マフラーとゾルト
「──旅館は……あれだな」
──クロードの『縮小』によって元の十数倍の小ささになったアーサーをマフラーの様に首に巻いた僕は、飛行デバイスで空を駆けて宿泊していた旅館を目指していた……その途中で『ゴースト』の集団を幾つか沈静化させてきたが、それはまあ良いだろう。
「シャー?」
「確かに。あんなに目を引くのに、よく爆破されてないな」
アーサーの『どうして爆破されていないのかしら』という呟きに僕は相槌を打った。
僕らが泊まらせてもらっている旅館は豪華絢爛、『ゴースト』の連中からしたら真っ先に狙いたい建物に違いない。
だというのに、僕らの視界に映るあの旅館は爆破された跡の一つもない。
「どうしてだ?」
『ゴースト』がどうしてこんな爆破騒ぎを起こしているのか──その理由を僕はまだ聞いていないが、何となく引っかかる。
いや、そもそも『ゴースト』がそういう集団だと言われてしまえばそれまでなんだが。
うーん、うーんと悩んでも、どうして爆破魔法を受けていないのか答えが出てこない。
──しかし、その疑問は以外にもすぐに解けた。
「──『爆破』付与『針山』」
「ん? って、あっぶなっ!」
旅館がすぐそこという所まで迫った瞬間、地上から無数の針が飛来してきた。
確実に僕の事を狙っているその魔法は、圧倒的な魔法制御能力から僕の退路を確実に断ってくる。
「チッ……アーサー!」
「シャシャー!」
それを前に僕は首に巻いていたアーサーを解いて腕に巻き付けると、アーサーを盾に無数の針に対して真正面に立ち向かった。
アーサーの鱗は僕の本気の斬撃をも弾くほど硬質。遠距離から放たれる針程度、容易に防ぐ事が出来る。
「しゃぁ〜〜」
──寧ろ、針の衝撃が気持ちが良いようでアーサーの顔はいつになく緩んでいた。
「──ッ!『鬼手仏心』」
地上から魔法を放ってくる存在は針による攻撃は効果がないと気付いたのか、魔法を変更して再び放ってこようとしてくる。
しかもその魔法は、三大難関魔法の一角にして攻撃魔法。
これは当たったら流石のアーサーもマズい。
という事で──
「そろそろ悪ふざけはやめようか──ゾルト?」
「ありゃ、イティラさんでしたか。これはこれは、失礼しました」
「いや、気付いて魔法を放ってただろ……」
飛行デバイスに注ぐ魔力量を一気に増大させる事でとてつもない速さを生み出し、射手であるゾルトへ接近して押し倒した。
押し倒すと共に首元に手刀を突きつけると、流石に魔法の発動をやめてくれた──この距離で『鬼手仏心』を放たれたら死んでたな……。
「どうしてこの旅館が傷付いていないのか不思議だったが、ゾルトが守ってくれていたんだな」
「まあ、はい。好敵手にどうしてもと頼まれたので、仕方なく」
あの魔王と同じ魔族にして、魔王の力を継いでいるゾルトは強者を尊び、弱者を好まない。
だというのに、こうしてまだ認めていないクラスメイトをゾルトに守らせるとは──この大陸に来る船の中で一緒に鍛錬していると思っていたが、まさかそんなに仲が深まっているとは。
強力だが性格に難ありなこのゾルトを飼い慣らせるのなら、アレンにはより一層頑張ってもらいたいな。
万が一の戦力としてこれ程頼もしい存在はいないのだし。
「先生が中で待ってます。どうぞ中に」
「ああ、ありがとう」
旅館の門番として立っているゾルトは直々に中へと繋がる大門を開けてくれた。
それに従って中に入ろうとした時、彼は僕の耳に顔を寄せて小声で言ってきた。
「──僕との約束、忘れないでくださいね」
「……そうだったね」
『ゴースト』の拠点を襲撃した時、あそこまでスムーズに事が進んだのはゾルトが僕の頼みを聞いてくれたからだ。
その代わりに条件を吹っかけられたのだが、どうやら忘れてはくれていなかったらしい。
その条件とは──僕と一対一の本気の決闘。
この大陸に来る前、アレン達が剣の無い僕の代わりに戦ってくれた決闘、それを今度は正真正銘、僕が相手になれというのだ。
正直、ゾルトと一対一なんて勝てる見込みが全くないし、もっと言うと死にに行くようなものだ。
それに、ゾルトが求めているのは決闘。互いに何かを賭けて行う正式な戦いだ。
そこで負けたらまた何か要求をされてしまう。
最初から弱気でいる事は良くないのは分かっている。
だが、仕方ない。相手はゾルトなのだから。
そもそも強いというのに、アレンとの鍛錬で明らかにもっと強くなっている。
僕の見立てでは、生存本能と同格かそれに少し劣るくらい。
──それにどうやって勝てというのだ。
いやまあ、その時になったら生存本能の力を頼ればいいのだろうが……決闘でそんな特大のズルは出来ればしたくない。
どうやら決闘はすぐでなくて良いらしいから、それまでに自分をもっと高めるしかないのだが──
「はぁ……」
気が重い事は変えられないんだよなぁ……。
僕はどうしてか重くなった足を一歩一歩と前に進めて、刻一刻と迫る未来へ向かって行くのだった。
首にへび……どこかの柱みたい




