旅の支度は一筋縄にはいきませんでした
よろしくお願いします。
「へぇ、もう他の魔法も使えるようになったのか。さすがだな!すげぇ!」
迎えに来てくれたピアに一応報告すると絶賛されて、かえって恥ずかしい。
ところでピアの頭がなにかおかしい。
頭巾のようなもので隠しているんだけど…。
「ピア、その頭の布取って見せて」
そう言ったらドヤ顔で見せてくれました、スキンヘッドを。
「はぁー?!なにやってんのっ?」
「いやだって、赤い髪が目立つって言うから剃ってきた!」
褒めてと言わんばかりだが、そうじゃない。
結局頭巾みたいなのを巻いて、余計厳つくなっているので余り意味がない。
ソックスも呆れたように「みぎゃ~」と鳴いてる。
「あー、俺が着てるみたいなフード付きのマントとか持ってるか?なかったら旅支度揃えるついでに買おうな」
「おう?」
有無も言わせないよう告げるとわかったかわかってないんだかの返事をされる。
先が思いやられるな…。
二人でそうやって話してたから、ソックスが自分のカゴ鞄の中にサイドテーブルに置いてあった布袋を入れていたことに気付かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日ロマンスグレーな紳士に説明されて通った道の反対側。
さらに城壁に続く貧民街の手前まで来ていた。
そのまま行こうとするピアを呼び止める。
「なんで止めるんだ?」
「今まではよかったかもしれないけど、これからは兎に角この国をでるまでは目立ちたくないんだよ。
貧民街に小綺麗な格好した奴がいたら目立つだろ?」
「おお、なるほどな」
そう言って二人して物陰に隠れて、顔や服を泥で汚した。
後で魔法で綺麗に出来るしな。
「そんじゃ、念の為裏口から入るか」
ピアに案内されて着いたのは掘っ建て小屋の裏口。
今にも外れそうな扉を乱暴に開けながら中に入って行く。
これ崩れないか?
「おやっさん、いるかぁ~?」
「うるせぇぞ、ピア!お前さんは毎度毎度…」
ぶつぶつ言いながら出てきたおじさんがなぜか俺を見て驚いているが、
俺もいっぱい驚いていた。
まず小屋の中がおかしい。
ピアがちょっと屈みながら入ったのに、中はすごく広くなってた。
ピアが立ってもまだまだ余裕がある高さ多分4mはある。
奥行きも外観的には3m無さそうだったのに30畳か、それ以上ありそうだ。
『空間魔法っスね』
ソックスが念話で教えてくれた。俺しか聞こえないらしい。
やっぱりあるんだ空間魔法。マジックバッグがあるもんな。
その内絶対覚えたいっ。
そう思いながら、ところ狭しと置かれてる商品を何気に見てたら
出てきたおじさんが【ドワーフ】だった。初の他種族。
ドワーフだよな?背が160cm無さそうなのにがっしりした体型、そして顔を埋め尽くす様に生えてる髭。
そんなおじさんが驚いてるの、なんで?
「お、お前さん人族だよな?なんだいその魔力の多さはっ?!」
ん?魔力の量なんか見えるの?
『鑑定スキルの劣化版みたいなもので、多分物や人の魔力が色なんかで見れるみたいっス。鑑定水晶に似てるっスね。
ドワーフやエルフなんかの比較的魔法に長けた種族に多いスキルっスね』
なるほど、ありがとう。
便利なナビみたいだな。
「こっ、こいつは突然変異みたいなもんだ!」
ピアが誤魔化してくれたけど、下手くそだな。
「あ~、お前さんも巨人族の突然変異だもんな」
それで納得するんだ。て言うか、ピアって巨人族なのか?
驚き過ぎてもう訳がわからん。
「そんで今日はどうしたんだい?」
「ちょっと訳あって二人で旅に出るんだ。その買い物」
もう話題が変わって置いていかれてる。
ヤバい、食いっぱぐれるぞ。
「あの!食料品はどこでしょう?」
「食料品?どんな系統が欲しんだい?」
系統?意味が分からずピアと顔を見合わせる。
と、確かめないといけないことを思い出した。こっそりピアに耳打ちする。
「なぁ、マジックバッグって貴重品だろ?おじさんに内緒だよな?」
そうなると買い方を考えないと余り大量に買うと怪しまれる。
「いや、大丈夫だ。メンテナンスもここでやってもらってるからな」
やった、それなら安心して爆買いできる。と言っても昨日ロマンスグレーな紳士にもらった金貨分しか持って無いけど。
俺は昨日から考えてた、欲しい物を頭に思い浮かべる。
こんな時、メモが欲しいな。紙ないんだよな、めっちゃ不便だ。
「ピアのマジックバッグに入れてもらうんで、日持ちのする物が欲しいんです。とりあえず小麦粉とか塩とかその辺の物ありますか?」
あと米がないにしても大麦があれば代用できるかな?あの酸っぱくて硬いパンじゃあ食欲激減だからな。余裕があったら麦茶も作ってみよう。
生活魔法が使えるようになったから、調理器具と合わせて買ったらいろいろ出来そうだ。
と言っても男の料理だけどな。
そんな風に考えてたのにおじさんに思わぬ事を言われた。
「何言ってんだい?お前さんの方がもっとすげえマジックバッグ持ってんのに」
おじさんこそ何言ってんだ?
俺が持ってるのは、ソックスのカゴ鞄と前の世界からのスリーウェイのビニール製のビジネスバッグなのに…
「ほらそれだよ、変わった型に素材も見たことねぇな。これ【マジックバッグ】だろ?魔力を感じる。
すげぇ性能良さそうだぞ。どのくらい入るか想像つかねえ、ひょっとしたら時間遅延なんて付いてるかもな」
機嫌良さそうにガハガハ笑ってる。
ピアもつられて笑ってるけど今一わかってなさそうだ。
…どういうことなんでしょうか、ソックスさん?
『すんませんっス、オレも意識してなかったっス。よければ【鑑定】してみて下さいっス』
ソックスもえらく慌てる。
そうだな自分で鑑定すればいいんだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
異世界産 マジックバッグ(ケン専用)
容量 ∞
時間停止(生物不可)
備考 素材はこの世界にない
型は今後出来てくるかも?
異世界より持ち込んだ物は使用しても補充される
(異世界物取り寄せスキルの代わり?)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
余りの事に意味が分かりません。
俺が固まってるとソックスも鑑定画面を覗き見てきた。
「うにゃっ」
(何やってるんスかあの方はっ!やり過ぎっス、百歩譲って容量、時間停止は目を瞑るとしても、【異世界より持ち込んだ物は使用しても補充される】ってなんスか?!)
と、兎に角詳しい事は要検証ということで、時間停止があるんだから、生物も入れても大丈夫ってことだよな!
気を取り直そうと奮起してる間のピアとおじさんの会話は俺の耳には入ってこなかった。
「よう、本当に何者だ?あの兄ちゃん。いや客の詮索はしねぇがな。あれわかってんのか?
今多分超レアな鑑定スキル使っただろ?俺みてぇな同系統のスキル持ちにはわかっちまうぜ。しかも俺よりかなり上等ってのもな。それにあのマジックバッグもかなりの代物だ。王族でも持ってねぇんじゃねえか?」
ピアは考えるのが苦手だ。でも考えないといけない。
どうやってケンを守るのか。
「ちょっとうっかりなところはあるけど、すげぇ人なんだ。
俺がぜってえ守る!」
「お前さん、あの兄ちゃんの為に騎士様辞めたのか?ゲイツ様はどうした?」
「許しをもらってる。頑張れとも言ってくれた」
「そうか、よかったな」
しんみりするピアとおじさん。
気を落ち着けようとする俺とソックス。
まだ買い物の一つもしていない。
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