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モノクロの蝶  作者: Riviy
第三章:二人のマリオネット
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第三十三ノ世界:その思いと、



ある部屋に広がる鼻腔をくすぐる甘い匂い。と、扉の鍵穴から大量の花びらが部屋に入って来た。花びらはベッドの上でクルクルと渦を巻き、人の形を形作る。そして、フワァと花びらが消えた。するとそこに桜丸が突然現れ、ベッドに落ちた。ベッドが軽く悲鳴をあげるのも気に止めず、桜丸はベッドの上で仰向けになった。布が傷に当たり、すれて痛みが体全体を襲った。痛みに顔を歪めながら起き上がると怪我の場所を確認する。頬と手元、両足に一線。そして、胸元に一線と腹を抉った傷。桜丸は一番痛む腹を庇いながら立ち上がると特効薬を隠している場所へと向かう。


ズルズル、ズルズルと痛みで使い物にならなくなっている左足を引き摺りながらソファーまで辿り着くと座り、目の前のローテーブルの裏へ手を回す。指先のみの感覚で金属のようなものに辿り着くとそれを右に回す。カチリ、と小さな音がした。桜丸は手を抜き、ローテーブルの出っ張ってるところに手をかけて持ち上げる。するとそこには収納スペースがあり、黄緑色の液体が入った小瓶が所狭しと並んでいた。桜丸はその中から小瓶を取り出すと封を切り、一気に飲み干した。背もたれに背を預け、ソファーに軽く身を委ねながら内側からやってくる痛みに耐えた。体中に広がっていた痛みが癒されて行く。空になった小瓶を収納スペースに戻しながら、蓋を閉め、テーブルの裏の金属のようなものを締める。そこまで終わり、ようやっと桜丸は安心してソファーに身を委ねた。


「…………やはり、私には無理です」


そう村正の殺気を思い出して弱気になる。あの殺気は、代表者全員が顔を合わせた時よりも恐ろしく感じた。あの時の恐怖に体が震え、思わず両腕で自分の体を抱きしめ、ギュッと目を瞑った。


「(んな事言ってる場合か?)」


その時、脳内に不機嫌そうな声が響いた。桜丸はゆっくりとその不機嫌そうな声に安心したかのように目を開ける。この声は、先程まで一緒に闘っていた彼の声だ。


「だって、怖いものは怖いじゃないですか」

「(まぁそうだけどよ。それでももう一回云うぜ?汝が殺らなくちゃ意味はねぇんだぜ)」

「わかってます……ねぇ樹丸いー


桜丸はソファーの上で体育座りをしながら脳内に響く低い声、樹丸に話しかける。樹丸は普段は桜丸の脳内にいる能力だ。ある者によっては二重人格と云われるが桜丸も樹丸もそれは断固として「違う」と言い切れる。樹丸は突然現れた訳ではない。桜丸かれが世界に生を受けたその瞬間から一緒にいる能力なのだ。しかし、何故能力である樹丸が桜丸に脳内で話しかけられるのかは不明であり、何故意志を持ち、名前を持ち動いているのも同じく不明である。桜丸はなんとなく、彼の正体が分かっていた。確信はない。けれど、きっとーーー

樹丸が能力であるせいか、能力を解除すると彼が受けていた傷は全て本体である桜丸に移行し、樹丸は脳内に漂う声となる。


「(なんだ)」

「私は、あの人達を殺せるのでしょうか」

「(っ)」


樹丸がその問いに声を詰まらせた。〈闘技場ここ〉では相手を殺さないと生き残れない。桜丸は代表者であるが、あまり殺傷行為をしたくない人物でもあった。彼が住む〈ドラゴン・ライン〉の状況で無理矢理のように闘いに駆り出されてしまい、代表者としての条件を満たすほどに成長してしまっただけなのだ。しかも、その条件の半分以上は樹丸のお陰である。だから、樹丸は桜丸に「何もせずにいろ」と最善と思われる方法を取った。だが彼は自ら、村正へと矛先を向けた。それは彼にしてみれば大きな成長なのだが……


「(なんで、村正あいつを狙った?)」

「んー特別な理由はありません。けれど、樹丸いーの言う通り、私が殺らなくては義両親りょうしんも友人も死んでしまう訳ですし。弱っていた彼を、思いきって殺そうと思った次第です。"弱き者は強き者の糧となる"…そういうものでしょう?」


クスリと、悪びれる様子もなく、俯きながら桜丸は笑う。それに樹丸はハッとし、同じように笑った。嗚呼、汝はそう云う奴だったな。あまり殺傷行為をしたくない心優しい桜丸なんじも、いつの間にか染まっていた。鮮やかな紅い色に。その事実に気付き、樹丸は内心嬉しさ半分、悲しさ半分だった。何故、悲しい?分からない。だが、桜丸はまだまだ未熟。闘いはこなせても先程の発言のように殺せるとは限らない。樹丸は桜丸に言う。すると、タイミング良く桜丸が顔を上げた。そして、空を見つめる。そこにははたから見れば何もないのだが桜丸には見えていた。自分に向かって手を差し伸べる樹丸の姿が。そして、脳内で声のみとなっている樹丸にも桜丸の感情が手に取るように分かった。


「(もし桜丸くーがあいつらを殺せないようなら、オレが殺してやるぜ。オレは汝の能力。なら、殺した本体ほんにん桜丸くーだろう?)」


強引な彼の考えに桜丸はクスリと愉快そうに笑った。そうですね。貴殿がそう仰るのですから。此処で、無理矢理にでも培われた技術が世界を救うのであれば、私はこの震える手を止めましょう。


「ふふ、そうですね」

「(だろ?あ、あと、汝は多分あの匡華って奴と村正って奴と殺し合いすることになると思うぜ。だから………本気出して行けよな?)」


コツンと見えない二人は額を擦り合わせた。樹丸の忠告に桜丸は笑う。


「ええ、頑張ります樹丸いー

「(オレも、本気であの千早おんな始末ころさなくちゃいけねぇ。怒らせちまったらしいし)」

「御愁傷様です」

「(うるせぇええええええええ!!!!!)」


樹丸のもう言うな!と云う絶叫に桜丸はクスクスと笑った。桜丸ひとりでは弱いけれど一緒ふたりでなら、殺しもできる。そう思うとなんだか可笑しくて、嬉しくて、感情がごちゃ混ぜになる。笑っている桜丸につられるように樹丸も笑う。きっと、腹を抱えて笑っているのだろう。


「(…………オレと桜丸くーは一つのいとに繋がれたようなもんか)」

樹丸いー?」

「(なんだぜ?)」


樹丸はふと思った事を桜丸に隠した。一つ目に消滅した〈御伽噺妖精フェアリーテイル・フェアリー〉代表者の能力『ヘンゼルとグレーテル』と似ていて違う樹丸は、クスリと笑って桜丸に確実に殺せる計画を立てようと言った。その桜丸の表情が少し怯えている事に気付きながら。その怯えは対戦相手の匡華と村正が原因のようであった。


「(大丈夫だぜ?)」


樹丸の声援に桜丸は安心したように笑い、樹丸も安心して笑った。


…*…*…


暗い森の中を進む伽爛と彼の前を行く青年と少年。青年の手にはいまだに星空の球体が浮遊しており、少年と同じく黒く塗られた爪の先で球体を左右に小さく誘導して遊んでいる。「教えてあげる」と言われ、森へと連れ出されたが、伽爛は不安で仕方がなかった。脅迫紛いな事もされたことだし、正当防衛効くかな…などと恐怖を違うところに置き換えて現実逃避していた。すると、ある場所で二人が止まった。伽爛も二人から少し距離を取って立ち止まる。そこは木々が円を描くようになっていた。そこに青年は手の中に浮遊していた球体をそっと置くと伽爛を振り返った。鋭く、笑っていない笑みが伽爛を貫き、一瞬ビクリと体が震えた。


「さっき言った事、覚えてる?」

「嗚呼」


さっきとは、あの家での会話だろう。伽爛の答えに青年は満足そうに微笑んだが、やはりその笑みは仮面ニセモノでいまだに伽爛が裏切りやしないかと冷たく鋭い視線を走らせている。一方、少年は伽爛に警戒を払いながらも何かしてくる様子はなさそうだ。青年は刃物を出すとその球体に切っ先を合わせた。これから何が始まると云うんだ?伽爛が恐怖と好奇心に駆られているとそれに気づいたのか少年が伽爛に近寄って来た。片目、右目しか合わない視線と伽爛の視線が交差する。少年の様子に青年が小さく、優しく笑った。初めて、仮面ニセモノを剥ぎ取った純粋な笑みだった。それがなんだか警戒されているのに少し嬉しくて、伽爛は気づかれないようにそっと笑った。青年が伽爛を見やり、伽爛のそばに移動した少年を見やった。静かな視線が交差する。青年は球体に当てていた刃物を退かすと伽爛に向き直り、告げる。


「きみは、本当に覚悟が出来ているんだよね?」


再確認するかのように、念を押され、伽爛は力強く頷いた。


「きみが知りたい事は、もしかするときみの常識を壊すかもしれない、残酷なものかもしれない。それでも?」

「あ、嗚呼。覚悟は決まっているよ。もし、君達が幽霊とかでも私は受け止める…やっぱ幽霊は怖いかな…と、とりあえず、加護夜くんと村正くんの味方きょうはんしゃになった時から決まってる!」

「幽霊はない、さすがに」

「あ、やっぱり?」


この空気を和らげるために言ったのではないにしても伽爛の「幽霊」と云うのを少年が即答で否定すると伽爛は安心したように彼に笑いかけた。伽爛の改めての覚悟に青年と少年の雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。


いつの間にか、ルビと濁点できるようになってて驚いて感動したんで、こんな朝っぱらに投稿です。まぁ、ずっと別のもので代用してたんで、今だに混乱中です。が、慣れていこうかと思いますーなので、色々混ざりますよ!

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