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第六十二話「馬車と黒妖犬モドキ」

 高級馬車(キャリッジ)の中に入ると、御者席にカーシャが居た。

 一見子供にしかみえない赤髪エルフの女官。


「なんであなたが居るんですか。どこに行くかわかってますよね?」

「従者のお二人に、一番いいものを選んであげたついでです。魔導式の中でもこれは特別仕様なのですよ」

「殿下には?」

「……ご存じでしょう。話してしまったら来れなくなるので」


 動物が()いていない、ただでさえ貴重な魔導式送迎車(リムジン)に、さらに飛行機能が付与(エンチャント)されていた。

 いうなれば高級馬車(キャリッジ)の形をした小型魔導艇。

 軍用のものはともかく、このタイプは軍閥内でも二台しか所有が把握されてない。

 維持がやたら面倒で超高価というのが大半の理由。

 帰れといっても帰らないだろうし、勿体ないとかは言ってられないので、ありがたく利用させてもらおう。

 南区の関所から一気に下り、ティンバラの領境(りょうざかい)を抜けた。

 リヴル村までの最短ルートを選び、山野を突き抜ける。


 アンガー中央部からやや南。

 中央部と南部を隔てる大河、マイアス川を超えたあたりで地上の異変に気付いた。

 

「リョーリ、あれをみてみろ」


 庭師モローに促されて窓を覗く。

 荒野。

 大量の魔物の群れに一台の馬車が追われていた。


「あれは黒妖犬(バーゲスト)ってやつですかね」

「似てるけど黒妖犬(バーゲスト)モドキだね。突然変異して大量発生するやつだ」

「どうする、助けてやるか?」

黒妖犬(バーゲスト)モドキ数体くらいならC級対象だけど、あの数だと間違いなくA級からS級対象だよ。やるなら複数の腕利きの冒険者パーティ集めて編隊を組まないと」


 黒妖犬(バーゲスト)モドキ。

 動物の死肉や魔力を主食とする黒い犬型の魔物だ。

 少なくとも五〇〇体はいる。

 侍女ミルドは裏社会に入る前は冒険者だった。

 目算に間違いはないだろう。


 命を知るものは巌牆(がんしょう)の下に立たず。

 天命、つまり()すべきことを知る者は、やたらと危険な場所には立ち寄らない。

 性善説で有名な孟子(もうし)の言葉だ。

 君子危うきに近寄らず、と似ているが少しニュアンスが違う。


 助けてやりたいところだが、今は人の事まで手が回らん。

 クケイの事が気になる。

 早くリヴル村まで行きたい。


「かわいそうですが先を――――」


 ズキン!


 体感時間の圧縮。

 ここでくるか。

 一つの破滅的結末(バッドエンド)がみえた。

 今回はそこへ至るまでの経緯や断片的な情景はみせてくれなかった。

 

 これは王子サグラとの初顔合わせの時にみたやつと一緒か。

 数年後の俺、鸞子(ランコ)、クケイ、王子サグラが処刑される将来。

 いや、少し変わっている。

 断頭台の近くで、みたことのない人族の少女が泣き崩れている。

 

 クケイへのキスハントを阻止したことで、おそらく回避したはず。

 それとも馬車を助けないことで、運命みたいなある種の強制力が働いて、あの将来へ帰結してしまうのだろうか。

 

 情報の整理が終わると体感時間がもとに戻る。

 

「リョーリ様、あの馬車からなんとなく同族の気配がします。出過ぎた願いだとは承知していますが――――」

「助けましょう。魔力と内功から乗っているのは一人と思います」

「え!? はい、では空から並走して助け出しましょうか」

「そんな時間はないと思います。僕が先に降りるので、カーシャさんは合図するまで旋回しててください。何かあったら念話で指示します」

「しょ、承知しました」

「あたしは?」

「ミルドは僕に付いてきて、指示がなければ飛翔しながら最善と思う行動をとってください。モローはカーシャさんの補助と護衛を」

「おう」


 内息を整えて、次元移動(モトゥスコルディナーレ)で外へ出た。

 静寂から一気に風と騒音に包まれる。

 慣性の法則に逆らって、飛翔せよ(マカイェロ)風よ(ヴィントゥス)で軌道修正。

 降下しながら様子を確認する。


 この前もらったばかりの魔剣、善女(ぜんにょ)喚起(シャイェーラ)して取り出す。


 魔物が馬車に追いついた。

 馬車が転げてハーネスは千切れ、()いていた二匹の馬がちりじりに走り逃げていく。

 転げた馬車に群がる黒妖犬(バーゲスト)モドキ。


 死んではいない。

 内功もしっかり感じるし、魔力もわりと大きい。

 ただ、不可視の体(マナス)から心境を察するに、かなり怯えている。

 

 魔力の高まりを感じた瞬間、魔物を弾くように水色の魔法障壁(パヴィーナス)がドーム状に展開された。

 馬車三台分くらいの大きさ。

 魔法障壁(パヴィーナス)は少しずつ縮小していく。

 破壊→再展開を高速で繰り返しているのだ。

 実力は上級者(セニオル)くらいか。

 しかし、このままではジリ貧だ。

 

 おそらく、あの魔法障壁(パヴィーナス)の精度なら俺の魔法にもある程度耐えられるだろう。

 魔力増幅はなし。

 善女を一振り、Lv4小魔の雷撃(ディアボルトゥニトゥルア)を発動。

 いくつもの放電路を辿って、黒妖犬(バーゲスト)モドキの群れに(いかずち)が降り注ぐ。

 三割と少しを(たお)した。


 群れは馬車から一度離れて、複数のリーダーのもとへ集結していく。

 一定の知性があるようだ。


 その隙に魔法障壁(パヴィーナス)のドームへ着地した。

 次元移動(モトゥスコルディナーレ)で水色の魔法障壁(パヴィーナス)を通過できなかった。

 魔法に不可視の体(マナス)が強く関連付けられていて、拒絶されている。

 こういうこともある、A○フィールドみたいなもんと考えよう。

 

 善女で障壁を切り裂き、魔力操作で一時的に再展開を阻害させて中へ入った。

 馬車は九〇度横転している。


 中には一人の少女がいた。

 青みがかった銀髪に、少し(とが)った耳。

 ルヴァ教の修道服と目を引く首飾り。

 歳は単純に測れないが、精神年齢高そうなカーシャと比べると雰囲気的に幼そうなエルフだった。

 泣きながら縮こまって、小さく震えている。


「やぁ……殺さないで!」

 

 攻撃にもなってない腕を交互に突きだす動作は、抵抗の現れなのだろうか。

 

「殺しません、大丈夫ですよ」


 抱き上げて馬車から外へ連れ出すと、目をぱちくりとさせる。

 態勢を整え直した魔物の群れが水色の魔法障壁(パヴィーナス)を削っていた。

 黒妖犬(バーゲスト)モドキまみれで視界が暗い。


「このままだと外へ魔法を使えませんから、あなたの魔法障壁(パヴィーナス)を解除していただけますか」

「そんなことしたら死んじゃうでしょ!」

「すでに僕が内側から魔法障壁(パヴィーナス)を展開しているので死にません」

「……わかった。どうなっても知らないからね」

「(ミルド、周りに何か傷つけちゃまずそうなものありますか?)」

「(あんたらと魔物しかいないよ)」

「(わかりました。デカいの撃つから気をつけてくださいね)」

「(あいよ)」


 念話は普通に使えるので問題ない。

 破壊魔法はやってみないとわからないので、解除して欲しかった。

 

 善女を魔物たちへ向けて突きだす。

 エルフの少女は震えていたので、手を繋いでやる。

 

 解除。

 と同時に、俺の魔法障壁(パヴィーナス)越しにLv4歪な炎(ヴォルテフラミス)を発動させた。

 いつもように火炎放射じゃなく、俺を起点として円状に周囲一帯を巻き込むイメージ。

 視界が一転、赤い炎につつまれる。

 魔法障壁(パヴィーナス)越しでも少々感じる熱気と叫喚(きょうかん)

 二〇秒ほど経ってから、消火ついでにLv4凍えよ(ジェリドゥス)に切り替え。

 冷気の波紋が行きわたったあと、静けさとともに視界が開けた。


 ほぼ全て(たお)せた。

 斃した個体は消滅し、ピンク色の小さな魔石へと変わっている。

 生き残った極わずかの黒妖犬(バーゲスト)モドキは四方八方へ散って行った。


 カーシャに合図して魔導艇は着陸。


「き、キミは神様の使いか、転生した魔王かなにかなのかな……」

「僕は人間ですよ」

「すごいもんみさせてもらった。あたし何もすることないんだもん」

「上で見てくれてたおかげで、安心して魔法が使えましたよ」

「落ちてた魔石拾ってきたぞ。燃料につかえるやつだし、しばらく困らねえな」

「金貨20枚ってとこかしらね。ギルドに登録しとけば懸賞金と報奨金たんまりもらえたのにね」


 少女はペタンと腰を抜かしたあと、安堵からか、じわりと粗相していた。

 服飾創造(ダライズエンバス)で手頃なルヴァ教修道服を用意。

 さすがに直接やるのはイカンので、カーシャとミルドが着替えさせた。


「私はミリア・グレイシア。助けてくれてありがとうございます」

「僕はリョーリです」


 身分を伏せて自己紹介したあと、軽くお互いの事情を話し合った。

 ミリア・グレイシア。

 ヴェーア系ハイエルフで、年齢は見た目通り九歳。

 ハイエルフはエルフ社会において貴族的存在で、より魔法に恵まれる傾向にあるという。

 不可視の体(マナス)が強固で精神感応(テレパス)への耐性がわりと高いのは種族ゆえなのだろう。


 ミリアはディヒャスヴァル聖国に籍を置くルヴァ教一派のシスターで、シゲファース辺境伯領へ説教しにいった帰りらしい。

 説教の内容は厳しい税の取立て、行き過ぎた刑罰、異民族統治について。

 当然シゲファース辺境伯のチョウ・シゲファース=アシリンクから怒りを買い、他のルヴァ教徒たちは帰り道で暗殺。

 ミリアは回復補助に特化した上級者(セニオル)で、その魔法を使って命からがらアンガーまで落ち延びた。

 そして今度は黒妖犬(バーゲスト)モドキの群れに襲われた挙句、御者に逃げられて今に至る。


「ここからだとカレリューモアかグノーヴァーが近い。しかし、僕たちもこれ以上寄り道したくはありません」

「私はこんなだけど神に仕える身、邪教から人々を救うのならお手伝いさせてほしいな」

「暗殺者やさっきの黒妖犬(バーゲスト)の群れよりおそろしい目に()うかもしれませんよ、ミリアさん」

「リョーリ君より怖い人はいないと思うんだけど。おかげで恥ずかしいところみられちゃったし……」

「あ、別に呼び捨ててもらって構いませんよ」

「じゃあ私の事もミリアって呼んでほしいな」

「ミリア様はヴェーア系ハイエルフで特殊な魔法を使われます。まだお若いですが、決して足手まといにはならないでしょう」

「わかりました。ミリア、これから少しの間よろしくお願いします」

「うん、よろしくね!」


 先の未来視。

 このエルフ少女を生き残らせたことが、俺の破滅回避に間接的に繋がったりするのだろうか。

 あるいは、今から(おもむ)くリヴル村で何か……。


 ともかく移動再開。

 リヴル村到着まではあと一時間かからないくらい。

 

 エルフが一人増えた。

 落ち着いてから、しかも美少女であることを実感した。

 今後もどう転ぶかわからん以上しっかり備えておかないと。

 魔力増幅(ダリーサーラ)を数回唱えて、魔力を回復させながら(まぶた)を閉じた。

☆ステータス☆

名前:カーシャ

性別:女

種族:レッドエルフ

出身:?

職業:帝国貴族女男爵 女官

魔法:上級者(セニオル)

武術:なし

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