第十六ノ世界:お菓子に咲いた、
力なく、ヘレーナか双子の手を握った。それにハッと双子がヘレーナを見下ろし、「「愛し子!!」」と声を荒げる。ヘレーナは弱々しげに笑いながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ヘンゼル……グレーテル…あ、りがと…あたしと、一緒に…い、て、くれて……大好、き……」
「「っ」」
にっこりと、穏やかな笑みを双子に向けるヘレーナ。双子は潤んだ瞳をしながら、ヘレーナに向かって叫ぶ。
「ぼくらだって!」
「愛し子のこと!」
「「大好きなんだからっっ!!」」
双子の言葉にヘレーナは嬉しそうに微笑んだ。そして、自分の望みを叶えてくれ、闘った匡華達を見た。そして、「ありがとう」と口を動かした。声を出す事すらままならないようだ。匡華は小さく頷き、語りかけるように言う。
「私は、貴女の願いを聞き入れただけだよ」
「……一言、いいですか」
優しい笑みを浮かべて匡華が言った。その時、不機嫌そうな表情で村正が声を上げた。彼が声を上げたことに驚いたのは匡華以外の全員だった。匡華が頭を軽く下げ、了承の意を示すと村正はいつものように殺気を放ちながらヘレーナと泣く双子を見下ろした。だが、ヘレーナも双子も、殺気に臆する事はない。ヘレーナは、虫の息なためか、それとも感覚が鈍っているためか。ヘレーナは疑問に思っていなかったが、双子も千早も鳳嶺も不思議に思っていた。いつもの殺気ではない。いつもの殺気なのに、「優しい」。匡華は分かっていた。その意味を。それは、村正なりのぎこちない優しさであった。
「……なに」
「僕は、不本意ですがあんた達は素晴らしいと思いますよ。ただの慰めにしかなりませんが」
「……ありがと」
ヘンゼルがポツリ、と言う。と村正は小さく笑った。匡華が涙を拭っている千早と彼女を支える鳳嶺に行こうと促す。「彼らだけにしよう」と言うのだ。それを理解し、匡華達は闘技場から出て行った。もし、ヘレーナが生き返ったら、自分達は喜ぶのだろうか。神様は、殺し合いをさせている。それが、これが、全て神様の思惑通り。匡華は、思う。嗚呼、自分達は、何故、
…*…*…
「……愛し子ぉ…」
ヘレーナは虚ろな瞳で空をー天井、か?ーを見上げていた。自分の死を悟り、罪を悟ったのだった。ヘンゼルとグレーテルは頷き合い、ヘレーナと手を繋いだまま、横たわった。地面というか床というか、そこに広がったヘレーナの血が双子を包み、冷たさも双子を包む。ヘレーナが茫然としているとグレーテルが小さく笑って言った。
「わたしたちも、一緒に逝くよ~」
「能力は、持ち主と共に存在し、消滅するんだ」
「「だから、ずっと、ずっと一緒」」
「……………」
ヘレーナの虚ろな瞳から、美しい涙が零れ落ちた。ヘレーナはゆっくりと目を閉じた。それを感じたのか、双子もゆっくりと目を閉じた。静寂が闘技場を支配する。その時、三人に近寄る者がいた。その者は、三人に近づくと片膝を付き、愛おしげに彼らの頬を優しく撫でた。
「…………あら、この茉亞羅様の欲を踏みにじる…いえ、叶えなかったのはアンタ達だけよ…まぁ」
声的に少女であろうその者は、クシャリとヘレーナの頭を撫でながら、横たわる彼らの前に座ると、何故か晴れ渡る青空を見上げた。そして、頭を撫でていない片手をその空へ、少し掲げた。その指先になにかが触れた。少女は、満足げに笑う。
「しょうがないから許してあげるわ。感謝しなさいよ?本当は、処刑なんだから。それに、これで友人になったって事ね。拒否権はないわよ。文句は…」
そこまで饒舌に言っていると、誰かの頬に水が当たった。嗚呼、此処は雨も降るのか。凄いな。
「…本当………馬鹿ね……アンタたちも……自分も……」
…*…*…
匡華達は、気持ちを切り替えようとした。が、千早はそうはいかなかったらしい。白濁した瞳が、美しく、怒りに燃えていた。よほど、お姉ちゃんと呼ばれ、戯れではあるがヘレーナ達と闘えた事が嬉しかったのだろう。そして、トドメを刺せなかった、いや、倒せなかった事にも怒りを抱いているのは容易く理解出来た。傷を治したーあの特効薬は、何でも治すらしいー彼らは匡華達の部屋で、皆で寛いでいる間、千早はギュッと膝の上で拳を握り締め、涙を堪えていた。そんな彼女を鳳嶺が隣に座り、優しく抱き寄せると胸元に顔を渦ませた。千早は、驚いたようだったが、次第に涙腺は完全に崩壊し、彼の胸で泣き始めた。様々な感情が千早を襲う。怒り、憎しみ、悲しみ……もう、自分でさえ、この感情の意味が分からない。
「村正」
「なんでしょう、匡華」
「神様は、感情を持っているのだろうか」
子供のように泣きじゃくる千早とそんな彼女の頭を撫でて、慰める鳳嶺を見て、匡華はそう呟いた。村正は、何も言えなかった。あの神様は、おそらく匡華の云う通り、感情がなさそうだった。なにせ、殺し合いも消滅も嬉々としていたし、言葉に抑揚がないに近い。死者をなんとも思っていないようであった。そう考えると、感情がないと考えても仕方ないように思えた。それか恐ろしい、か。村正は隣に座る匡華の手に自分の手を重ねた。匡華の手も、震えていた。
「〈御伽噺妖精〉、代表者死亡により、消滅。殺し合えよ?アッハハッ!」
何処からか、耳障りな狂った少年の声が聞こえた。
残り、十




