13.ダメダメでも、信頼できる人が隣に居れば何とかなるものです
うっかり大扉を破壊した二人を待っていたのは、明らかに非常時に出動する天使達だ。
もはや相手の話を聞かなくても、どうして盛大な出迎えが用意されているのか。
周りと場の気配で分かってしまい、ラムネはすぐさまに引き返したくなっていた。
「うん。あのリビィさん、やっぱり素直に帰りませんか?わちき、実は根っからの平和主義なので。こういう空気は苦手なんです」
「大丈夫!バレてもセーフは、まだ続いているから!」
「それを目の前で言っていいんですか?もう手遅れな気がしますけど……」
「何がともあれ、ここからはリビィに任せて!なんたってリビィはアイドル女優に憧れているから!」
今このタイミングで憧れを語られても、何に結び付けて話に出したのか相変わらず理解できない。
そんな疑問をラムネが抱いた直後、リビィは何の危機感も持たず笑顔で先頭へ出る。
当然、天使たちは警戒を高めて武器を向けてきたが、それでも死神少女は心からの笑顔を崩さなかった。
「えへへ、すみませ~ん!扉の立てつけが悪くて、うっかり壊してしまいましたぁ~!」
いくら能天気に言っても、第一声があからさまな言い訳なので見え透いた嘘のはず。
しかし、そうだと信じさせる雰囲気がリビィにはあった。
また天使兵たちも、このような少女二人が神の結界である大扉を破壊できるわけが無いと冷静に考える。
同時に一人の天使兵が舞い込んできて、上官と思わしき天使に向けて報告していた。
「中位天使様。監視映像を確認したところ、スキルや魔法を使った素振りは見受けられませんでした」
「うむ、そうか。それなら本当に扉の立てつけが悪かったようだな。門全体の調査と被害確認を取れ。……そしてお嬢さん方、どうぞ神々が住む天界へ来られた。この場の責任者として、お嬢さん方を歓迎する」
案外あまり重大視してないのか、天使達はすんなりと納得してくれた。
それどころか歓迎する挨拶まで送られてしまい、ラムネは天使の横を通りかかる際に良心を痛める。
「あぁ……。こんな責任逃れの嘘をつくなんて、わちきのお姉ちゃんが知ったら悲しんでしまいますよ」
「ラムネお姉ちゃんは鬼なのに、嘘をつくのが苦手なの?」
「わ、わちきは人間だし、自分が悪いときは素直に謝らないとダメって思っているの」
「うーん、そっか。それじゃあ、リビィもそうするね!ラムネお姉ちゃんのためにも悪い嘘はつかない。そして自分が悪い時は素直に謝る!」
リビィは既にラムネに対して尊敬と親しみを覚えているらしく、すぐに彼女の教えを受け入れる。
それからリビィは全く躊躇いを持たずに方向転換し、指示を出していた天使に近づいて頭を下げた。
「天使さんたち、ごめんなさい!本当はリビィが扉を壊しちゃったの!」
誰かが問い詰めたという訳でも無いのに、こうして即座に自供内容を覆すのは珍しい出来事だ。
また、突然という事もあって相手はリビィの発言を聞き逃したようだが、謝る動きで何を伝えようとしたのか察する。
そして中位天使は彼女達に視線を向け、やや高圧的に訊き返した。
「今、なんと言った?」
「本当はリビィが扉を壊したんだ!さっきのは嘘!」
「なぜ嘘を……いや、理由は聞かずとも分かることか。それで、他になんと言った?」
「扉を壊してごめんなさい!」
リビィは再び謝罪の言葉を口にし、より深く頭を下げた。
嘘をついてしまった直後だから、どれほど懸命に謝っても誠意に欠けるかもしれない。
だが、そんなリビィの姿を見て心が動されたのは、天使では無くラムネの方だった。
「あ、あの!扉の壊したのはわちき!わざと壊したわけじゃないけど……、それでもわちきが悪い!すぐにわちきが犯人だって言わなかったから!」
同じくラムネも必死になって頭を下げた。
どちらも責任追及から逃れたくて謝っているという様子は無く、罪を贖うために頭を下げている。
そんな二人の姿を見て、天使は静かに喋り出した。
「ただ受け答えをする素直な心と、罪を告白する素直な心は、同じように思えて大きく異なる。罪を告白することには勇気が要され、謝罪の気持ちが含まれている。つまり葛藤を乗り越えた先の正直な心だ」
なにやら天使は真面目な口調で語り始めたが、リビィは素直すぎて余計な事を呟いた。
「……この天使は何を言っているんだ?」
「ちょっと、リビィさん!今は口を閉じましょう……!」
ラムネは慌てて注意するが、それはつまり周りの人にも聞こえる声量の呟きだったわけだ。
だから天使は軽く咳ばらいをした後、話を短くまとめた。
「その正直な心に免じ、扉破壊の件は許そう。つまり不問だ。私とて、このような幼き少女相手に激昂するわけにはいかない。しかし、この天界へ来た用件はなんだ?」
「えっと、用件は……。わちき達はヒーローショーというものを見に来ました。その、リビィさんがどうしても見たいと言って。色々と、いつの間に……」
「ヒーローショー?あぁ、あのお米大好き女神が企画した劇か。なるほど、事情は分かった。次回からは正当な手続きを踏むのだな。それと、これ以上の騒ぎを起こさないように」
「も、もちろんです!わちきがしっかりお姉ちゃんしますので!」
「では行け。釘を刺すようで悪いが、次は見逃せないからな」
これによってラムネたちは正当に許され、解放されることになる。
だが、やはり慣れない状況だったのでラムネは少し落ち着かない様子だった。
「うぅ、すっごいドキドキしました。それに大勢に注目されるのは慣れないですよぉ」
「ラムネお姉ちゃん、ごめんね。リビィは思ったことをすぐに言っちゃうし、ワガママばかりなのは分かっているんだ」
「扉の事なら、わちきにも責任があったので気にしなくて良いですよ。それに妹というのは迷惑がかかるほどカワイイって、わちきのお姉ちゃんが言ってましたから」
迷惑がかかるほどカワイイという考え自体は、受け売りに過ぎない。
それでも少なからずラムネも同じように思っているから出てくる言葉であって、その言葉にリビィは感激して瞳を潤ませた。
「ラムネお姉ちゃんは……、とっても優しいんだね。それを心から言ってくれるし、もう本当に大好き。リビィのことを心配してくれるのは、ラムネお姉ちゃんだけなんだ」
「リビィはわちきの妹ですからね。だから無条件で味方になりますし、ダメな時はお姉ちゃんらしく叱りますよ」
「うん、リビィ分かった。それと謝ればセーフってことも分かった!」
「うーん……?あの、その何とかすればセーフ理論だけはやめませんか?同じ失敗を繰り返す気配がビンビンに感じますから」
「それじゃあ、ラムネお姉ちゃんが居ればリビィは幸せになれから何が起きてもセーフ!……えへっ、これならどうかな。さすがに甘えすぎ?」
リビィは甘え癖を持っているが、それでも自分の幸せを委ねるほど頼り切ることには気恥ずかしさを感じた。
だから恥ずかしい気持ちを隠そうとして、慣れない愛想笑いを作ってしまう。
ただラムネからすれば、そのちょっと遠慮している姿さえ愛おしく思えた。
何よりも本当に自分を姉として頼ってくれているので、彼女は自然とリビィに対して姉妹愛を覚えた。
「なにも甘えすぎじゃないですよ。だって、わちきはリビィさんのお姉ちゃんですから!どんどん甘えて下さい!」
「もっと甘えたり、頼ったりしても良いの?」
「もちろんです!わちきは、リビィさんのことを大好きな妹だと思ってますから」
「あ、ありがとうなんだ。ラムネお姉ちゃん」
次にリビィが見せる笑顔は愛想笑いではなく、とろけた目つきの微笑みだ。
それは安堵と憧れの気持ちが入り混じっていて、恋する乙女と同じ表情。
また、ラムネの方は姉妹という関係性を特別視しているので、やる気に満ちた顔つきを見せていた。
そしてリビィの小さなを手を握り、二人は本当の姉妹みたいに楽しく話しながら道を歩くのだった。




