赤毛の巨人とお話します
宜しくお願いします。
俺は今、ロマンスグレーの紳士に教えてもらった治安そこそこ安い従魔okな宿に向かっている。
城を囲うように貴族街があって、その外に平民の富裕層、さらに商店街、職人街となり一番外壁に近い所が一般的な平民(雇われなどの)あと冒険者なんかの住まいだと。
そしてそこから溢れた者もいて、所謂貧民街、スラムというものだ。
現代日本でも多少の貧富の差はあったけど、ここはそれが如実に表れてる。
あんな馬鹿な第二王子が好き勝手出来るんだからこの世界は産まれである程度人生が決まってしまうんだろうな。
そんな真面目な事を考えてしまうのも建物自体の造りが目に見えて違うから。
城や貴族街は石壁を白く塗った物が主で平民の富裕層は石壁剥き出しが増えてきて、商店街職人街には木造建てが半々、一般層になるとほとんどが木造だ。
貧民街なんて木の板を立て掛けただけなんてざらにあるらしい。
この辺はロマンスグレーの紳士に聞いた話で、治安が悪いから近付かないように言われた。
ロマンスグレーの紳士の店は商店街でも富裕層よりにあって、今から行く宿は一般層の中にある。
ちょっと稼げるようになった冒険者や行商なんかがよく利用する所らしいので、俺が泊まっても悪目立ちしないだろうとのこと。
本当に至れり尽くせりである。
それにしてもこの世界にはまだ(?)ガラスが普及してない様で、中の様子が窺えない。
教えてもらった宿に着いたんだけど何となく躊躇ってしまう。
そう、躊躇った俺が悪い…、……悪い…のか?
宿屋の前でちょっと躊躇った間に、背後に赤毛の巨人が現れて指差しながら叫ばれた。
「いたーーーー!!」
そして土下座までかまされた。
へー、この世界にも土下座あるんだなぁー。と現実逃避してしまう。
【赤毛の巨人】、そう召喚の間にいた俺が鑑定したピアさんだ。
遠い目をした俺、土下座をかます巨体なピアさん。
宿の前でそんな事をしてたら当然宿の人が出てくるよね。
「なんだい、ピアの旦那じゃないか。そんな所に居られたら営業妨害だから中に入りなっ。ほらそこのあんたも!」
宿のロビー(?)まで引っ張り込まれて、そこでも土下座しようとしたピアさんを止めつつ
「あの、一泊泊まりたいのですが。それと従魔も大丈夫でしょうか?」
黒ネコが入っているカゴ鞄を開けて見せた。
ちょっと顔を上げ眠そうな目をしながら「にゃ~」と宿の人に可愛らしくご挨拶。
俺はそんな可愛い鳴き声されたことないんだがどういう事かな?
相手を見るなんて本当に人間っぽい。
「こんな可愛らしい従魔なら部屋でも大丈夫さ。一泊二食朝晩付銀貨6枚だ」
「お願いします」
銀貨を渡し代わりにカギをもらって部屋へ。(素敵ロマンスグレーの紳士が両替もしてくれたのだ)
晩御飯は教会の鐘六つ時だそう。
さて、それまでにこの赤毛の巨人をどうにかしなくちゃな。
六畳ぐらいの部屋にシングルベッドとサイドテーブルに椅子が一つととてもシンプルな部屋だ。
まず黒ネコをカゴ鞄から出してやるとベッドの上に乗って暫く臭いを嗅いだあと枕元で丸くなった。
その間も閉めた扉の側で所在なさげにしているピアさんに椅子を勧めた。
悪意があったり、連れ戻そうと思ったりしてなさそうだから部屋に入れたけど、さて。
まずはやっぱり自己紹介だよな。
あれだけ話してたのに第二王子たちにも自己紹介してないんだよな。あいつらが一方的にしゃべってたのもあるけど。
「改めまして、異世界から召喚された沖田健士朗と申します」
「お、私はピアという…ですっ」
俺が自己紹介すると慌ててがばっと頭を下げて返してくれたけど敬語苦手なのかな?
そして「ああっ!」と叫びながら頭を抱えた。なんか騒がしい人だ。
「そうか殿下たち、いや俺もだ。自己紹介すらしてねえのか…」
嘆いてるけど、そうなんだよ、召喚成功万歳で、水晶で鑑定されて、ハーレムの素晴らしさ(?)を否定したら追い出されたんだからな。
あー、それよりここの壁薄いだろうから話をするなら、なんかないかな?
(結界)と(防音)だよな。
と思ってたら部屋の中が何かで満ちた。
ピアさんも気付いたのか部屋中を見渡してる。
「結界を張ったのか…ですか?」
「どうでしょう…?召喚の話をするなら部屋を防音したいなと思っただけなので」
「はぁ~、無詠唱で防音結界とは、やっぱ勇者すげ~」
うん、俺もびっくりだよ。これも後で要検証だな。
「ところで敬語は結構ですので、話があるならとっとと始めましょう」
ピアさん自体は大分いい人なんだろうけど、あの召喚の間にいた時点で印象悪いんだよ。
俺の言葉に喉をつまらせ、泣きそうな顔をしてまた頭を下げた。
「申し訳なかった!謝って済むことじゃねぇけど、俺じゃあ殿下たちを止められなかったんだ!」
へぇ~、ピアさんは悪いと思ってるんだ。っていかんな、いちいち嫌味っぽくなる。
話が進まないから我慢せねば。
「ピアさんが悪い訳ではないので謝罪は結構ですよ。それより疑問があるのでそれに答えてもらえますか?」
「も、もちろんだ。俺にわかる事ならなんでも話す!」
「じゃあまず、あなたもあの場にいたからには其なりの地位だと思うのですがどういった立場の方ですか?」
俺はベッドに腰掛けながらピアさんに質問した。
ピアさんは顎に軽く握った拳を当て暫く考えた後答えてくれた。
「あんたも敬語もそれからさんもいらねえ。ええっと、俺は一応あの第二王子の近衛隊長だった」
やっぱり結構偉い人だったんだな。ん?でも…
「じゃあそうさせてもらうけど、ごめん失礼だけどピアって名字が無さそうだし平民だよな?それで近衛隊長ってすごいな」
「こっちの地位の事わかるんだな。まぁ、俺を近衛隊長にしたのは国王陛下だったから第二王子は気に入らなかったけどな」
なんとなく地位とかわかるのはラノベなんかの浅い知識だよ。
「気に入らないって?」
「平民なのも、図体がでかいのもだ、年が近いせいか陛下たちからよく比べられてたからだろうな」
確かにあれは差別しそう。それに側に置くのに見目も気にしそうだな。
俺からしたらピアは十分漢前だけど。…ん?
「ちょっと待って、第二王子と年が近いってピア幾つなの?」
「俺は23歳だ」
まさかの年下でしたっ!
30歳過ぎに見えてたんだが!
「ケンチリョーは幾つだ?」
「ケンでいいよ、俺は26歳だよ」
ピアが「そんな馬鹿な…」って呟いてる。日本人って若く見えるっていうしお互いに勘違いしてたんだな。
それにしても俺の名前って発音しにくいのか。
「ところで近衛隊長ってことは情勢にも詳しいと思うんだけど、魔国が攻めて来ようとなんかしてないよね?」
「なっ!なんでわかったんだ?!」
すごい驚いてるけど、俺の方が驚きだよ。
「他国に攻められそうになってるんだったら街中ももっと殺伐とした雰囲気になってるだろうし、あんなふざけたメンバーで戦おうとはしないだろ?」
「ふ、ふざけたメンバーって…、あの大剣持ってた奴なんか冒険者ランクBなんだぞ」
あ、やっぱり冒険者いるんだな。落ち着いたら冒険者ギルドとかみてみたいな。
まぁ今は置いといて。
「え~、あのビキニアーマーなんか絶対防御力低いよな?高ランク冒険者がそれでいいのか?」
「前はもっとちゃんとした皮鎧着てたんだ!依頼もマメにこなしてたし、訓練も欠かさなかった!」
あっれぇ~?ピアさんったらなんかムキになってないですかね?
「もうさ、あのビキニアーマーアマゾネスとの関係とか、なんで勇者召喚したのかとか、勝手に召喚して悪かったと思ってるなら全部話してよ」
ぐっとなって「アマゾネスって…」と肩を落として項垂れてしまったけど、諦めたように話しだした。
ありがとうございました。