佐野玲士『花火大会』①
お久しぶりです。
この作品に関しては、非常に…
長くなった前髪を上げて、ピンで止める。勝負のときのお約束だった。なにが勝負かというと、他でもない須藤桜と行く花火大会であった。余計なのが何人か付いてくるけどな――
玲士は、ドが付くほど鈍感な桜を愉快に思うと同時に、苦々しく感じていた。
「もう少しどうにかならねぇもんかな」
玲士は手早く浴衣を着付けていく。昔から、和服を好む祖父母になついていた自分にとっては、大したことではない。浴衣なんて、少々気合いが入りすぎだろうか?そんなことを空で考えつつ、それでも、浴衣で行くことにした。特別な日に、なるかもしれないのだから。
私は、待ち合わせの二十分前に、集合場所に着いた。どうやら、心配して早く出すぎたらしい。近所の神社に行くのだから、そんなに気にしすぎる必要はなかったのかもしれない。そこには、予想通りの孝史くんと、予想外の佐野先輩がいた。孝史くんが手を振る。
「桜ちゃん、早いね」
「孝史くんこそ相変わらず」
それに返事するように、孝史くんは小さく笑った。やはり、こういうところで性格は出るもののようだ。そして、Tシャツにジーパンというラフな格好の孝史くんから佐野先輩に目を移すと、様になる浴衣の着こなしに心の中で拍手をした。なんというか、かっこいい。
「佐野先輩、どうしたんですか?」
「なにが」
「なんか…」
適当な言葉がとっさに出てこない。
「上品に見えますね」
「いつもは下品ってことかよ」
というよりも、横暴だ。ただ、誤解されないために言います。ただ、言葉が出てこなかっただけなのですよ。
いつもなら、ここでデコピンなり、睨みをきかされたりするはずが、今日は例のようでなく、少し拍子抜けをしてしまった。
「ったく、まだ集まらねぇのかよ」
佐野先輩は、浴衣とは不釣り合いな金属の太い腕時計を見る。
「二十分前ですしね」
私の声に、佐野先輩は反応しない。そんなに小さな声ではなかったはずなのだが、聞こえなかったのだろうか。
「もう行くか」
呟くような佐野先輩の一言を耳からこぼしそうになるのを、すくい上げる。
さすが、俺様…。
「集合時間前に来ちゃった私たちが悪いんですし、待ちましょうよ」
「はいはい」
佐野先輩は、気だるそうに腕時計から視線を私に移す。すると、小さく「ああ」とこぼした。
「お前のこと、誰かに似てると思ってたんだよな」
「似てる?」
「似てるって、玲士の初恋の人?」
人のよさげな笑みとともに、孝史くんが話に加わる。孝史くんの突飛な発想に、図らずも心臓が小さく高鳴った。が――
「じいちゃん」
佐野先輩、年齢どころか性別まで越えるんですか?
私は、佐野先輩がいつもするみたい睨んでみたが、威厳はまったく出ないらしい。孝史くんは後ろを向いて隠しているつもりなのだろうが、肩の小刻みな揺れで、笑っているのがわかる。これは、文句のひとつでも言わなければ――
「先輩――」
「気にしなくても、悪い意味じゃねぇよ」
たぶん、キラースマイルってこういうことなんだろうな。佐野先輩らしくなく無邪気に笑ったものだから、私の中の少しの不快感は消えてしまった。
佐野先輩って、本当に、こういう顔もっとしてれば皆も近づきやすいだろうに。
ご覧いただき、ありがとうございました。
続きは、また近々。
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