第三十一ノ世界:咲いた二輪の名前
もう一人の青年は村正を射ぬくほどに睨み付けている。それを煽るように村正は鼻で嗤った。
「あ?舐めやがって…!」
もう一人の青年が頭に血が昇り、攻撃しようと駆け出そうとした。が、なにかを感じ取ったのか動きを止めた。青年が首を傾げる中、次の瞬間、二人の青年の足元を狙い、紫色と黒色の靄が放たれた。靄が付着した床からはジュッと焦げ臭い匂いが漂った。青年が焦げ焼けた床に目を見開いた。一体、誰が?ハッと顔を勢い良く上げると匡華と村正を見た。彼らの背後にはいつの間にかこちらに向かって両腕を伸ばす千早とこちらに銃口を向けた鳳嶺がいた。一気に不利となった。その事にもう一人の青年が歯ぎしりをする。
「匡華さん、来ちゃった♪」
「いや、大丈夫だよ千早」
匡華の後ろに立つ千早が悪戯っ子のように笑って言うと匡華はふふっと笑い返した。
「治ったか村正」
「ええ、だいぶ。心配ご無用ですよ鳳嶺」
鳳嶺の問いに村正が愚問と言いたげに鼻で嗤った。それに鳳嶺は微かに肩を竦めた。匡華が二人の会話を耳にして、嬉しそうに小さく笑った。そして、小太刀を横に力強く振る。と蝶が消え去った。普通の小太刀に戻った小太刀を構え、匡華は青年達を威嚇する。
「さあ、どうする?」
青年は静かに顔をしかめた。これ以上、不利な状態で闘っても意味はない。ただ、どちらかが死ぬまで続く殺し合いの開始だと云う事は分かった。と肩に何かに乗ったのか体がガクンと傾いた。何事かと横を見ると愉快げに三日月のように口を裂けてニヤニヤと笑うもう一人の青年がいた。
「オレは闘ってもいいんだぜ?どうする桜丸」
「………」
もう一人の青年は青年の肩に右肘を置いている。腹辺りと胸元辺りが紅く滲んでおり、痛みに堪えているのか汗が額から頬へと落ちていった。それを見て青年は悶々と考えるのを止め、覚悟を決めた。
「申し訳ありませんが、帰らせていただきます。背後から攻撃したことを謝る代わりに、自己紹介でもどうでしょう?」
「………村正、背後から攻撃されたのか?」
「黙ってなさい鳳嶺」
青年の問いかけに鳳嶺が悪戯っ子の笑みで村正に問いかけると彼は素っ気なく返した。後で昨日の仕返しでお説教ですかねぇ…と呑気にこの後を思い、なんだか軽くなった。村正が匡華の視線に気付き、二人は視線のみで会話する。千早と鳳嶺にも視線で合図する。名乗る、と云う事だ。謝る代わり、と云う事は匡華達が何処の代表者かも知らないのだろう。情報を手にしている可能性もあるが、あの青年の少し怯えた表情。手にしていない可能性の方が高いし、もう一人の青年の怪我が酷いため一時休戦を取りたいのだろう。例え自分達が不利になったとしても。一瞬にしてそこまで考えた匡華は青年二人に刃を向けながら言う。
「ならば、そちらから名乗るのが礼儀では?」
「うっ、そうですね……仕方がありません。私は〈ドラゴン・ライン〉代表者、桜丸と申します」
流れるような動作で軽く頭を下げ、青年が言う。そしてもう一人の青年に目配りする。彼は肘を青年の右肩から離し、両肩を竦めながら言う。
「オレは樹丸。どうぞ、よろしく?」
ニィと維持の悪い笑みを浮かべ、その笑みにムッと千早が顔をしかめた。それに気づいたもう一人の青年が千早に向かって悪戯心で言い放つ。
「どっかのお嬢様みたいに穏やかーと思ったら、何処ぞの代表者さんは似合っていない服を着崩すほどに余裕かぁ~?」
千早がブルリと震えた。私を馬鹿にするのはいいわよ。でもね、皆が選んでくれた着物よ。皆が、楽しそうに選んでくれたから私も嬉しかったし楽しかった。必勝祈願の逸品もの。ふふ…皆を悪く言うのは許さないわ……嗚呼、その笑み
「ひっぺがしてあげる」
もう一人の青年の顔面に突然、刃が襲った。目に突き刺さる、と云うところでギリギリで止まり、もう一人の青年は何も出来ず、腰を抜かすのみだった。鳳嶺が目元を押さえて天井を仰ぐ。匡華と村正が千早をゆっくりと振り返る、と鬼の形相の千早がいた。何がどうなのか詳しくは知らないがー多分、「似合っていない」だろうがー彼の言葉が癇に障ったらしい。両腕にまとわせていた靄を納めるがら、千早は笑っていない笑みで自己紹介する。
「〈吉原の華〉代表者、千早」
「……鳳嶺。まぁ、ドンマイ」
「敵にドンマイ言われたかねぇぜ!!」
いや、明らかに今のはお前が悪い。満場一致。悪戯心に千早をからかったからバチが当たったのだ。せめてもの救いは、すぐに二回戦が始まらない事か。
桜丸は撫子色のショートヘアーで右耳にのみ桜を模したピアスをしている。瞳は灰桜色。服は黒檀色の軍服で襟元や袖には龍があしらわれている。下も同じく黒檀色の長ズボンで黒のローファーを履いている。
樹丸は金髪のセミロングで瞳は青磁色。左耳にのみ葉をモチーフにしたピアスをしている。桜丸と同じ色の軍服に身を包んでいるが上はボタンをほとんど外し着崩しているため、中のワイシャツが見え、そのワイシャツのボタンもはずしているのか肌が見えている。長ズボンは普通に履いている。靴は同じく黒のローファー。
桜丸までは分かる。だが樹丸は千早に「着崩し」と言う前に自分を見ろ、である。匡華は千早の様子に苦笑しながら挨拶する。
「私は〈シャドウ・エデン〉代表者、加護夜 匡華だ」
「言うのはしゃくですが、村正と呼ばれています。次"も"覚悟しておいてくださいね」
そう村正が笑っていない笑みと殺気を向けると二人は後退った。恐怖でか桜丸は固まっている。そんな彼の肩を掴み、樹丸はカツン、とローファーの踵で床を叩き鳴らす。すると、遠くの方で勢い良く扉が開く音がした。そして、桜の花びらが見えない風に乗って現れると二人を覆い隠して行く。自己紹介が終わったので撤退するらしい。元々、こちらもそれを承諾しての自己紹介だったので止めはしない。
「んじゃ、またな」
固まったままの桜丸と樹丸を花びらが完全に覆い隠した。すると、花びらがカーテンのように開けた。そこに彼らはおらず、残った花びらがヒラヒラと舞うばかりであった。
微スランプに入ってるんです助けてくださああい!……はい、すいません、はい。
村正と鳳嶺を妖艶組にしたなら、他は?と考えて色んな組み合わせ作ってる自分がいます。




