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第9話 宝石

「おい、どういうことだ? なぜあいつは職員室に連れて行かれた? ステータスの測定結果はどうだったんだ?」


 ミラハが職員室にそそくさと連れてかれている様子を見て、ネフトはミラハのステータスを測定していた女性の職員に問いかけた。

 教授と呼ばれたあの男性職員のただ事ではない顔がどうしても気がかりだ。


「実は…… あ、いえ、殿下と言えども他の生徒に見せるのは……」


「ええい、まどろっこしい。その画面を見せよ!」


 測定結果を他の生徒に教えて良いものか思案する女性職員にしびれを切らせて、ネフトは半ば強引に、ステータス測定装置を見た。


 そして、絶句した。


「なっ……!」


 測定装置が映し出す、ミラハのステータスがそこにあった。


 レベル78。


 ステータスの詳細を目を見開いて確認してみれば、軒並み高ステータス。筋力のステータスは78レベルにしてはかなり低いものの、魔力を始め、およそ15歳の子どもが持っていて良い数値を遥かに超えている。


 ネフトはしばし呆然とし、職員に視線を向ける。


「この装置、壊れているわけではないのだな?」


「え、ええ。先程別の装置でも測定しましたが、結果は同じ。こちらの測定装置は教授が普段使われている教職員用のものなので、測定間違えではありません。教授の特注品ですし……」


 測定装置の故障なら、あるいは。

 そう思っていたが、どうやらその可能性はほとんどないらしい。


 信じられない。


 故障でなければこの数値が意味するものはなにか? ネフトは考える。王国随一の騎士であるアイレイヤ騎士団長でさえ、レベルは60台だと聞く。レベル78など、それこそお伽噺に出てくる魔王や勇者、聖女の域だ。……いや、それ以上かもしれない。


 何か機械に細工をしたのか?

 いや、そんなことをする意味がない。


 だとすればレベル78は本物だ。


 それに、ネフトは知っている。

 自分の持つ魔眼でミラハを“視た”のだ。

 ミラハが良い魔力を持っており、強いということはなんとなく目で分かっては居たが、こうも想像を超えてくるとは。



「……くくく、やはりヤツは面白い女だ」






****




 ど う し て こ う な っ た。



 私、ミラハ15歳!

 こっちは職員室という名の尋問室に私を連行するヒゲモジャ教授!

 入学式でステータスを測定していたら、強面のヒゲモジャ教授に職員室まで連行されているの!


 もう一度言おう。



 ど う し て こ う な っ た。



 いや、理由は想像がつく。

 ズバリ、私がステータス測定装置を壊したからだ。


 ……でもさ、私悪くないよね? 普通に指示通りに使っただけだよね? もしも使い方が間違っていて壊れたのなら、私のせいじゃなくて、指示した職員が悪いやんね? ね? そうだと言ってよ、ヒゲモジャ教授!


「入りなさい」


「……はい」



 怒りを凝縮して雷のような凄みを出した低音ボイスで、ヒゲモジャ教授が静かに言う。私はもうどうすることも出来ない哀れな子羊。ただイエスマンになるしかない。イエスマンじゃなくて、イエスウーマンか。はは(乾いた笑い)。最高。


 入学早々、備品を壊す。

 父上たちにも連絡がいくだろうし、しばらくはクラスの中でも笑い者になることだろう。


 なぜ!? 私の平和な青春アオハルライフどこに行った!


 ヒゲモジャ教授に促されて椅子に座る。

 今、私とヒゲモジャ教授は来客用のソファに対面で座っている形だ。ヒゲモジャ教授は顔の前で手を組み、めちゃくちゃ凄みを出している。


 ……まずいな。

 どうしよう、初手土下座すれば良い? この世界にも土下座文化ある? 私は見たことないぞ? 土下寝が正解?

 それともアレか、悪役令嬢ムーブで親の権力をチラつかせて他言しないように圧力かけるべきか……?


「ミラハ君の測定結果だが……」


「は、はい」


 ヒゲモジャ教授が重たく口を開く。


「ミラハ君はレベル78。ステータスもそれに見合っている。特に魔力のステータスが良いね」


「え、ええ」


 そ、そうだね。無駄に毎日魔物狩っていたしね……

 まともに測定したことなかったけど、ステータスの中では魔力が一番高いと思うよ。

 ていうか、私、結構高レベルじゃね? レベルの上限がいくつか知らないけど。


 で、レベルとステータスがどうしたの……? なにかの暗示か? 今の会話って、頭のいい人特有の、省略して言葉を交わす系の会話か?


 ……んあ? ひょっとして……


 もしかして:私、褒められている?


 ……普通に褒められただけか? いや、やっぱり遠回しに装置壊したこと怒ってるのか? あの装置見るからに高そうだったしな……


「あ、あの。さっきの装置が壊れて……」


「いやいや! そんな事あるわけがなかろう! さっきキミが使っていたのは私の特注品だ。セキュリティも最高クラス、整備も私が自分でしている。今朝もメンテナンスしたばかりだ!

 キミがなにか細工をしたわけでもないのは私が一番理解している! いやむしろ、アレに細工できるならそれはそれで実に興味深い!」


「え、ええ……」


 うわ何この人。急にテンション爆上がりがりしてきたんだけど? 情緒不安定なの? 大丈夫? お薬飲む?

 たぶん、装置とか機械とか好きなオタクなんだろうな。自分の好きなことになると急に早口になる。まあ、分からなくもないよ? パソコンの中身とかゲーム機の中身とか、見るとテンション上がるよね。


 まあ、とりあえず怒っているわけではないらしい。よかった。

 あの装置は教授の持ち物みたいで、そんな易々と壊れたりしないものらしい。私なんかが小細工しても、たとえ逆立ちして町内一周したとしても、壊れることはない、とのこと。

 ……めっちゃ頑丈じゃん。


 じゃあ、教授はなんで私を呼び出したの?

 あの装置を使ったことによる使用料の請求か!? ……いや、そんなこと有るわけ無いか。


「あの、教授。私が呼び出された理由はなんでしょうか……?」


「おお! すまなかったな。話が脱線してしまった。

 キミを呼び出したのは他でもない。ぜひ、国王に会ってもらいたいからだ」


「はい~?」



*****



 日も落ち、辺りが黄昏(たそがれ)時になってきた頃、ヒゲモジャの教授―― ゲモジヤ教授は豪勢な研究室の中でふぅと一息つき、先程の出来事を思い返していた。



 入学する生徒の中で、特に輝く原石を見つけるのが毎年の楽しみだ。


 今年はなんと言っても、ネフト王子が入学される。

 武を尊ぶこの国では多少の差はあれど、王族はもれなく全員「武」に秀でている。ネフト殿下も例にもれず、15歳ながらも26レベルというステータスを叩き出し、将来の成長が楽しみで仕方ない。


 やはり今年の一番の原石はネフト殿下か、そう考えていた。

 しかしそんな矢先、信じがたい知らせを受けた。


 混乱と驚きが混じった様子の職員から告げられたのは、ステータス装置がレベル78を示している子がいるということ。職員はおそらく装置が壊れているといったが、ゲモジヤ教授にはそうは思えなかった。

 なぜなら、今日使う予定だったステータス測定装置は、昨日、ゲモジヤ教授自ら調整・整備したものだったからだ。年に1度のこのイベントが楽しみで、昨日はしっかりと整備した。


 もちろん、今日使う予定だった装置は汎用品だから壊れる可能性ももちろん有る。レベル78という数字は(はなは)だおかしいのは当然として、なぜそんな結果を装置は示したのか。ゲモジヤ教授が考えた結論は『ハッキングされた』という可能性だった。



 汎用品は汎用品であるが故に完璧ではない。とくに素質と技術がある者には装置をハッキングすることも可能だ。

 実は過去にこの学院で一人だけハッキングして自分のステータスを高く見せた者がいた。その生徒はこっぴどく怒られたが成績は軒並み優秀だった。


 教授は心躍った。

 不正をしているというのはもちろんダメなことだが、そんなことはどうでもいいことだ。大事なのは不正ができるだけの素養と技術をもった生徒が入学したということ。


 その生徒を自分の目で見て、本当のステータスも測定してみたい。

 そう思い、特注した自分専用の測定装置でその生徒に測らせた。


「その結果がアレだ」


 結果はレベル78。

 そう、アレは嘘偽りない事実だったのだ。


 黒髪に紅蓮の瞳。まるで裏切りの魔女を想い起こさせるようなその生徒は、まさに「神童」。陳腐な表現になってしまうかもしれないが、もっとシンプルに「神」だと言っても良い。それくらいありえないことだった。


 ゲモジヤ教授は国から秘密の依頼として、有望な生徒を報告するように言われている。


 国家機密だが、『魔王が復活する兆しがある』という事情もあり、国は魔王討伐に向け有望な人材に目をつけておきたいのだ。魔王が復活するのならば、伝説のように、勇者や聖女、その仲間たちのように強い者でなければ魔王を倒せない。


「彼女は報告だけで済ませていい人ではないからな……」


 レベル78の少女、名前はミラハ=フレイグル。

 彼女は必ず、魔王討伐においてキーパーソンとなる。彼女にとっても早いうちから王に謁見しておいて損はないだろう。



「いやぁ、それにしても今年は大粒の原石ばかりだ」


 第2王子に、有力貴族の息子、それに平民では有るが光属性を扱う少女も入学した。

 原石とは、もちろんそれはそれで美しい輝きを放つが、磨けば、より美しく輝く。そして、原石を磨く仕事は自分たち教員の役割だ。



 ――今年は何かが起こる。教員として、見守っていこうじゃないか。

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