまた遠い親戚の誰かさんが亡くなったそうで、そこで働いていたやつの行くアテがどこにもないということらしい。
主人を失って、路頭に迷っているらしい。
今ドキ奴隷なんて、世間からの目も温かくはないのだから、非常に気の毒というか、俺以外の親類が全員引き取り拒否をしたのも頷けるというか、そんなこんなで、俺の家に来ることになった。
俺は家事が大の苦手であったので、こんなにまで渡りに船な話もそうそうないのだし。
非常に軽い気持ちで頷いた。
ペットを一日預かってくれに対するみたいな二つ返事で「はい」と答えた。
ペットではなくて人だが。
食べるものと寝るところを適当に与えて、家事の方は本人に丸々任せてしまってもいいだろう。
そんな軽はずみ。
奴隷と言えば聞こえは悪いかもしれないが、言い換えれば、お手伝いさんみたいなものなのだし。
住み込みで働いてくれるお手伝いさんみたいなものなのだし。
なんだったら賃金のことも、考えてもいいと思っている。
給料。
たぶん、ヒトが生きるうえでの最大のモチベーション。
もしくは上位を争うレベルのモチベーション。
それで仕事により一層力を入れててくれるのであれば、それまた、なおさら。
元の主人を失って傷心だろうし。
奴隷とは言わせないような、人並みの労働環境と生活環境を提供したくも思う。
俺とて鬼ではないのだ。
どころか、人を人として接することのできる良い人間だと自覚している。
俺は優しいのだ。
……おそらくは。
いや、それは置いておいて。
奴隷、もといお手伝いさんは、もうそろそろ到着してもよい時間とのことなのだが、はて、道に迷ってはいないだろうか。
ちょっと遅れているが……。
……お。
呼び鈴の音。
来たようだ。
俺は扉を開ける。
「遅れて申し訳ありません。道に迷っておりましたので……」
「いや、大丈夫だ。どうぞ、入っ……あれ」
俺には最初、扉を開けたその場には誰もいないように見えた。
無人。
自分が出かけるときとまったく同じ風景だ。
おやおや?
呼び鈴は気のせいだったか?
今の声は空耳だったか?
ううむ、確かに聞こえたような気がしたのだがなあ……。
頭をポリポリとかいて、俺はギギギと扉を閉める。
「ちょ、ちょ、ちょ、待ってください。私はここです。ここにいますから。私を勝手に消さないでください」
「え?」
確かに聞こえた。
しかもなんか、低い位置から。
低い位置から、高い声が。
子供みたく、高い声が。
いや、高い低いはともかくとして、高低差なんてどうでもよくて。
俺は声の出所と思われる場所を見る。
「…………」
「…………」
子供がいた。




