長い旅路の終わり
明けて翌日、まだニンニクの臭いは残ってました。
めっちゃめちゃ歯磨いて、牛乳もめっちゃ飲んだんだよ!
グルグルってお腹下すほど飲んだんだけど、臭いは残ったんだよ!
こんなんじゃ、王都でナンパも出来ゃしねぇ…。
いえ、5歳児なんでナンパなんでしませんけどね。
お約束だった馬車を、王城の裏手にて拝領しました。
ぱっと見た感じは結構綺麗に見えるけど、よくよく細かい所をチェックすると、結構痛んでますなぁ。
まぁ、中古なんだからそれは仕方ないか。
それよりも、ここまできれいに保管されていた事を称えるべきかな。
ついでに馬車を牽くお馬さんも2頭貰っちゃいました。
馬の事なんて、俺も父さんも完璧に忘れてたよ。
そりゃそうだよな…馬車だけ貰ったって、動かせないよな。
まさか俺が変身して馬車を牽くわけにもいかないし、馬…必要だよね。
となると、帰りの御者は父さん一択。父さんが馬車を操れてよかったよ。
だって馬車なんて物を貰えるなんて思ってもみなかった、そもそも誰も連れて来てないんだもん。
わが領に馬車を操れる人が居るって話も、全く聞かんけどね。
まぁ、俺も頑張って覚えるからさ。二人で頑張って帰ろうよ。
さて、そんな感じで父さんは王城内で馬車を動かしながら各部をチェック。
特に問題なさそうなので、このまま引き渡しに立ち会ってくれた文官さんにお礼を言ってから、王城をぐるっと周って正面のデカイ門に向かう。
勿論、俺は父さんの横に陣取る。
昨日、初めてここに来た時は、色々とテンパっちゃったんで良く見れなかったけど、こうやって見たらデッカイ城だなぁ…。
でも、この城ってどっかで見た気がするなぁ?
イギリスのウィンザー城だったっけ? 行った事は無いけれど、映像では見たことあるけど…こんな感じだったような気がする。
結局のところ、文化とか機能性とかを考えたら、似たような形になるのかなぁ…って事は、日本とかのアジアの城って変わってたんだなぁ…。
お城の中の小路を、父さんと城を見た感想を話しながら正面の門へとやって来た。
正面の門には、昨日この城に入る時にも会ったあの兵士さんが立哨していた。
ちゃんと貴族の証であるカードっぽいのを見せ、二言三言会話をした後、兵士さんが姿勢を正して敬礼したので、俺達も答礼してから門を出た。
あ、そうそう。この城にお堀は無い。
お城って言えばお堀って思ってたけど、どうやらそうではないお城も多いらしい。
そりゃそうか。
自然の地形を利用して城を建てる場合はそう難しくはないだろうけど、わざわざお堀を造って水を引っ張って来るのって大変そうだもんねぇ。
正門の先には、あの問題の駄メイドが約束通り大きなカバンを持って待っていた。
こいつ、マジで来やがったんだ。
仕方ないので、ここで俺はサラを連れて、馬車の中へ。
中は十分に広いので、手荷物も一緒に中へ入れた。
だけど、出来るだけ席は離れて座らないとな…こいつは危険だからな…。
帰ったら、即ガッチガチにガードを固めて亀作戦実行だな。
こんな腐れ駄メイドに俺の貞操はやれん!
いつかミルシェちゃんと、いちゃらぶで初体験を迎えるのだ!
その為の労力は惜しくない! どんと来い、この馬鹿やろー!
大問題のメイドも拾った事だし、さあ、いざ懐かしきアルテアン領へ出発!
でも、帰りの馬車の中って、いくら席を離してもサラと二人っきりって、やっぱやばいかも?
「トールヴァルド様、ニンニク臭いんで、近寄らないでください!」
「お前が昨日の晩餐会で散々食わせたんだろーが! この駄メイドが!」
「あ…しゃべらないで下さい…臭いが…うっぷ…」
もうヤダこいつ…。
「サラ、貴族様に対して不敬だから、向こう1年は給料ナシ!」
「えー! 横暴だー! パワハラだー! …いじめ、かこわるい…」
お前、なんでそのネタを知ってんだ!?
こいつ本当は転生者じゃねーだろーな?
あ、この星の転生者1号は俺だった…。
って事は、もしかしてコレって天然なのか?
サラ…なんて恐ろしい子…。
▲
王都を出発してアルテアン領を目指して街道を馬車でひた走る。
往路と違って、自分達のペースで動けるのは嬉しいな。
相乗りは、やっぱ色々と気を使うからな。
そう言えば王都を出たた後の最初の休憩の時、父さんが変な事を言ってた。
「陛下にサラの話をしに行った時、あの娘の事を誰も知らなかったみたいなんだよ。あの歳の城の使用人は大体貴族の子女の行儀見習いのはずなんだけどな? まあ、だからこそ簡単にうちに来る許可が出たんだが。あの娘は実家にアルテアン領へと来る事を言わなくても良かったのかだろうか、ちょっと心配だ…」
あんなアクの強いのが王城では知られてないなんて、あいつきっと城の中ではネコ被ってやがったんだな?
クッソーーー!
俺が突っ込み体質なうえ、捨て猫を見捨てられない性格だと見抜きやがったな!
マジであいつに頭脳戦を挑むのは止めよう。
実家…確かに、王都から2週間も馬車旅の先の僻地…言ってて悲しくなるけど、超が付くほどのド田舎だもんな。
サラの親御さんは、心配しないんだろうか?
「サラ、アルテアン領ってめっちゃ遠いけど、実家に何も報告しなくて大丈夫?」
「え、若様が一緒に実家に挨拶に来てくれるんですか? それは、私に娘さんを下さい的なやつで?」
何言ってやがんだコイツ!
「違うわ! ある意味合ってる所が腹立つけど、ド田舎のアルテアン領に勝手に行ってもいいのかって事だよ! お前の言い方だと嫁に貰うみたいだろーが!」
「え? 嫁でもいいですけど?」
もう突っ込まんぞ!
「父さん、こいつ返品で!」
「よよよ…。嫌がる私に、あんなにナニを見せつけ…辱められたというのに…」
「お前が勝手に見に来たんだろーが!」
くっ…つい突っ込んでしまった…。
「私の事は遊びだったのですね…。ええ、わかりました。王城に帰って、皆にこの酷い仕打ちを伝えなければ…セクハラで訴訟を…」
コイツ、ここまで読んでの行動か!? ちくそー!
「あ~もう分った。お前の実家の事は知らんぞ。勝手に手紙で報告でもしろよ!」
「分って頂いて、嬉しいです」
こいつと話してると疲れる……。
「はっはっは! トールヴァルドとサラは仲がいいな~! 2人とも会話が弾んでいて良い事だ!」
父さん、それはこの星より大きな誤解だぞ…。
▲
長かった…14日間の旅路は実に長かった。
精神的な疲労が半端ないって!
やっぱ馬車の速度ってよくわからん。
徒歩よりもは絶対に早いんだけど、自転車より早いかって言われると何とも…。
王都からアルテアン領までの距離って、結局どんだけ離れてるんだろ?
正確な地図とか無い(あっても国の機密事項になるのかな?)から、マジでよくわからんけど、きっと新幹線だったら日帰り出来る距離だと思う。
でもな、みんなよく考えてくれ。
帰路の間、俺はずっと飢えた駄メイドに馬車の中で狙われ続けてたんだ。
この怖さ分かるか? 女性恐怖症になってもおかしくないって、マジで。
休憩中のお花摘みなんて、マジで怖かった!
小に行けば付いて来るし、大だとケツ拭く布と水桶持って待機してやがるんだ!
ちなみにこの世界には、トイレットペーパーなんて贅沢品は無いからな。
使い捨ての布きれでケツ拭くんだぞ。布の目が粗いと…察してくれ。
サラは自分のお花摘みの時も、「怖いので側に居てください」って言って、無理矢理に俺を連れて行くんだ! どんなプレイだよ! 音や臭いで興奮せんぞ!
嘘です…ごめんなさい…音は微妙に…ちょびっと…ええと…まあ…。
でもな、寝る時も馬車の中で抱き枕にされて体中さわさわと触られまくり、移動中は横でベッタリとギューっと小さいながらもアレを押し付けるし…俺が子供じゃなかったら、確実にMyお棒ちゃま君が暴れん棒将軍になってたぞ。
風呂や水で身体を清拭する時も、絶対に見に来るんだ…。
もう完璧にこいつストーカーだよ…とほほ。
え、羨ましい? んじゃ、お前と代わってやるよ! こいつやるよ!
愛人の座を狙う奴なんざ、俺の幸せ家族計画には入って無いんだよ!
重婚や側室や妾が貴族だったら公認だ…とはいえ、本妻もいないこの年でいきなり愛人とかあり得ないだろうが! マジで、勘弁して下さい。
時折立ち寄る街で宿屋に泊まる時も、父さんが変な気の利かせ方してくれるもんだから、この危険物と同室だったし。
もう気の休まる時が無かった2週間だったよ。
やがて、遠くに見える森のてっぺんから、すでに見慣れちゃった感のあるダンジョンの頭が飛び出してるのが見えた時は、本当に涙が出た。
やっと懐かしのアルテアン領に戻ったんだ…。
俺の貞操は守り切ることが出来たんだ!
本当、この2週間程は疲れたよ…過労死寸前だったんじゃね?ってぐらい…。
ちなみに駄メイドは、父さんと相談した結果、近所の空き家(1K)に住まわせる事にした。
こいつと一緒に住んだりしたら、マジでナニされるか分からんからな。
こうして、俺と父さんの、王都への長い長い旅路は終わったのだった。




