筋肉と剛拳
『昼休憩を挟みまして、本対抗戦最後の種目となる力のトーナメント戦の開幕を宣言いたします。さて、今のところ勇者学院がぶっちぎりの一位。今年も勇者学院に優勝の座を渡してしまうのか!!!』
終始変わらない元気の良い司会を進めるレオナルドさん。こんなに多くの人がいる前で同じ態度で物おじしないで突き通せるのは本当に凄いと思う。
トーナメント戦はそのままで各ブロックに分かれて勝ち抜き戦で進んでいく。同じ学院がぶつかった場合、試合を放棄して任意の選手を勝利させることも出来るらしいけれど、学院の威信を守るために基本的にはされないらしい。入学志願者が少なくなってしまうのは困るという一因もあるのだろう。AとDブロックの準決勝者、BとCの準決勝者が戦い、最終的に優勝生徒一名を出すらしい。
僕が振り分けられたのはAブロック。見る限り、屈強な生徒やバトルロアイヤルで翔剣学院を裏切っていた生徒、隠密の生徒もいる。
ロニエ、キョウカ、アレンはそれぞれB、C、Dブロックと別々のブロックに当てられたらしい。もしかしたら、その辺の票操作は学院長が行ったのかもしれない、偶々という可能性もあるけれど。
Aブロックの第一試合、僕の最初の出番は直ぐだ。僕はしっかりと整えられているが、これからの戦いでボコボコになるであろう試合会場に立つと相手となる屈強で全身が筋肉で出来ているような相手も会場に登ってきた。
『始まりました力のトーナメントまずAブロック、第一試合はイティラ選手とアルガレム選手の試合です。イティラ選手は言わずと知れた魔王撃退者、対するアルガレム選手はその身一つで辺境の村を魔物から救ったとの話があります。体格差が非常にある実力者二人がどんな試合を見せてくれるのか!』
「お前が魔王撃退を成し遂げたっていうイティラ・トロムか、想像していたよりも小さいやつだな。そんなちっこい身体で本当に魔王を相手に出来たのか?勇者のおこぼれをもらったに過ぎないんじゃないのか、ええ゛?お前に出来るのなら俺にも出来そうだなあ」
筋肉をボコボコと膨張させながら煽ってくるアルガレム。実況でもあったが体格差が違いすぎる、身長三メートルぐらいあるんじゃないのか?
間違いなく目の前のアルガレムは今まで見た中で最も大きく筋肉という厚い装甲を纏っている相手である。ちょっとやそっとの攻撃では間違いなくこの刃は届かないだろう。
「あん?黙っていないで何か言ったらどうなんだ?もしかして、本当におこぼれをもらっただけなのか?」
にちゃにちゃとした奇妙な笑顔でこちらを舐めるように見てくる。それはさながら鼠を前にした蛇のようだ。見た目は大型肉食獣に変わりないのだけれど。
「いいや、そっちの準備が終わるまで待っていただけだよ。筋肉、全部引き出すまでに時間がかかるんでしょう」
「何故それを……」
「僕に話しかけている間もずっとボコボコ動いているから時間を稼ぎたいんだろうなって思っただけだよ」
本当に不思議な身体をしている。ただでさえ大きいのに、その中により多くの筋肉を収納しているような感じである。
「そうか、待っててくれてありがとな。お礼に地に伏せさせてやるよ」
その巨大な身体で僕を絞め殺そうとするような体勢で襲いかかってくるアルガレム。あくまで僕相手に背中に背負った大剣は使用しないらしい。
「ぐふうッ」
しかし、そんな見え透いた攻撃にわざわざ当たってやるわけもなく、僕は雷轟で空中を駆け、アルガレムの鳩尾に踵を差し込んだ。
四の型と肉体と魂の結び付きを強めて、雷轟の推進力を乗せた蹴りは筋肉装甲を抜け、内側まで衝撃を運んだ。それにより軽い呼吸困難を引き起こしたアルガレムの顔面に飛び後ろ回し蹴りをお見舞いした。
普通の相手なら脳震盪で決着がついていただろう。しかし、アルガレムは脳まで筋肉で出来ているのか蹴り飛ばされた後、何事もなかったかのように飄々と立ち上がった。
「ふん、小さい身体の癖に中々やるなあ。お前みたいなタイプは初めてだよ」
「それはお褒めに預かり光栄です、ってね」
僕は地を這うようにして駆け、アルガレムの股下を抜けて背後を取り蹴りを仕掛けた。
「ただなぁ、やはり筋肉ある者が一番強いんだよなあ」
蹴り込みその反動で離れようとしていたが、蹴った反作用が来ずに距離を取れなかった。筋肉の前に止まった無防備な僕の足が掴まれて、吊り下げられる形にされてしまった。
僕はふわりと空中に投げられると体勢が崩れたままでは上手く身動きが取れなかった。
「連打連打連打連打連打ッッッ。弱き者に敗北の二文字を」
アルガレムの剛拳が無慈悲に僕を襲う。その巨体から放たれる大木の如し拳を僕は一身に受ける。至る所の骨は折れ、内出血が起きた。
しかし、いくら身体が動かせないとは言えども魔法は使える。その猛拳によって壊されていく身体を瞬時に治していき僕は攻撃を耐え忍ぶが──
(痛い、痛い、痛い。痛すぎる)
一秒に五十発は放たれるその拳といくら食らっても回復出来てしまうその魔法によってある種の拷問のようになってしまっていて、治る身体よりも治らぬ精神が先に消耗していく。
攻撃魔法を持たない僕はその猛攻を止められる術はなく万事を休す状況であった。
──しかし、身体をいくら筋肉を纏っていようと体力の消耗はしっかり起こるらしい。
一秒に五十発はなつのををもう一分は続けている。その放たれた拳の数は三千にもなる。当然、疲れが見え始めて拳の速度が段々と遅くなっていく。
それを感じた僕の意識は晴れた。活路を見出し、一発一発が視認出来るようになってきた。
──ここからは反撃開始だ。
筋肉キャラ、欲しかったんですよね。




