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9/9

会いたくて震度7


もう一度風呂に入り、化粧し、髪も ゆるふわ☆パーマ にし、香水を吹きかける。

完璧。360度どっからどうみてもいい女だわ。17時30分に、玄関前に立ち、到着を待つ。前回の失敗から考え、待てせてはいけないと考えたのだ。私って出来る女。

案の定ムスカは45分ごろに到着した。時間に厳しい男だ。運転手の手により、玄関に向かって赤い絨毯がひかれる。後部座席のドアが開き、ムスカがエスコートしてくれた。

「昨晩の非礼を許してくれたまえ」

「いえ、私がいけなかったので……」

後ろを振り向くと、レッドカーペットに恵の歩いた汚い土の跡がついていた。

「のりたまえ」

「はい」

Sクラスベンツである。推定160万、シルバーの可愛い顔したアイツに、今私は、乗る!テンションは最高潮に達してきた。ムスカも車に乗り込み、運転手が絨毯をすばやく丸め、車を走らせる。恵は何度も何度も生唾を飲み込んだ。ごくごくごく飲み込んだ。そしてすぐに到着する。

何度みてもすっげー家!前回お邪魔したときはそれどころじゃなくて観察など出来なかったが、あらためてすんごい家だということを痛感する。玄関で靴を脱ぎ、団欒部屋のようなところに通された。

長い机の上に、数々の食事が並べられている。食べたいものを食べたいだけ食べる、バイキング形式だ。お皿とフォークを渡された。

「さあ、好きに食べるが良い。今日は君が主役だ」

主役!私が主役!人生初の主役!

「はい、いただきます!」

舌がとろけてなくなるかと思うくらいうまかった。

「どうだね?」

「こんなにおいしいもの初めて食べます」

そういうと、そばでずっとたっていたおじさんが、「ありがとうございます」といった。

ひとしきり食事を楽しんだあと、ムスカの部屋に通された。昨日私が土下座して屁こいた部屋だ。

魔王の椅子が二つ用意してある。私の分だ。座ってみると想像を超えるフカフカ具合。ここは天国だった。ムスカがボタンを押すと巨大スクリーンが出てきた。

ああ、これから甘いラブシネマを二人でみて、そしてうんこを食い合うんですね、わかります。

「さあ、はじめようではないか」

そういってはじまったのは、天空の城ラピュタだった。目をキラキラと輝かせている。

「この映画を何万回と見たことか……」

2時間強にわたる作品の中、ムスカは画面のムスカとまったく同じ声、同じ抑揚でセリフを言っていた。ここまでくると尊敬する。

「すばらしい作品だと思わんかね」

「はい、思います」

私はもう我慢できない!!あなたと二人きりになった時点で、下半身はビチョビチョなのよ!!

恵の理性は吹っ飛び、ムスカを押し倒した。

「ムスカさん、私、もうっ」

キスしようとしたが、避けられた。オモチャを奪われた子供のような顔をして、つぶやく。

「あなたもそうなんですね、恵さん……女の人はみんなそうです、僕のことを襲うことしか考えていない」

「え?」

「みんな僕を襲います。もう現実の女性は信じられなかった。だからアニメに酔いしれた。そこで出会ったのが、恵さん、あなただったんです。キモオタの僕に、とことんついてきてくれるその姿勢。まっすぐな謝罪。僕のことを本当に愛してくれているのかと思っていたのに」

ムスカは机の引き出しから、箱をとりだし指輪をみせた。

「本当は、今日付き合ってくださいといおうとしてました。けど、あなたも結局僕の体とお金が目当てだったんですね」

図星である。一切否定できなかった。子供を宿して結婚にありつこうとまで思っていた。

「何もいいませんか。泣き喚くかと思ってましたが。もうあなたの顔はみたくない。出て行ってください」

「はい……。失礼しました……」

恵は、最後に、「今までありがとうございました。楽しかったです」と告げて、部屋を出た。返事はなかった。ひどく肌寒い帰り道だった。

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