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第6話 宿なしの危機

          

「おおぅ。今日は随分とドロップが多いな」


 店に戻って収集したものを出すと、グレンが驚いた。

 なんといってもボスと遭遇したのだから。非常に残念だったのは、ボスのくせにドロップが出なかった事だ。それなりの確率で銀貨30枚くらいのドロップが出るらしいのだが。


 そして、グレンにカミングアウトする時が来た。


 ボスゴブリンが出た事はナッシュから町の守衛――と言っても親父さんの事だが――へと伝えられるので、まもなく皆に知れ渡る事になる。そうすると、ナッシュと共にモンスター狩りをしていた事を隠せないわけで、それなら先に説明しておこうとなった訳だ。


「……うーむ、ぬぬぬぬぬ」


 グレンが腕組みしてうんうんと唸っている。アンジーを叱るべきか、海斗を叱るべきか、それとも許すべきか、といったところか。


「まぁ俺がかたくなに狩りを許さなかった事も原因の一つだ。そのせいで今回みたいな危ない目に遭ったのかもしれん。これからは自由にしても良いから、狩り急ぐ事だけは無いようにしてくれ。安全な狩場にするか、ちゃんとギルドでパーティを募るんだ。良いな?」


「うん、ごめんね父さん。それで私もそろそろギルドランク上げようかと思うの。だからこれから暫くはギルドの依頼を受けるわ」

「わかった。本当に気をつけてくれよ」

「大丈夫よ」

「んで、海斗はどうするんだ? もう俺から護衛の依頼をするって状況じゃないだろ?」


 突然話を振られて慌てたが、言う通り護衛をされていたのはどちらかというと海斗のほうだとバレてしまっている。


「確かに。あっ!ってことは住食付きの生活がなくなるって事か!!」

「まぁそういう事になるな」

「お父さん、それはちょっと待ってください」

「だから父親じゃねぇぇ!」


 以前よりはかなり強くなったのは確かだ。もしかしたら宿に泊まるために必要な銀貨5枚を毎日稼ぐ事はできるかもしれない。が、出来れば早くカネを貯めて強い武器や防具、そしてスキルを手に入れたいのである。


「銀貨1枚!」

「なんだ?」

「銀貨1枚でどうですか。毎日支払うので今までどおり此処に居させてくださいっ」


 そう言って海斗はグレンの腕を掴み、頭を下げまくる。


「うおお。なんだっ気持ち悪いやつだな全く。……うーん、銀貨2枚だな」

「そこを何とかっ! 早く強くなっておカネを貯めたいんです! 早く強くなれば、それだけご厄介になる期間も減りますし!」


 銀貨2枚でも破格の値段なのだが、海斗の必死の頼み込みにグレンも疲れて折れてくれた。ホンマ変なやっちゃ、とつぶやきながら。


 翌日からアンジーは早速ギルドの依頼を受けに行った。海斗も誘われたのだが、今のままだと足手まといになるからと断った。もう少し修行してから是非パーティに混ぜてくれと言い訳して。

 

 半分嘘で半分は本当である。

 ボス討伐でゲットしたドロップも含め、合成できないものは全て売り払って手元には銀貨23枚ある。一番弱い武器ですら銀貨50枚なのでまだまだ先は長いが、海斗には合成スキルがあるのだ。


 とりあえずはコボルトソードを更に合成して強化15まで行った。だがそこでショックな事が起きた。もうこれで頭打ちなのである。16本目を合成しようとしたら、選択できなかった。これ以上合成が出来ないと言う事だ。


 これで、コボルトばっかり狩って果てしなく剣を強化するという目論見は砕けた。それが出来たらかなり楽だったんだが。


 次に『衝撃波』である。サーベルウルフのレアドロップにゴブリンの爪を合成すれば出来る事が分かっている。幸い、既に一つ分の材料が揃っているのだ。

 

 あの後、ナッシュから『衝撃波』の魔石をもらい無事スキルをゲットできたので、また別の合成を試す事にする。ちなみに魔石は飲み込んでから『スキル付与』と念じればできた。

 

 部屋に籠って色々と合成する事約2時間。

 成果はたった一個となった。まぁ比較的使えそうなものではあるが。


===============

Name:コボルトソード

Caption:生成武器

基本スキル:

特殊スキル:

 - 体力回復

 - 強化15

 - 衝撃波

===============


 コボルトソードに衝撃波のスキルが付いた。何の事はない、衝撃波の魔石をコボルトソードに合成しただけだ。海斗自身も衝撃波スキルを保持したため、ダブルで発動させればどうなるのか、等が楽しみだ。


===============

Name:海斗

Caption:

 - 職業:剣士

 - 所属:ギルド・エイベン

 - ギルドランクG

基本スキル:

 - 衝撃波

特殊スキル

 - 合成

===============


 自分自身にもちゃんと『衝撃波』のスキルが付いている事を確認し、試し切りのためモンスター討伐に向かう事にした。

 

 が、そこで困ったことに気が付いた。

 既にゴブリンは一撃で倒せるのだ。であれば、衝撃波がどれくらいの威力なのか、あと強化レベルが11から15に上がった実感を得る手段がない。

 

 どこかに弱くて体力のあるモンスターは居ないのか……。

 いや、居たとしても、強化レベル11の剣で攻撃した経験が無いので比べる事が出来ない。

 

 これはもう、『強くなっているはず』と思い込むしかなさそうだ。

 

 そうとなれば、何をするか。やはりギルドの依頼をこなしてランクを上げるのが良い。ランクが上がればカネになる依頼を受ける事が出来るためである。


 海斗がギルドの扉を開けると、何故かまだアンジーが居た。


「あれ、アンジーまだ居たの?」

「この依頼を受けたんだけど、パーティメンバ待ちなんだ」


 アンジーが示した依頼を見て海斗は驚いた。内容は単なるモンスター討伐なのだが対象ランクがすごい。


「Eランク向けの依頼じゃないか」

「そだよ。ボスゴブリンを3人で倒した実績を買われて特別に許可もらったの。それに、スキルもGランクじゃ付けれないようなもの持っているし。あ、海斗もスキル付けたんだ。それなら一緒に依頼受けない?あと一人なんだ」


 昨日、親父さんにくれぐれも慎重にと言われたばっかなのに、彼女のこの積極さは一体なんなのか。海斗はなんとなく、そばに居て守ってあげなければという責任感に駆られてきた。と言っても未だ大した実力が無いので助ける事は出来ないのだが。


「おっけー。オレも受けよう。あ、そういえばナッシュは居ないの?」

「言わなかったっけ? 父親がコンラートの城に招集されたから、一緒に行ったらしいよ。何でもモンスター大規模襲撃の準備をするとかで」

「そっか。そういえばそうだったな」


 多分、住民の安全は貴族が守らなければってところなんだろうと海斗は理解した。

 それからギルドカウンターに行ってアンジーのパーティに入る手続きを行い、討伐に向かった。内容は、町の東側に位置するとある村の救済だ。近くでゴブリンが繁殖してしまい、村人への被害が顕著になってきたため群れを一掃するのだ。


 おそらくボスクラスが出て来ても良いように『Eランク6名以上のパーティ』という条件が付けられたのだろう。

 

 だが実際に集まったのはEランク4名とGランク2名だ。心なしか、他の4名がこちらを見る目が冷たいような気がする。その証拠に現地まで向かう馬車の中は、どことなく重苦しい空気が漂っていた。


「おい、Gランク。お前らは何が出来るんだ?」


 その空気を更に悪くするように、メンバの男が口を開いた。明らかにこちらを見下している。確かにEランクとGランクという歴然とした差があるのはあるのだが。


「ザエボス、そんな言い方はやめておけ。肝心な時に仲間割れなんてシャレにならないからな」


 前で馬を操っているジンという男が間を取り持つように言った。


「そうそう。仲良く行こうね。ごめんね~こいつ口が悪くて」

「気にして無いよ、オレらがGランクなのは事実なんだし」

「あら、意外と謙虚なのねぇ。まあとりあえず、役割分担を決めようね。あたしらは一応、攻撃から防御まで魔法も含めて一通り役割分担出来ているパーティなの。いつも四人で依頼を受けてるからね。だからキミ達はどの役になってもらっても良いのよ」


 まるで海斗たちは不要だと言わんばかりの言葉だ。実際、ゴブリンの一掃なんてEランクが4人も居れば全く問題ないだろう。6人と言うのはあくまで保険なのである。


「確かにいつも連携しているメンバだけの方がやり易そうね。海斗、私らも二人パーティでやる? ナッシュが居ないけど」

「おいおい、君らに何かあれば、依頼を成功させたとしても後味がわるいぜ。Gランクを放置して助けなかった、なんて噂が立ったりな」

「大丈夫じゃない? この人たち、3人でボスゴブリンを倒したらしいわよ」

「まぁそれは聞いてるんだが……本当か?」


 半信半疑のようだったが、結局は完全な和解もないまま現場に辿り着いてしまった。


 村の人たちから詳しい場所を聞き、更に馬車を走らせると確かにゴブリンだらけの場所に到達した。


「早速やるぞ!」

「わかってるわ。集まっている連中は範囲魔法で行くから、分散しているところをジン、お願い」

「了解っ」


 さすがにEランク4名である。セーレという女魔法使いが放つ範囲魔法でゴブリンの塊があっと言う間に消滅する。単発で襲い掛かって来るものは、大柄の男、ストロタスが壁役として陣取って寄せ付けない。そこを、ジンという男が一撃のもと次々と葬っていく。


「確かに私ら必要ないね……」

「……うん」


 とりあえず海斗たちも、彼らが撃ち漏らしたゴブリンを倒していく。二人とも、ゴブリンならばスキルを使うまでもなく一撃だ。


「お、やるねぇ。確かにGランクじゃないわ」

「ああ、そうだな。まぁ金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんかもしれんが」

「ははっ。それは言い過ぎよ」


 元の世界の感覚からすると、ランクでこれだけ差別されるのはかなり違和感があったのだが、この世界ではこれが常識なのかもしれない。その証拠にアンジーは全く嫌な顔をしていなかった。


 先日のようにボスが出現する訳でもなく、単に数が多いだけだったので何の危なげもなく討伐クエストは完了となった。移動に時間も掛かったためその日はそれで終了だ。


 次の日からも色々と依頼をこなし、アンジーと海斗はあっと言う間にギルドランクEまで駆け上がった。アンジーは以前からナッシュと共に狩りをしていたので当然といえば当然かもしれない。海斗は海斗で強化レベル15まで上げた武器と衝撃波スキルのお陰で同様に順調にランクアップが進んだ。


          ◆


「ぷはぁっ。うめぇ~~」

「っもう、父さん。飲みすぎだってば」

「何言ってんだ、アンジーがEランクに昇格したお祝いじゃねぇか。酒を飲まずにいられるかぃってんだ」

「飲めれば口実なんてどうでも良いくせに」

「がっはっはっは。まぁそう言うなって。おっと、そういえば海斗も昇格したんだってな。めでたいのう」

「何か取って付けたようなお祝いの言葉なんだが……」

「気にするなぃ。まぁ何にせよめでたい事だな」


 Fランクに上がった時も、こんな感じでグレンが酒をたらふく飲んで騒いでいたんだが、やっぱりEランクになっても同じだった。その他にもちょっと難しいクエストを達成したときなんかも飲んでた気がする。

 

 アンジーの言う通り、飲めれば口実は何だって良いのだろう。


「前から聞きたかったんだけど、海斗が使っている武器って何か強くない?」


 不意打ち攻撃だった。

 海斗は思わず飲みかけていた水を吐き出してしまった。


「きゃっ! もう、汚い! 何すんのよ」

「ごごごめん。っていきなり変な質問するからさ」

「だって最初は単なる鍛冶のスキルかって思ってたんだけど、そんな武器見た事ないんだから。父さんだって知らないでしょ」

「まぁ確かに変わった武器だな。そもそもコボルトソードを武器として使おうなんて考える奴なんか居なかったからな。誰もやらなかっただけじゃねぇか? 俺もやってみようと思った事はないしな」


 何かヤバい方向に話が進みだした。

 

「でしょ? ちなみにそれってどんな素材を使っているの?」

「何って……。コボルトソード同士を融合しただけだけど」


 怪しい~~って感じでアンジーがじと目で見てくる。


「まぁいいじゃねぇか。他人のスキルをあまり聞くもんじゃない」

「それはそうなんだけど……。何か変なのよね。って、やっぱ融合のスキル持ってたんだ」

「いや、これは融合ではなく合成ってスキルなんだよ」


 気まずい雰囲気に負けて、とうとう海斗は白状してしまった。

 

「何それ。聞いた事ない。父さん知ってる?」

「いや、知らんな」

「うーん、誰かにしゃべったのは初めてだから、一応内緒にしておいてくれる?」


 スキルの事は聞かないという暗黙のルールがあるためか、この日はそれ以上追及される事は無かった。


          ◆


「海斗、この依頼を受けてみない?」


 翌日アンジーが提案してきた依頼をみると、護衛だった。


「Eランクで受けれる護衛なんて珍しいな。しかも一人でも可能と」

「キリリ村までの護衛だからね。大したモンスターは居ないわよ」

「その割には報酬が高いぞ。銀貨30枚とは」

「でしょ。早く受けないと誰かに取られるわ。ほらっ」


 アンジーに急かされてギルドカウンターに向かう。


「でもどうして? アンジーは早く強くなりたいから、もっと難易度の高い依頼を受けたいんでしょ?」

「キリリ村の近くの森にはね、ミニフロッダの巣があるのよ。運が良ければグリーンクレイを入手できるかも」


 グリーンクレイというのは、以前入手した緑の粉の事だ。これをコボルトソードに合成した結果『体力回復』スキルが付いた。なら当然、他の武器にも付けたい。前から海斗が欲しい欲しいと呟いていたものだ。


「なるほど。それはぜひ入手したいな」

「でしょ? 早くいこっ」


 

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