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第二十一話「お姉様たち」

 クケイの慶事があってから一ヶ月後。


 ティンバラ南区のサアン砦。

 側室サリヤの居城である。

 古代では南の要衝、主に兵站(へいたん)拠点として機能していたという砦だ。

 現在は居住に特化していて、砦らしいものといえば城壁にある高射砲陣地の跡位しかない。

 

「リョーリ様は普段何をしていらっしゃるの?」


 俺は現在三人の女の子に囲まれていた。


「魔法や武芸の修練、勉強ですかね」

「スヴォーたちからご聡明と聞き及んでますわ!」

上級者(セニオル)なのでしょう? 今度わたくしに魔法をご教授下さらないかしら」

「いいえ、私が先に勉学を教えていただくの!」

「リョーリ様にご迷惑がかかりますよぅ」

「ジェラーゼは黙ってて!」

「はぃぃ……」

 

 何を隠そう我が姉たちである。

 上から次女レギナ、三女サブリナ、四女ジェラーゼ。

 

 レギナは赤毛でそばかすがチャーミング。

 少し傲慢(ごうまん)そうで、語尾が一々強くなる。


 サブリナは金髪で、目立たないグレーとブルーのオッドアイ。

 母のエリーザ、弟の四男ヴェンツェル、八男ツェーザルも同じオッドアイなので、恐らく一般的な虹彩異色症(オッドアイ)じゃなく民族的なものだろう。

 一見お(しと)やかにみえるが、この子も押しが強い。

 

 ジェラーゼはレギナと同じサリヤの子。

 赤毛だがそばかすはなく、押しの強い姉たちと違って控えめ。


 目上の彼女らが『様』をつけるのは、正室の子で継承権があるからだそう。

 他の側室の男子らにもあるはずだが、そこらへんは血統の問題で賛否両論。

 特にマーグラの実家は()()()()()()()()()出身だからとかなんとか。


 訂正しても聞かなかったのでほっとくことにした。


 俺が姉たちに揉みくちゃにされているのを面白くなさそうに眺めているのは、鸞子(ランコ)である。

 何も言って来ないのが逆に怖く、夜の愛の鞭(かわいがり)が厳しくなるのは当然の報いといえよう。


「ご聡明な上に可愛らしさも兼ね備えてらっしゃって、犯罪ものね」

「しっかし、あの生意気なランと同じ見た目なのに全然違うようにみえるわ!」

「……姉上の悪口は許しませんよ」

「怒ってる顔もかわいい!」


 駄目だこりゃ。

 でも、頬擦りされたりするのは色々満たされるので、今回だけは勘弁してやる。


 もし少しでも鸞子をイジめたら……。

 

「ランコちゃんあなたも止めて」


 ジェラーゼが静観を決めている鸞子の許に駆け寄る。

 心底どうでも良さそうに、


「ジェラーゼ姉様も揉んで来ればいいんじゃないかしら?」

「揉むだなんて、はしたない……」


 ジェラーゼは頬を抑えて首を振っていた。


「わたくしとサブリナは来年進学いたします。そのために少しでもご助言いただけると助かりますわ!」

「僕でよければ喜んで協力しますが、お役に立てるかどうか」


 レギナは赤毛を振り乱し息巻き、


「ランが申しておりました。リョーリ様は神医ソフィア様に学ぶ前からなんでも知っていて、教えるのがお上手だったと!」


 鸞子の方をみると、わざとらしく口笛を吹いている。

 自慢したのか……。

 (ラン)に何かを教えたのは師匠(ソフィア)が来る前の一年間位で、大したことは教えてないけど。


「ジェラーゼやランは同じ学年だから羨ましいわ。お兄様や弟だって殿方同士のお付き合いがあるというのに、私とレギナときたら……」


 サブリナは俺の首筋に手をやりながら嘆息した。

 なんだよ殿方同士のお付き合いって。


「わかりました、今度機会を作りましょう」

「本当ですの!?」

「嘘は申しません。母上たちにお伺いを立ててどうするか決めます」


 即日ヒミカに相談すると、


「いいんじゃない?」


 と、軽いノリで側室たちに話を通してくれた。


 オウヨウ、サリヤ、エリーザの三側室と話し合って、半月に一度、サアン砦でお嬢様たちと勉強会を開くことになった。

 俺の体力的にも精神的にも、半月に一回位が丁度いいんじゃないかというヒミカの提案である。


「三人ともずっと一緒に育ってきて仲がいいの。サリヤもエリーザも子育ては乳母や家庭教師に任せっきりにしてたから、ちょっと傲慢(ごうまん)だったりひねくれてたりするのよね。自信過剰、というべきかしら」

「母上たちのやりとりをみて、影響されちゃったんでしょうね」

「……あなたにはそう見えるの? 恥じ入るばかりだわ」

「すみません、失礼を承知で申しました。しかし母上たちのやりとりは人心掌握術、権謀術数、党利党略の一環で、一つ一つの言動に深い意味があって計算されているものなので……。つまり、悪いところだけ学んだ姉上たちが成長していくと、将来そういった経験豊かで深謀遠慮な方々にヤラれちゃう危険性はありますね」

「負けは負けとして次に繋げられたらいいのだけれど、最初の掴みで次に繋げられない負けは避けたいわね」


 ヒミカは言い終わったあとに、ハッと我に返ったような顔をした。

 (まず)いこと言ったかな。


「……あなたはまだ子供なのに、話していると、なんというかソフィやイーラム殿、重臣たちと話してる気分になるわ」

「出過ぎた口を利いてしまいました」

「いいのよ。もっといろんなことを直言してくれると助かるわ」


 微笑みながら、俺の頭を軽く撫でた。


 勉強会の目的は家庭教師から出された宿題を進めるため。

 三人ともサボりがちで家庭教師も手を焼いてるんだとか。

 自分から助言しろだの言ってくるってことは、やる気自体はあるのだろう。

 ()かれたことだけ真摯に答えていれば許してくれるかな。


 勉強会には末女のカナウも来る。

 マーグラにも声を掛けたが反応はなかったそう。

 そも娘のラヴァナは既に進学してるし、何となくプライドが許さなそうだ。

 

 第一回勉強会の予定日は一〇日後だ。

 わりとドキドキしている。

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