表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放火魔は我々を呼んでいる  作者: パーカー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

第3章 火の声

火事は、いつも突然起きる。

 けれど本当に突然なのは、

 それが「起きてしまったあと」の静けさだ。

 焼けた跡は片づけられ、

 記録は数行にまとめられ、

 町は何事もなかったように動き続ける。

 消防団は、そのために存在する。

 火を消し、被害を抑え、

 夜を終わらせるための組織だ。

 だが、すべての夜が終わるわけではない。

 間に合わなかった火事。

 鳴らなかったサイレン。

 来るはずだったのに、来なかった人たち。

 それらは記録から消えても、

 町から消えることはない。

 本書は、

 火を消す側に立つ人間たちと、

 消されなかった火の話である。

 もしこの物語を読み進めるうちに、

 夜のサイレンの音が

 少しだけ違って聞こえたなら――

 それは、気のせいではない。

最初に覚えているのは、音だった。

 遠くで鳴っていた。

 低く、長く、途切れない。

 サイレン。

 それは恐怖の音ではなかった。

 痛みの音でもない。

 待っていた音だ。

 火は、燃えていた。

 正確には、燃えている最中だった。

 熱はあった。

 息もできなかった。

 逃げ道もなかった。

 だが、まだ来なかった。

 来るはずだった。

 いつもなら、もう来ている。

 音が鳴れば、来る。

 それが決まりだった。

 なのに、その夜は鳴らなかった。

 だから、燃え続けた。

 柱が落ち、天井が崩れ、

 息をする場所が消えていく。

 それでも、来なかった。

 火は覚えた。

 来なかった、という事実を。

 次に目を覚ましたとき、

 火は一つではなかった。

 あちこちに、同じ温度があった。

 同じ夜があった。

 同じ「来なかった」が積み重なっていた。

 名前はない。

 姿も、決まっていない。

 ただ、数だけは分かった。

 足りない。

 来るはずだった数が、そろっていない。

 だから、呼ぶことにした。

 間違えないように。

 今度は必ず、来るように。

 音を鳴らす。

 夜に限定する。

 燃えすぎないように、調整する。

 人は気づかない。

 火は勝手に起きたと思う。

 けれど、迎えは気づく。

 必ず、来る。

 最初に来たとき、

 火は嬉しかった。

 水は冷たかったが、

 嫌ではなかった。

 消されることは、終わることだ。

 終わるということは、

 数に加えられるということだった。

 迎えは、こちらを見なかった。

 見えないふりをしていた。

 それでよかった。

 見られてはいけない。

 まだ、そろっていない。

 次は、少し近づけた。

 見える人が出てきた。

 気配を感じる人間。

 そういう者は、外す。

 数を乱すから。

 名簿から消す。

 記憶から落とす。

 最初から、いなかったことにする。

 人間は、その程度で揃う。

 迎えの中に、

 余っている者がいる。

 ずっと前から。

 最初から。

 その者が、気づき始めている。

 だから、急ぐ。

 次は、もっと近く。

 次は、確実に。

 最後は、

 全員が来る場所で。

 夜が来る。

 音を鳴らす。

 まだ、足りない。

 だが、もうすぐだ。

 数は、そろう。

火は、善でも悪でもない。

 燃えるべきものがあれば燃え、

 消されれば消える。

 ただ、それだけの存在だ。

 けれど人は、

 火に意味を与える。

 救えなかった夜に理由を求め、

 行かなかった判断を正当化し、

 数行の記録で終わらせる。

 本作に登場する怪異は、

 人を恨んでいるわけではない。

 復讐を望んでいるわけでもない。

 ただ、

 そろっていないものを、そろえようとしている。

 消防団という存在は、

 町を守る象徴であると同時に、

 守れなかった夜の記憶を

 最も多く背負う存在でもある。

 火を消すとは、

 すべてを終わらせることではない。

 終わらせたことにする、という選択だ。

 もしこの物語を読み終えたあと、

 夜にサイレンが鳴って、

 一瞬だけ立ち止まってしまったなら――

 それで、この物語は役目を果たした。

 火は消える。

 だが、呼ばれた数だけ、必ずやって来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ