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7 空々

  身長が170cmを超えたんだ。まだ伸びるんじゃない? いや、もう伸びないよ。男は21くらいまでは背が伸びるって聞いたことあるけど。本当に? それは期待しちゃうな。わたしはもう伸びないけどね。あの時からあんまり変わらないよね。そうよ、あの時はもっと伸びると思ってた。君の背を抜かしたのはいつだったっけ。覚えてない。2年前くらいだったかな。そんくらいでしょ。2年前か。2年前、わたしが数珠を首にかけなくてもいいようになったね。そうだね。あの時は驚いたよ。ほんとに不思議な家系なんだってね。そうでしょう、おかしな家なの。でも今となっては面白い家だったと思う。あ、君に取り憑いた霊の中で1番奇天烈なのってなんだった? それ好きだよね、覚えてるでしょ。まあね。虎だよ。はは、何回聞いても意味わかんないや。わたしも意味わかんなかったよ。だろうね、他に思い出はある? あるけど、まあ思い出したくはないものばかりかな。...。黙らないで。うん、よくここまで生きてくれたね。そっちもね。出会えて良かった。わたしも。そっちは何が1番思い出に残ってる? そうだなあ。あれかな。弥栄神社をぶっ壊した時。ああ、あれね。スッキリしたんだよ、とっても。わたしも、ちょっと楽しかった。でも、それが正しかったのか、今でも迷う時があるよ。そう? わたしはそんなこと考えたことないけど。俺は考えすぎる質だからかな。ほんとにね、考えすぎ。でも考えること、迷うことって、中々悪くないよ。ふーん。迷ったおかげで今があるんだ。それはそうね。そして迷って出した答えの結果。地球は終わる。みんな死ぬ。そうだね。これで良かったのかな。考えない。うん。

  わたしたち、何も考えずに仕事をしてた。そうだね。己の未来も見捨ててたし、責任感なんて皆無だった。過去も過ぎたそばから忘れて、現在を全身全霊で生きている感覚さえ信じていなかった。何も知らない何も考えない。あの手紙はそんな生き方を変えてくれた。あの手紙の、3つの問ね。今でも明瞭に思い出せるよ。わたしも。特に3つ目の衝撃は凄絶だった。そんなに? うん。君が必死に伝えてくれたし、それにその問を朧気な意識の中噛み締めた瞬間、頭の中で爆発が起こったようだった。愛に気づいたんだ。そうね。人は幸福になるために生きている。そしてそのためには己以外を愛することが必要なんだ。そうね。思うにかみさまは愛をもたない神だった。どれだけ人のために奇跡を起こしても、人の幸福を願っていないなんて、それはダメだと思う。わたしもそう思うよ。わたしも君と同じ選択をしたんだから。今の未来を選択するのには、結構時間がかかったよね。うん、かなり悩んだ。でも一心君、後悔してるんでしょ? それわたしに失礼だと思わない? ごめん。もう後悔なんてしてないよ。おかげで答えが、覚悟が決まった。遅いよ。逐一迷ってしまうのが俺なんだ。わたしはその度に一緒に迷って、共に答えを差してきた。ありがたいね。ほんとにね。

  この階段を上がって、すぐにまた下る、今はもう獣道は開けてないかな、高い茅が茂っているはずだから、踏み鳴らしながら進んで到着だよ。遠くもなかったし近くもなかった。近い方だよ。そうかも。手紙は? ちゃんと持ってきてる、ほら。戻るのはごめんだから。それは俺もだよ。あれ、道が残ってる。まだ通ってたの? 俺じゃないよ。誰だろう。まあいいか、使わせてもらおう。

野鳥が鳴いてるね、あの茂みにいるみたい。雲雀かな。ここら辺に生息してるの? さあ、てきとうに言った。でも、カワセミなら見た事あるよ。見てみたいかも。美しい鳥だよ。漢字も翡に翠と書くんだ。風流ね。

あのボート、まだ動くかな。だいぶ錆びてるね。でもまだ動くと思うよ。浮いてるしね。それは関係ないよ。寂しそうに浮いてる。それはね、あのボート、昔は双子だったからだよ。それであんなに。あんなに? あんなにも孤独が似合ってる。


「流すよ」一心はそう言って川縁に頬をつけて肩から腕を伸ばした。恵火は三角座りでそれを見守っている。


 

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