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赤毛の巨人は勇者に夢を見る

宜しくお願いします。


ピア回想回です。

少し残酷な話があります。ご注意下さい。

□ □ □ □ □



俺は頭が良くねぇ、でもこれだけはわかるんだ。


異世界からの召喚なんざ帰ることもできねぇんだから、ただの誘拐だってな。



◇ ◇ ◇ ◇



俺が生まれたのはアールスト王国の中でもすげぇ田舎で、物心ついた時にはすでに孤児だった。

田舎なもんで孤児院なんてものもなく、近所の手伝いをして残飯や野菜の切れ端なんかを貰ってなんとか生きてた。


悪さなんかしねぇよ!


綺麗事かもしんねぇが盗みとかそれだけはやっちゃなんねぇ、て自分に誓ってたんだ。

そうしてたら近所の村とかからも孤児が集まって来て、いつの間にかそいつらのまとめ役になってた。

そん中にケンにアマゾネスって言われた【マリー】もいたんだ。


俺が10歳になった頃、仲間の人数も20人位になってて、近所では割りと有名になってた。

その頃の俺はすでにちょっと小柄な大人ぐらいに大きくなってたから、冒険者の代わりに畑を荒らす魔物を退治したりしてた。

仲間たちも連携したりして、もう食うのに困らないくらいにはなってた。


そんな生活が変わったのはスタンピードが起こったからだ。

なんにもできなかった。村人や仲間たちを助けたかったのに、あっという間に呑まれて必死で逃げて気が付いたらマリーを抱えて大岩の上でうずくまってた。

どのくらいたったのか、不意に腹の底に響く声が耳に届いた。


「その岩の上にいるのは誰かっ?!」


反射的に顔を上げ声がした方を見ると魔物の血にまみれた、けど威風堂々とした立ち姿。

当時既に大将軍だったゲイツ様だった。

この時俺には話に聞いていた、確かに勇者に見えたんだ。


ゲイツ様は唯一生き残った俺たち二人を王都にある自分の屋敷に連れてきて、面倒をみてくれた。

俺は恩に報いる為にも必死で学んだ。馬鹿だけど読み書きや簡単な計算もできるようになって、ゲイツ様の私兵団の中でも強い方になった頃には身長も今と同じぐらいになって13歳になってた。

そしたらゲイツ様に王城の騎士にと薦められて住まいを王城の宿舎に移る事になった。

マリーは独りで屋敷に残るのを嫌がって、冒険者になると屋敷を出てしまった。


そっからもマリーとの縁は切れねぇで、俺が16歳で最年少の部隊長になった頃、元々俺に惚れてたらしいマリーが痺れをきらして、すべてを奪われてしまった。

男として情けねぇが、けじめをつける為に将来を誓って婚約した。

家族ができるんだと思ったら心があったかくなって力が湧いてきた。


益々頑張る俺が騎士団の奴らには気にくわねぇらしい。

お貴族様出身が多いあいつらが平民出の俺が上に立つのも嫌だったんだろう。

嫌がらせで、食事がカビた物や残飯になったり、部屋に虫が放り込まれたりした。

なんとも幼稚な嫌がらせだ。こちとら元田舎の孤児だ。そんくらい日常茶飯事だった、どうって事ねぇ。

平気な顔をしてたら段々俺を認めてくれだしたのか、一部では「兄貴」なんて呼ばれる様になってた。

孤児だった仲間たちの事を思い出したが、年上もいるのはなんでだ?


そして俺が20歳になって、マリーも冒険者ランクがCになりボチボチ身を固めようとしていたらゲイツ様に待ったをかけられ、なんと国王陛下の前に連れて行かれた。

緊張で良く覚えちゃいねぇが「ちょっと頼りない第二王子の近衛になり、努力する様をみせて欲しい」って事らしい。

ゲイツ様が俺の努力を認めて国王陛下に推挙してくれたようだ。


第二王子は出来のいい第一王子と比べられて、腐ってたらしい。

勉強や剣の稽古もせずに遊び回ってた。

いよいよ学園に入学するとなって危機感を覚えた国王陛下が、頭は悪いが努力家である俺の事をゲイツ様から聞き何か学んで欲しいと、兄より年が近いこともあって側に仕えさせる事を決めたらしい。


まぁ、結果から言えば相性が悪すぎた。

平民出で粗野な媚びも売らない俺が第二王子に気にいられる訳がねえ。

ここでも幼稚な嫌がらせを受けた。いや、権力がある分もっと質が悪りぃ。

熱い茶をかけられるのは日常で、四つん這いにし椅子代わりにされたり、弓矢の的にされたりもした。

第二王子は平民に何をしてもいいと思ってる選民思考の持ち主だった。

身体強化の魔法が使えなかったら多分死んでたな。

この時期に物理耐性やらのスキルが生えたんだろう。

(スキルの事は後日ケンに聞くことになる)


そんな事をしている第二王子の側にまともな人間が寄り付くわけもねぇから、気付けば周りは太鼓持ばかりになってた。

それでも注意してくれる人はいた。婚約者の侯爵令嬢だ。

俺が酷い目にあっていると度々助けに入ってくれたけど、逆に令嬢が酷い事をされねぇかとヒヤヒヤしたもんだ。


そうなると矛先が侯爵令嬢に向かい、当て付けのようにあちこちで女に手を出し始めた。

俺も侯爵令嬢も諌めたが余計酷くなりいたちごっこのようだった。


それが更に酷くなったのは、第二王子が最終学年になり下位貴族から珍しい光属性の魔法持ちの聖女が現れてからだ。

常に複数の女を侍らせるようになった。

聖女や学園きっての秀才で卒業後は魔導師団に入団確実と言われた才女。それにマリーまでいた。

マリーは俺への当て付けだろうな。


割りと限界だった。ゲイツ様への恩がなきゃ逃げだしていた。

そんな時偶然ゲイツ様と会い久々に話をする事ができた。


「中々苦労を掛けているようで済まないな。もう少し辛抱してくれ」


「…大丈夫です」


ゲイツ様に声をかけられただけで力が湧いてきた。俺は単純だ。

嬉しくなり出会った時の事を思い出していた。


「スタンピードで死ぬのを覚悟した時、貴方が現れて勇者様だと思った…です」


俺の言葉にゲイツ様は珍しく眉間にシワを寄せ悲しそうに言った。


「勇者…、勇者なぞろくなものではない…」


意味がわからず小首をかしげると言い直された。


「いや、勇者召喚がろくなものではないのだ」


そう言ってゲイツ様は勇者の事を語ってくれた。

ゲイツ様の何代かわからない程前の先祖に召喚された勇者がいて、その手記が家宝として伝えられているらしい。



当時、魔物が大量に発生して大陸中が危機に瀕していた。

魔国も含めた各首脳陣が知恵を出し合い古の召喚儀式を執り行う事となった。

丁度大陸の中心に位地するアールスト王国の教会で行った召喚で現れた勇者はまだ十代半ばの少年だった。

こちらの世界では成人したての年齢だか、彼はまだ学生の子供だったのだ。

辛うじて言葉は通じるようだが、知らない世界、知らない人たち、彼には恐怖でしかなかった。

泣き叫ぶ彼を見てここでやっと各首脳陣は誘拐という犯罪を犯した事を悟った。

元の世界に帰す術はなく、それでも鑑定水晶が表す眩いばかりの五色の希望。

頭など下げた事のない面々が必死にすがる姿を見て少年は落ち着きを取り戻していった。

人の振りを見てかえって冷静になるという謂わば荒療治ではあったが。


それから魔法などこちらの世界の事を急いで学び、魔物を駆逐する為奔走した。

いつの間にか五年という月日が流れ彼は元の世界でも成人の年になっていた。

既に魔物は現地の者でも対処できる程に減っており、手に負えない強い魔物もどこかに隠れ出てこなくなっていた。

数年ぶりの平和が訪れたのだ。

皆歓喜し勇者たる彼を崇めた。彼の心が蝕まれている事も知らずに。


各首脳陣は平和への功績に恩賞を与える事にした。世界を救った者に対して尊大な態度にも気付かない。

「褒美は何が良いか?」と聞かれた勇者は言いはなった。


「もう二度と勇者召喚はしないと約束して欲しい。召喚は誘拐という犯罪である事を自覚してくれ」


各首脳陣、いや皆が忘れていたのだ。勇者が惜しみなく働いてくれていたから、もう赦されていると思っていた。

そんな訳はない。いきなり世界を奪われて赦せる者がいるだろうか。

二度と勇者召喚をしないよう魔法契約をし、それを教会にて永久に保管する事となった。

この契約に期限が設けられていた事を勇者が知ったのは、彼がやっと心を落ち着かせ伴侶を得て子供を授かった後だった。


裏切られて赦せない気持ちと愛する者がいること。

彼は晩年までもがき苦しんだ。


手記には最後まで【勇者召喚は犯罪だ】と記されている。


人の裏をあまり見ないお人好しです。


ありがとうございました。

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