12.ラムネお姉ちゃんになった記念に天国の扉を破壊します
第1回・ざっくり登場人物まとめ
・ラムネ。飛び抜けた能力を備えているが、人見知りで気弱。これまで姉に頼ってきたので他人頼りの性格。
相手の意見に押されやすく、そのせいで状況に流されがち。
・セブンス。自称トップクラスの大魔女様。
小柄で幼めに見えるが内面は大人。
杖を使わずとも魔法を発動できるが、それだと魔女らしくないので緊急時以外は杖を使うというポリシー。
・フーラン。強力な精霊を付き従わせているハーフエルフ。
面倒見が良く社交的。また責任感があって勤務姿勢は真面目。ただ、すぐに興味を持って飛びつく癖がある。
・リビィ。かなり小柄で幼い死神少女。
エンターテインメント系なら何でも好きで、趣味嗜好は一般的な人間の子どもと大差ない。
天真爛漫で人懐っこく、子どもっぽい自分本位さを見せる。
だが、やはり死神なので侮ってはいけない。
ラムネは、一切状況が飲み込めないまま天国へ強制連行される。
そして気がつけば、つい先ほどまで居た暗い部屋から打って変わり、辺り一面は輝かしい白雲で埋め尽くされた空間になっていた。
これまで感じたことがない神聖な雰囲気に満ち溢れており、彼女らの前には、絢爛豪華に装飾された巨大な門がそびえ立っている。
ラムネはその全てに圧倒されしまい、ようやく絞り出せた言葉は確認の質問だった。
「あのリビィさん。ここ、どこなの?」
森林とは掛け離れた景観を前にして、ラムネは口を開けて呆然とする。
そんな戸惑う彼女に対して、リビィは一人興奮した様子で答えてくれた。
「ここが天国!そして、これが天国に続く大扉なんだ!」
「わぁ……。わちき、本当に来ちゃったんだ」
改めて考えてみても、どうして自分がヒーローショーを見に行くことになってしまったのか分からない。
だが、こうして色んな場所へ足を運ぶことは無駄な行為とは言いきれず、むしろ彼女にとって有益に成りえる出来事だ。
「お姉ちゃんを探すためだと思えば、あっちこっちに行って話を聞くのは良いこと……だよね。きっと、うん。森で探し回るよりは見つかるかも」
「あれれ?ラムネちゃんは探し物をしていたの?」
「あの、実はわちき、いなくなったお姉ちゃんを探していて……。血は繋がってないけど、わちきが赤ん坊の頃から世話してくれた大事なお姉ちゃんなんです」
「そうだったの!?それじゃあ、リビィも探すの協力してあげる。ラムネお姉ちゃんのためにもね!」
「はい、ありがとうござい……えっ?ラムネお姉ちゃん、というのは?」
「ラムネお姉ちゃんのお姉ちゃんも、ラムネお姉ちゃんと血が繋がってないんでしょ?それなら、リビィがラムネお姉ちゃんのことをラムネお姉ちゃんと呼んでも問題ないんだ」
言っている理屈は理解できなくも無いが、その話題以前に同じ単語を連呼されると頭が混乱してしまう。
やはりリビィとは、よく分からない方向性で会話することが難しい。
ただ彼女を邪険にする要素は無く、ラムネは相手なりの厚意だと解釈して頷いた。
「なんだか難しく聞こえましたけど、とにかく分かりました。今から、わちきはリビィさんのお姉ちゃんになります」
「やった、嬉しいな!念願のお姉ちゃん!そしてラムネお姉ちゃんと天国でデートできるなんて、リビィは最高に幸せなんだ!いつか死者の魂で燈篭流しをしようね!」
「う、うん。燈篭流しね。でも、わちき、それが何か分からないかな……」
「分からなくても大丈夫!そして、まずは何よりもヒーローショーなんだ!ほら、扉を開けてラムネお姉ちゃん。ねぇ、お願ぁい」
そう言うなり、リビィは彼女の腕へ抱き付きながら上目遣いで甘え始める。
典型的なおねだり方法だ。
しかし、それによってラムネのお姉ちゃん魂が一気に燃え上がった。
「なるほど。これがお姉ちゃんとしての使命なんですね。わちきに任せて下さい!」
ラムネは姉を理想像にしているため、自分がお姉ちゃん呼びされることが堪らなく嬉しいようだ。
わざわざ得意げな表情を浮かべ、言われるがままにラムネは門の大扉へ手をかけた。
それから押し開けようとするものの、予想以上に相当な重量があってビクともしない。
「あれ?リビィさん、なぜか扉が開きませんよ。引いても……、ダメみたいです」
「じゃあノックして、声をかけよう!」
「おぉ、その手がありましたね!わちき、人のお家に行った事なんて無いから……。こほん、もしもーし!誰かいませんか~?」
姉らしく振る舞おうとするラムネは積極的なもので、すんなりと実行に移してノックしようとする。
そして彼女の拳が扉に触れた瞬間のことだ。
それは単なるノックだったのに、大扉は激しい破壊音を立てて吹き飛ぶのだった。
「ふぁっ?」
あまりにも予想外、尚且つ一瞬の出来事だったのでラムネは混乱してしまう。
まったく力を込めて無いはずなのに、あれだけ立派な大扉が残骸に成り果てるなんてあり得るのだろうか。
そんな疑いを持つ一方、リビィは感心して声をあげた。
「さっすがラムネお姉ちゃん!まさか神の結界を破壊しちゃうなんて、凄い力だね!」
「あのー……。もしかしてですけど、余所者が入れないようになっていました?」
「どこでもセキュリティは大切だからね!それにリビィは破壊や侵入系のスキルを持って無いから、扉を開けられ無くて困っていたんだ!」
「あは、あははは……。わちき、また問題を起こしたみたいです……。うぅん、わちきって問題児の素質があるのかなぁ。なんだか悲しくなりますよ」
「ラムネお姉ちゃん落ち込まないで。だってラムネお姉ちゃんのおかげで、リビィはラムネお姉ちゃんとデートできるんだ。それはとっても嬉しいこと!あとバレなければセーフって、セブンス店長は言ってた!」
「それを聞いても、不安の重ね掛けにしかならないですって。で……、でも、たしかにバレない内に行けば良いのかも……?」
そう楽観的に考えたラムネは数歩だけ進み、天国の門を通ろうとした。
ただし門を通っても、彼女の眼前に広がるのは天国らしい華やかな光景……という訳では無い。
むしろ彼女らを待ち構えてたいのは、武装した天使たちの大群だった。