続・赤毛の巨人は勇者に夢を見る(ケンの感想を添えて)
宜しくお願いします。
少し残酷な話があります。ご注意下さい。
俺が聞いた勇者の話は、正義感に溢れ、自ら進んで先頭に立ち魔物を駆逐した堂々たる姿だった。
こんな苦悩に満ちた人間味溢れる姿なんて聞いた事がねえ。
俺が考え込んでいると、ゲイツ様が言い訳のように話を締めくくった。
「まあなんだ、もうその魔法契約の期限が切れているようでな。せめてわしやそなたの代でそのような悲劇が起こらねば良いなと思ったまでだ」
俺はこのゲイツ様の言葉を後で思い出し、これがケンが言ってた「フラグがたった」って事だと思った。
ゲイツ様からそんな話を聞いて暫く、第二王子の乱行は酷くなる一方で、侯爵令嬢への態度はきつくなるし、俺の心身もボロボロだった。
(苦痛耐性スキルが生えてねぇのが不思議なくらいだ)
そんな中でついに第二王子は取り返しのつかない事をしでかした。
ある夜会で侯爵令嬢に婚約破棄をつきつけやがった。
興奮している第二王子とマリーたち三人。それに対し冷静で平常心に見える侯爵令嬢。
皆遠巻きに様子を伺っていて、俺は疲れ過ぎていたこともあって余りの事に驚き、近くにいるのが五人と俺だけになっていることに気付くのが遅れた。
侯爵令嬢の態度が常から馬鹿にしている様に感じていたのに、こんな時にまで冷静なことに余計頭にきたのか、あろうことか俺の腰の剣を抜き侯爵令嬢に襲いかかった。
俺の動きは女三人に抱き付かれて塞がれ、一瞬反応が遅れちまった。
夜会に唯一武器を持ち込める衛兵も俺の部下の近衛も間に合う所にいねえ。
必死で侯爵令嬢を庇おうと間に入るが、普段から剣の稽古をしてねぇ型もねぇへっぴり腰に興奮も相まってか、動きが読めねぇ。
第二王子を傷付ける事に躊躇った刹那、刃先が侯爵令嬢に迫り俺は抱き込んで庇う事しか出来ず、刃先は俺の右頬に深く突き刺さった。
「きゃー!」
飛び散る鮮血、誰かの悲鳴。
それでも動揺を見せねえ侯爵令嬢は流石だなと覚めた頭で思い、第二王子と侯爵令嬢は俺とよりも相性が悪かったんだなと今更ながらに思っていた。
俺が怪我をした事で、万が一に備えて予め言い含めていた部下と衛兵が第二王子たちを取り押さえた。
「私は第二王子だぞ!次期国王に対して無礼であるっ、離せ!」
喚き散らかすけど残念だったな、国王陛下からもしもの時の捕縛許可は貰ってたんだよ。
当然夜会は中止になり、第二王子たちは最悪の結果に終わった。
第二王子は侯爵令嬢との婚約を有責で破棄され、私財で慰謝料を払うこと。王位継承権の凍結に加え、次期国王との虚偽の発言の重さを鑑み幽閉され、再教育する事となった。
被害者の俺が平民である事、侯爵令嬢が罰を大きくして長々と第二王子と関わる事を嫌って、この程度で収まったとも。
マリーたち三人は、これもまた俺が平民だった事に加え第二王子の近衛だったんで、大した咎めはなく聖女がいたので三人とも教会預かりになって数年社会奉仕する事になった。
まぁ、聖女と元才女はあんな騒ぎの渦中にいたんだ、ヤバ過ぎて貴族令嬢としては終わってる。マリーも俺に対して卑怯なまねをした事が冒険者たちに伝わって、もう誰にも相手にされねえだろう。
しかも偶々会った時に
「何その醜い傷!只でさえ厳ついのに化け物じゃない!婚約なんて破棄よ、破棄っ!」
と喚かれた。いや聞いてねえのか?既にお前有責で破棄されてっし、慰謝料ってことでギルドに預けてた金を受け取ってる。最近金遣いが荒くなっててほとんど残ってなかったけどな。
はぁ、何年もがむしゃらに頑張ってきたのにこの結末は虚しい。
すっぱり騎士を辞めるにしても第二王子やマリーの事がすっきり片付いてねえ気がして割り切れない。
そうやってウダウダしてる内に行われた勇者召喚。
何も聞かされず、国王陛下たちが留守なのをいいことに、城内にある教会に部下共々連れて来られ唖然としている間に収まった光から現れた、まだ幼さの残る少年(年上だったのには心底驚いた)。
騒ぐ第二王子と司教たちを冷静に観察し、鑑定水晶の結果にも動じる事もねえ、第二王子の無茶振りを受け流し、多分敢えて怒らせて城を追い出された。
彼は知っていたのか、わかってはいたのだろう。自分が私欲で召喚されてそのままじゃあ良いように使い捨てされていた事を。
俺は彼が追い出された後すぐに鎧を脱ぎ捨て、剣を置き言ってやった。
「この様な非道な犯罪者に仕えるのは、私の矜持に悖る。お役御免致します!」
敬語苦手なのに噛まずに言えた!
幸先いいぞっ。ゲイツ様に話を聞いてからいっつも心に引っ掛かってたんだ、勇者様!
もし無体な召喚をされたんなら俺が必ず手助けするんだ、絶対独りにはさせねぇぞ。
あのスタンピードで出会った絶望からの希望になったゲイツ様のように俺がなる。
ゲイツ様もきっと許してくれるはずだ。
よろしく頼むぜ、勇者様!
□ □ □ □ □
とりあえず一言言っていいかな…
「長い」
俺のちょっと低くなった声に、話終えて満足していたピアがビクッとなった。
ピアの波乱万丈な半生も先代(?)勇者の悲壮な人生も心に詰まされるものがある。
話し方もうまかったから思わず聞き入ったけれども敢えてもう一度言おう。
「長い」
大事なことなので二度言いました!
いやもう本当に長かった。だって宿に着いたのが太陽の傾きからして昼過ぎだったのに、話の途中で教会の六つの鐘が鳴って慌てて宿の人に断って、ピアの分の食事も一緒に部屋に運んだんだけどそれがもう冷めちゃてるからな。
「とりあえず話が一旦落ち着いたなら、せっかくの食事だから先に食べよう」
椅子もテーブルも足りてないから食べ難いけど…と思ってるとピアから「待った」がかかった。
それから彼が身に付けてるボディバッグの様なものを漁って取り出しました、テーブルと椅子。
「はあっ?」
「おう、テーブルと椅子がなきゃ食いにくいもんな」
じゃなくて!これは異世界の話でかの有名な【マジックバッグ】と言うやつじゃなかろうか?!
この世界に来て初めての魔法っぽいのきたっ。
自分で結界張ったみたいだけど目に見えてないからな。
興奮して震える指で指しているのに気づいたピアがニカリと笑った。
「マジックバッグ見るのも初めてか?これは俺が騎士になる前に鍛練がてらダンジョンに潜って見つけたもんだ。時間停止はねぇが、この部屋の倍は入るから重宝してんだ」
大・興・奮っ!!
これが見れただけでも長い話を聞いたかいがあったなっ。
興奮してたせいもあって俺は気付かなかった。
【マジックバッグ】が手に入るのは、Aクラスの冒険者でも難易度の高いダンジョンだということを。
それをピアが13歳にもならないうちに踏破したということも。
少し落ち着いて改めて食事をする事に。
うーん、でも冷めてるんだよな。せっかくの異世界初の食事だから万全な状態で食したい。
なんかないかな、電子レンジみたいな魔法…
「チーンッ」
はい、考えてたら温めが出来ました。
本当ちょっと怖いぞ、俺のチート魔法。何か問題が起こる前に検証せねば。
とりあえず驚き過ぎてあんぐり開けてるピアの口を閉じといた。
再度改めて食事をば。
メニューは黒パンに野菜たっぷりのスープ、メインは俺の顔ほどあるステーキ(何の肉かはわからない)
ちなみにピアの食事はこれの倍。いやステーキは3枚あったわ。
そういえば、飛ばされる前は豆腐ステーキを食べようとしてたな。
あの豆腐やら大根やらはどこに行ったんだろう…。
そんなことを考えながらパクリ、
「………」
カシャン、カトラリーが俺の手から滑り落ちた。
俺は顔を伏せうち震えた。
「ケンどうした?まさか毒?!いやこの宿に限ってそれはねぇ、えっ、じゃあなんだ…?」
ピアが狼狽えてるのにも構ってられない。
だって残念なお知らせです。
この世界は飯マズでした!
なんてこった!!
ありがとうございました。