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モノクロの蝶  作者: Riviy
第一章:毒入りお菓子のハッピーエンド
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第十五ノ世界:血の華と毒の華



肩で息をする音と、周囲を漂う凄まじい殺気。匡華と千早の前には二人を守るように傷だらけの村正と鳳嶺が立っている。彼らから少し距離をおいて、同じく傷だらけのヘレーナと大盾を構えたヘンゼルとグレーテルがいる。全員、満身創痍だった。だが、殺る気は両者共に、恐ろしいほどに有り余っていた。ただ、怪我が酷いだけで。弱い者が狩られる、弱肉強食の世界。流石、「最強」に近しい、世界に与えられし異名を持つ代表者達。

誰かが、足を動かした。床にカツン…と靴の音が小さく反響し、その音が異様に大きく感じられた。


「まだ、お菓子は、たぁくさん、あるよ~?」


ヘレーナがにっこりと笑いながら、棒付きキャンディーに戻ってしまったキャンディーを舌でペロッと舐めると美味しかったのか、恋する乙女のように頬を染めた。ブンッとそのキャンディーを振ると先程までの剣に戻った。双子は片手の指を絡ませながら、クスリと笑い合う。


「ぼくらも」

「まだまだ~」

「「闘えるよ~!愛し子のためにっ!さあ、お菓子を食べよう!!」」


三人を守るかのように、数多くの炎の球体が彼らを囲む。仄かに燃える炎の球体、スポットライトに囲まれた彼らは、まるで御伽噺に出てくる主役のようだ。匡華は村正の隣に静かに躍り出ると小太刀を構える。それに倣って村正も構え、二人は真剣な表情で刃を合わせる。


「こちらも、負けられないのでね」


交差した二つの刃が、美しく輝いた。鳳嶺が千早の視線に気づき、手を差し出して前に引き出す。彼女はそれに「ありがとう」と微笑むと、『闇』の薙刀を構え、白濁した瞳を細める。


「ええ、私だって、まだまだ行けるわ」


千早の答えに鳳嶺が答えるように、片手のみになったマシンガンの銃口をヘレーナ達に向けた。再び、肩で息をする音と凄まじい殺気が彼らを、闘技場全体を支配する。ポタッと、誰か見分けがつかないが、血液が傷口から落ち、床に広がった。ヘレーナが剣を天高く掲げた。来る、そう直感的に理解した匡華と村正が滑るようにヘレーナに向かう。と、それを遮るようにヘンゼルが大盾を構え、グレーテルが右手を前に突き出し、炎の球体で攻撃する。それらを、二人の背後から鳳嶺がマシンガンで炎の球体を打ち落としながら援護する。千早は、薙刀を靄に戻すと鳳嶺と同じく援護に回る。ヘレーナが身近に迫る危機に臆する事なく、逆に三日月のように口元を歪めて嗤った。途端、剣が巨大化し、ヘレーナの手中で浮かんだ。剣の柄頭や刃の付け根には袋に包まれたキャンディーが控えめに装飾されている。大きな剣の影を受け、匡華と村正は視線を合わせ、会話すると後退を始める。それを千早と鳳嶺が援護するが、後退するのを妨げるようにヘンゼルの大盾の攻撃とグレーテルの炎の球体の攻撃が二人を襲う。匡華は、冷静に頭の中で分析する。ヘレーナのあの剣、私達は確実に範囲内だ。どう攻撃するか、いまだに未知数。だとしたら、逃げるが勝ち!


「二人共、早く!くっ」

「ふっふふ~甘いよ~千早おねえちゃん!」


傷が痛み、呻く千早。ヘレーナが三日月のように口元を歪めながら、瞳をランランと輝かせながら手中に浮かぶ大きな剣を後退している最中の匡華と村正、援護していた千早と鳳嶺に向かって振り下ろした。匡華達は、一瞬ダメかと思った。が、それでも希望はまだあった。策は、まだー大袈裟だがー星の数ほどあった。が、その時、剣が突然、動きを止めた。そして、剣がポロポロと袋に包まれたキャンディーになってヘレーナと双子の頭の上に雨のように降り注いだ。双子が訝しげな表情でヘレーナを振り返った。目の前で起きた出来事に双子の前にいた匡華と村正、援護していた千早と鳳嶺も目を丸くした。千早に至ってはその充満した臭いがさらに濃くなったのを嗅ぎ取り、顔を歪めた。


「愛し子?」

「早く、攻撃しなy…「ヘンゼルとグレーテル、来ちゃダメ…」「村正!双子を早く!」」


ヘレーナの弱々しい声と匡華の緊迫した声が響いた。二人の考えが、可笑しな事に一致した。双子がそれにも驚きながら匡華達の方を向いた瞬間、村正は素早い動きで双子の懐に迫ると彼らの片腕を強く自分の方に引きながら後退した。村正の強い力に抵抗する双子の目に優しくも哀しそうに笑う愛し子が映った。鳳嶺が緊迫感を持った表情で千早を背中に隠すと、後退してきた匡華達を横目に見た。そして、真剣な表情で頷く村正に頷き返すとヘレーナに向けてマシンガンの銃口を向けた。それに気づいたグレーテルが怒りに満ちた表情で鳳嶺に掴みかかろうとしていたのを、鳳嶺の背後にいた千早が彼女を抱き締めるように引き止めた。グレーテルが千早を見上げ、睨み付ける、が、彼女がヘレーナと同じように哀しそうに自分を見つめていた事に気付き、動きを止めた。片手にスルリとヘンゼルの手がやって来、指と指を絡めた。その手が震えていて、グレーテルは思わず彼を振り返った。右肩を軽く匡華に掴まれたヘンゼルが隣にいた。その視線は、自分に向かっての苛立ちと、誰かに向かっての殺気で溢れていた。まさか、とグレーテルは思う。まさか、あの愛し子の表情は。あの行動は。グレーテルは恐る恐る、その事実を受け止めるために鳳嶺が向けるマシンガンの銃口を見つめた。


…*…*…


匡華は、驚きながらも冷静さを保とうとする双子を横目に見ると既に立つことさえ困難になっているヘレーナを見た。ヘレーナは目があった匡華に「ありがとう」と小さく、年相応な可愛らしい笑みを浮かべた。真っ赤に染まった笑顔が狂気的であるが、本来ならばそのような可愛らしい笑みを浮かべているはずなのだろう。そう、匡華は場違いながら思ってしまった。ヘレーナはにっこりと微笑みかけた。


「さて、貴方"達"はどういうつもりだい?」


匡華が鋭い視線をヘレーナ、ではなくその奥に悠然と立つ者達に向けた。ヘレーナは憎々しげにその者達を顔だけで振り返りながら睨み付けた。


「どういう、とは?神は言ってはいないだろう?"横取り厳禁"など」


そこいたのは、青年二人。眼鏡をかけているらしい青年の手は紅く染まっており、彼は指と指の間で滴る血を舌で舐め取った。その様子は妖艶で、狂気的で、恐ろしかった。紅く染まった青年の手。その爪は恐ろしいほどに尖っており、触れるだけで傷つきそうだった。ヘレーナは二人を睨み付けながら、言い放つ。


「はぁ~?なにそれ?美味しくなぁ~い」


口元から血が零れ落ちるが、それでもヘレーナは二人の青年に挑発的に言い放つ。ヘレーナが強く掴む服は、紅く染まっていた。紅い華は、ヘレーナの服を染め、ヘレーナに痛みと恐怖を与える。そう、ヘレーナは背後からこの青年達に攻撃されたのだ。最期の一撃として、心臓辺りを。それに気づいたからこそ匡華は、ヘレーナの視線から読み取った願いを叶えたのだ。「双子を、助けて」。自分ヘレーナが死ねば、双子ヘンゼルとグレーテルは消えるであろう。だが、それでもこれほどの痛みはあたしだけで十分。預けられた命を自分の死で殺す罪は、代表者に選ばれた、あたしだけで!!


ヘレーナはスカートのポケットに手を入れる。そして、あまりよくない頭をフル回転させる。背後から突いた、ということはこの闘技場のモチーフとなった世界の代表者か、もしくは自分ヘレーナの情報を手に入れた者か。後者は低い。が、必ずとは云えない。ヘレーナはチラリと匡華達といる双子を見やった。最期の抵抗。ヘレーナはスカートのポケットから素早くナイフを取り出すと二人の青年目掛けて駆けた。痛む傷も、体も、全てを動かし、ヘレーナは驚き目を見開く青年と手についたヘレーナの血であろうものを振って払う青年に向かって殺気を放ちながら、鋭いナイフを向ける。


鳳嶺だれかが、叫んだ。千早だれかが悲鳴に近い声を上げた。匡華あのひと村正あのひとの動く気配がした。双子いとしいのうりょくが、駆けた。


神様か、それとも青年達か。はたまた、ヘレーナか。誰かが、口元を三日月のように歪めて、微笑わらった。


血の華と、毒の華が、可愛らしく、咲き誇った。


「はっ、無様。召喚・伯爵、グランシャラボラス!」


青年が片腕を天高く突き上げる。途端、そこに禍々しい渦が巻き、現れたのは背中にグリフォンの羽を持った犬であった。青年が軽く呻き、額から汗が伝ったように見えた。犬は青年に軽く頭を下げると、こちらに向かってくるヘレーナに向かって飛んだ。どちらも、速さは同じ、のように見えた。だが、召喚されたその犬、いや、悪魔の如く恐ろしいそれはヘレーナとの距離があと少しと云うところで、自分の背後に突然現れた鋭い羽の礫で彼女を容赦なく攻撃した。悪魔の如く、その笑みは不気味であった。ヘレーナは腕や足を貫通する羽の痛みに顔を歪ませながら、それでも二人の青年目掛けて駆けた。そして、犬がヘレーナの素早さに驚き、一瞬動きを止めた、その瞬間、ヘレーナはナイフを突き出した。


「はぁ…」


ードサッー


血に染まった手を振る青年とその鈍い音が響いたのは、どちらが早かっただろうか?青年達の前には、うつ伏せになったヘレーナが倒れていた。匡華と村正が駆け寄るも早く、双子がヘレーナに駆け寄ると、グレーテルが青年達に向かって炎の球体を放った。が、それらは憎しみと怒りで方向を失ったただの炎にすぎず、彼らは意図も簡単に避けてしまった。そして、クスクスと、愉しそうに嗤いながら、小さな王冠とティアラに包まれて消えていった。


「大丈夫?!」


ヘンゼルがヘレーナを傷に響かないよう、ゆっくりと仰向けにしながら叫ぶ。ヘレーナは虫の息だった。心臓辺りに咲いた華は、どんどん大きくなり、片目は先程の攻撃で切られたのか血が出ていた。腕や足と言わずに至るところから血が出ていた。匡華と千早と闘った時よりも、傷が酷い気がした。ゆっくりと近づく匡華と村正、千早と鳳嶺に気も止めず、ヘンゼルとグレーテルはヘレーナの手を片方ずつ掴み、必死に叫ぶ。


「愛し子!なぁ、起きて?起きろよっ!」

「ごめんね、ごめんね!だから、だからぁ、ねぇ、お菓子、作ろぉ?」


双子の瞳から涙が零れ落ちる。此処にいる誰もが、事実が覆らない事を理解していた。ヘレーナは、死ぬ。神様が用意した特効薬を使っても、ヘレーナの傷、瀕死の状態に与えられた一撃は、全ての傷は治らない。死んでしまう。出血多量。〈御伽噺妖精フェアリーテイル・フェアリー〉は消滅する。そういう事実。泣き叫ぶ双子を、匡華達はただただ見ているしかなかった。匡華達も悲しんでいた。その証拠とでも云うように千早の白濁した瞳から涙が落ちた。


その時、だった。


もう少しで一章終わりますねぇ。だが、まだ続きます!

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