第8話 テンプラ
はい。アルタリト学院の入学式当日です。
つまり、ゲーム『剣と魔法と貴公子たち』が始まる。
ついにこの日が来てしまった。前世を思い出してから約8年。長かったようで短かったような感じだ。この8年で準備できるだけのことはしてきただろう。
私は生きる。
私は死なない。
この目標を達成するために、私は自己研鑽に励んできた。そうそう死んでやるつもりはない。断罪イベントなどは避けるに限るが、最悪断罪イベント不可避な状況に陥ったら私の全力を持って抵抗してやる。爪痕の一つや二つくらい王国に残してやるからな。
「ふぅ……」
アルタリト学院の入学式は、普通に日本の入学式とあまり変わらない感じらしい。椅子が鉄パイプではなくてちゃんとした椅子だけど、体育館のような講堂に椅子が並べられ、そこに我々生徒が座っている形だ。
今現在は入学式開会を待っている状態。
アルタリト学院は500年ほど前に勇者と聖女がアルタート王国建国と同時に設立した学院で由緒正しき学院だ。
学院設立の際、勇者が「身分の違いを問わず、誰にでも門が開かれた学院を」という理念を掲げたため、このアルタリト学院の中では身分の違いで差別することが校則で禁じられている。
そういった理由もあってか、入学式を待っている今も、席順が身分の高い順になっているとかは特にない。まあ、そのせいもあって一緒に入学したセレネムとはだいぶ席が離れることになってしまったけど。……セレネム、私寂しいヨ……
「それではこれよりアルタリト学院、第500回生の入学式を執り行います」
しばらく待っていると入学式が始まった。
アルタリト学院の歴史。勇者と聖女の話。アルタート王国の歴史。校長先生の身の上話。
どうやらこの世界でも入学式に校長先生の長話という、古来からの伝統が有るらしい。そんな伝統日本だけで十分だからやめて。
ようやっと校長先生の話が終わると、王国の国歌を歌って、それで入学式は終了。もしかして:校長先生の話がなかったら入学式は10分くらいで終わったのでは? ……この話はやめよう。私の精神が蝕まれる。
「それでは入学式の後は、そのままステータス測定に入ります。測定装置は複数台ありますが、数に限りがありますので順番に行っていきます」
なに? ステータスを測定とな?
というかステータスを測ることのできる機械なんてあるのか…… あかんな。フレイグル家で箱入り娘並に大切に育てられてきたから世間様の常識が全然わからん。訓練でもそんな装置使わなかったしなぁ。
ステータス測定装置って、体力とか筋力とかのステータスが数値で分かるのかな? そんなご都合主義なこと有る?
いや、この世界はもともとゲームの世界だ。当然『剣と魔法と貴公子たち』のプレイ中もステータスは確認できたわけだから、まあ、できてある意味当然か。私も自分のステータスがどんな感じか知りたいな。
「おお! さすがはネフト殿下! 入学時点から既に26レベルとは! ステータスも素晴らしいものでございます! 特に【筋力】が素晴らしい!」
「ふっ、当然だな。……まあ、俺より上のやつが2人はいるがな」
「え?」
「いや、なんでもないさ」
ぽけ―っと自分の順番が回ってくるのを待っていると、学院の職員がネフト殿下を称賛する大きな声が聞こえてきた。
なるほどネフト殿下は26レベルなのか。
そういえばネフト殿下といえば、私は以前に会ったことがあるな。アレは確かネフト殿下の10歳の誕生パーティだった。今から5年位前かぁ。……あんまり覚えてないや。
でもたしか、ネフト殿下が意外といいやつっぽかった気がする。
あ! そうだ!
たしかネフト殿下、目が少し特殊とか言ってなかったか?! 絶対魔眼的なものでしょ! この世界にも魔眼的なものが有るのは調べがついているのです!
いいなぁ、私も魔眼欲しい…… 無理か。しょせんお邪魔キャラの私にはメインキャラ様みたいな高待遇は期待できまい。
「次、ミラハ=フレイグルさん」
「あ、はい」
脳内で思考を巡らせていると私の順番がきた。ステータスをこんな装置で図ったことはないのでちょっとドキドキする。ムネがドキドキだ。
ステータス測定装置は、水晶玉のような球体が上部に取り付けられた機械だ。いわゆる魔法具なのだろう。
「ではその球体に手を当ててください。測定が終わるまでは手を離さないでください」
「分かりましたわ」
言われた通り水晶玉に手を当ててしばらく待ってみる。すると水晶玉が淡く青色に輝き、それから少しすると光は消えていった。
「もうよろしいですか?」
測定が終わったっぽいのでもう手を離して良いのだろうけれど、職員が機械を見つめて何も言わないので聞いてみるが反応がない。
おっ? 無視か? いいのかそんなことして? こちとら辺境伯のご令嬢ゾ? 無視すると泣いちゃうぞ?
「あの? ……聞こえておりませんの?」
「……! し、失礼しました。ミラハさん、少々おまちください。どうやら機械が故障しているようでして……」
「あら。仕方がないですわね」
どうやらステータス測定装置が壊れているらしい。そりゃ仕方がない。とっとと測定してステータス確認してみたかったけどな~
「くくく。どうやらミラハ嬢は機械を壊すのがお得意のようだ」
振り返るとそこにはドヤ顔でニヤニヤしているネフト殿下がいらっしゃいましたとさ。
なんやねんワレェ。壊したくて機械壊したわけじゃないぞ!
最後に見たのは5年前の誕生パーティだけど、随分とまあイケメンに育って!
「あら、ネフト殿下。ご機嫌麗しゅう。お久しぶりでございますね。
何か御用でしたか?」
「いやなに。測定が終わって暇をしていたら、見知った顔がいるではないか。思わず声をかけてしまっただけだ。
くくく。すまんな。あまりに傑作で笑いをこらえることができぬわ」
くくくと笑う殿下。
そういえば5年前もこんな感じで笑っていましたねぇ。口に手を当てて小さく笑う姿は5年経っても変わらないらしい。
ゲーム『剣と魔法と貴公子たち』でミラハはよく死ぬが、死因の3割位を占めるのが、このネフト殿下に関連するイベントだ。
……だんだんと思い出してきた。
ネフト殿下は結構俺様系のキャラで、主人公と殿下の恋をミラハが邪魔すると、割と実力行使に出やすかった気がする。主人公ちゃんがミラハにいじめられると、次の日急にミラハが無残な姿で見つかったりとか……はそこまでないけど。
とりあえず今のところは殿下のご機嫌を下げていないようだ。むしろ機嫌アゲアゲに貢献していると言っても過言ではない。
どちらにしてもまあ、ゲームの主人公ちゃんの恋を邪魔しなければ断罪イベントは大丈夫でしょ。たぶん。
「おまたせしました。すみませんがあちらにある別の機械でもう一度測定してもらえますか?」
お、きたきた。
先程の職員に連れられて、別のところにある機械で計測。なにやら先程の職員だけじゃなく、髭をたくわえた、頭良さそうな御仁も一緒にいる。
っふ――…… 私、なにかやっちゃいました?
「ほら、さっさと測らぬか。俺も貴様のステータスがどのくらいか気になるからな。早く測れ」
……ついでにネフト殿下もついてきた。
めっちゃ急かしてくるし!
っへ! 私ってば、フレイグル家所有のダンジョンで日々遊んでるもんね! そこそこいい数字出すぞ!
……まあ、仮にネフト殿下と戦ったら勝てるかは知らないけれど。
いつもダンジョンに湧く同じモンスターをひたすら狩ってるだけだからね…… 戦闘経験ほぼ無しといってもいいだろう。
「…こ、これは!」
「教授! やはり……!」
どよめき出す職員の人達。
ふふん♪
どうだ。子供にしてはなかなかやるでしょ? 神童とでも言ってくださいな。
まあ、「十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人」って言葉もある通り、「子供にしては」強いってだけで学院卒業後には主人公ちゃんズにめちゃくちゃ追い抜かれているだろうね。悲しいかな。
「ミラハ君」
「え、はい。なんでしょう?」
突然、教授と呼ばれた髭の男性から真剣な声で呼ばれた。不意打ちは心臓に悪いからやめてくれ。
「このあとすぐに職員室に来てくれ、キミに話がある。ここでは話しにくいのでな」
……?!
ヒゲモジャの偉そうな教授が声を低くして言う。
教授の顔は、まるで顔に金剛力士像を飼っているかのように眉間にシワがよっている。
……完全にブチギレてる感じじゃないですか?
っふ――――……
私、なにか壊しちゃいました?
やべえよやべえよ。
絶対さっきの機械壊れたこと怒られるよ… 高そうな機械だし……! え、でもアレって私悪くないよね? 言われたとおり水晶玉に触れただけだもんね?




