40.何が起きているのか知りませんけど、みんなが頑張っているみたいです
姉との再会で更に元気満点となったラムネは、セブンスとロゼラムの2人を引き連れて店舗案内をしていた。
当然ラムネの方はいつもより気合いが入っており、心から嬉しそうな笑顔だ。
そして従業員っぽい態度も忘れず、あれこれと目についた商品を紹介するのだった。
「お姉ちゃん!これはズルズルでギュンギュンな商品です!ぽちぽちってすると、ビュンビュンって動いて床がピッカピカになるんですよ!」
ラムネは懸命に説明してくれているみたいだが、誰が聞いても分かる通り意味不明な擬音語の羅列だ。
だけど、それが彼女らしい愉快さだと解釈して、鬼娘ロゼラムは笑って返した。
「あはははっ。ラムネは立派な店員さんになっても、相変わらず面白い喋り方だね。変わらないところがあって、お姉ちゃんは嬉しいよ!」
「そんな~。わちき、これでもいっぱい成長したんですよ!色んな事も覚えました!ただお姉ちゃんは、なんだか少し変わったみたいですけど……」
「へっ?私自身は変わったつもりはないけど、そう見える?」
「えっと。その……お姉ちゃんがの喋り方とか、わちきの呼び方とか。ラムネって名前は、わちきがこの世界に来てから付けたものですし……」
名前の呼び方に違和感を覚えたようで、ラムネの指摘はあまりにも当然のものだと言える。
それに対して、どういうわけかロゼラムは意表を突かれた表情を覗かせた。
同時にセブンスも顔を隠すように逸らしており、明らかに妙な空気感が漂ったのでラムネの方が困惑する始末だ。
ただし会話の間は数秒足らずのもので、ロゼラムが焦り気味に言葉を返す。
「いやいや、そりゃあ本名を明かすなってラムネに教えたでしょ。それで私……あたしが人前で呼ぶわけにはいかないよ。あはは、もしかして姉の言いつけを忘れちゃった?」
「言いつけ?それに、えーっと……本名って?」
ラムネは再び不思議そうな眼差しを向けて訊く。
一見するとロゼラムの発言は怪しいものでは無いのだが、彼女はどこで違和感を察知したのか分からない。
だが、続けざまに僅かな静寂が訪れたとき、セブンスは誰にも聞こえないほど小さな声量で独り言を漏らした。
「あちゃ~、姉妹で呼び合う愛称があったわけね……」
ついにセブンスは失敗したという目つきを見せる。
このタイミングで彼女が怪しい言動と態度を示した以上、もはやセブンスが画策しているのは確定的だ。
事実、このロゼラムは偽物だ。
使い魔に変身魔法をかけて、ただ見せかけを再現しているだけ。
だから上手く機転を利かせても穴ができており、いよいよ偽物のロゼラムは反応に詰まってしまう。
「ん~とね………」
「あの、お姉ちゃん?黙ってしまうなんて、いつもらしくないですよ?やっぱり調子が悪いとか……?」
さすがのラムネも違和感を拭いきれなくなったようで、様子を探るように疑いの視線を向ける。
これ以上バレないようセブンス側は誤魔化す必要があるが、偽物も既に余計な言葉を重ねられない状況に立たされている。
そんなとき、ラムネはハッと察した顔を見せた後、すぐに普段通りの笑顔へ戻った。
「……あぁ、そういうことですか!なるほど、分かりました!それなら案内を続けますね!」
「えっ、う……うん。お願いね?」
彼女は一体、何に納得したのか。
それはセブンスですら見当つかなかったが、下手に触れたらバレかねない。
よって会話を流し、余計なことを言わずに次の場所へ歩き進む。
そんな折、ラムネは前を歩きながら小声で呟いた。
「もうセブンスさんったら。お姉ちゃんが来れなくなった事を知って、それでわちきがガッカリしないように演技しているのですね。しかも、お祭りみたいな事までして。ふふっ、セブンスさんは本当に優しいなぁ」
にこやかな笑顔で感謝に溢れた目つき。
そう、ラムネは勝手に勘違いしているのだ。
突然のパレードも、少しでも自分が明るい気持ちになれるよう用意したものだと彼女は解釈していた。
あまりにもお人好し思考で、天然なラムネらしい思い込み。
そして自分のために色々としてくれているセブンスのためにも、ラムネは一抹の寂しさを覚えながらも全力で応えようとした。
しかし、続けて説明している途中で彼女は身震いする。
「ん、んん………。ごめんなさい、お姉ちゃん。わちき、ちょっと荷物を取りに行きますね。ここで待っていて下さい」
そう言いながらラムネはトイレへ行くためにセブンス達から離れる。
ただ向かう最中のこと、どこからともなくハイピスの声が頭に響いて来るのだった。
『ラムネ様、聞こえておりますでしょうか?私、ハイピスです』
「へっ、あれ?ハイピスさん?どこから声が?わちき、すぐに壊しちゃうからすかうたーを持って無いのに」
『おそらく不思議に思っているでしょうが、これは私が信徒へ一方的に送れるメッセージ……つまり神託です。ですので、そちらの声は聞こえず、質問にはお答えできません』
「は、はい」
こちらの声が相手には聞こえないと言われても、ついラムネは律義に返事をする。
それから彼女がトイレへ足を運ぶ間、ハイピスの言葉は続いた。
『ちなみにこの連絡方法を行うと事前に尿意を催すので、気を付けて下さいね。下手に我慢すると漏らします』
「そのことを聞くと、あまり待ち遠しくない神託ですね……」
『それはさておき、今ラムネ様は大変な状況に巻き込まれおります。簡単に説明しますと、セブンス店長が2つの領域結界を創り、ラムネ様とロゼラム様のそれぞれを閉じ込めているわけです』
「りょういき?とじこめ……うん……。うん?」
ラムネはトイレで用を済ませながらも、思考力を働かせてハイピスの説明を必死に理解しようとする。
だが、初めて聞く単語が当たり前のように使われてしまうから、もはや毎度の事ながら何一つ分からない。
それでも相手の説明は問答無用に次へ続いた。
『更にセブンス店長は大量の使い魔を使役し、自分の思惑通りに事が進むよう手を尽くしています。そのため、ラムネは目の前の状況に惑わされないよう気を付けて下さい。例えば、そちらに現れたロゼラム様は偽物なのです』
「あぁそのことですか!ふふん、その事ならわちきも分かってますよ!凄いそっくりさんでした!でも、セブンスさんが気遣ってやってくれているのですよね!」
ここでラムネの口から勘違い話が飛び出るものの、あいにくハイピスには聞こえないので会話は噛み合わないままだ。
だから相手の説明が正しくても、ラムネが正しく情報を拾えないので変な方向へ話が広がるばかりだった。
また説明内容すら理解できない中、ハイピスは一刻も争う声色で喋る。
『こちらも結界を突破できるよう、皆さまで力を尽くしている最中です。そして最善を尽くしたいので、ラムネ様にも協力して頂きたいのです』
「はいはい。とにかく手伝えばいいのですね。それで、わちきは何をすればいいのですか?」
『ラムネ様は、セブンス店長がびっくりするくらい褒めてあげて下さい。発言内容はこちらから指示するので、その言葉通りに伝えるだけです。名付けて、ちょろいセブンス店長を褒め殺し作戦です』
「さ、作戦!?とってもカッコイイ響きですね!よく分からない事ばかりですけど、わちき分かりました!任せて下さい!頑張って成功させてみせます!」
『タイミングを合わせるため、5分後には私の指示が適切に通るよう話の流れを作っておいて下さい。すぐのことで大変難しいと思いますが、既に後が無い状況なのです。それではお願いしますね、ラムネ様』
そこでハイピスからの連絡は途絶えてしまう。
当然、彼女が伝えたかった事は半分も伝わってないだろう。
またラムネも断片的にしか理解してないので、別のことに疑問を覚えた。
「あれれ?ところでハイピスさん、さっきお姉ちゃんが来ているみたいなことを言ってたような……?それならセブンスさんは慰めじゃなくて、お姉ちゃんが来た時の予行練習しているのかな?」
あくまでラムネはセブンスの行動は気遣いによるものだと思っており、嘘だと知った上でも好意的解釈で受け取っていた。
実際、彼女はそれだけ店長のことを素晴らしい人だと認識し、姉と同じくらい尊敬している。
何より多大な迷惑をかけても良くしてくれるのだから、唯一無二の恩人と言っても差し支えないほど。
そのためセブンスを褒める事に抵抗感は無く、むしろ感謝を伝える良い機会だとラムネは考えていた。
「よ~し。わちき、頑張るぞぉ~。ちょうどスッキリしましたし、余すことなく全力で想いを伝えてみせます!」




