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第44話 夢のような食事


 どういう事だ?

 昨日、確かに3人分まとめて村長に支払ったはずだ。なのに何故?


 海斗は慌てて村長の所へ向かった。


「どういう事なんですか?」

「すまぬ。カルミンは支払いが出来ないと聞いていたんで、すでに業者に手配をしていたんじゃ」

「でも昨日ちゃんと支払ったじゃないですか」

「もう今更キャンセルは出来ないと言われて……」


 村長が口籠りながら答える。

 ひどい話しだ。

 ってか、それならそれで一言知らせて欲しかった。


 連れ戻す事は出来るのだろうか。

 村長に聞いてみるが、詳しく知らないと言う。全く無責任なものだ。


「ちなみに連れて行かれた先は?」

「ドトロフです。そこから先は分かりませんが……」


 海斗は悩んだ。

 カルミンを助ける理由は無い。そりゃあ確かに昨日は税金支払いのためにアムルの面倒を見てあげた。中途半端に助けるのはすっきりしない。でも海斗としては、早くユリエスの事を探したいのだ。


 隣ではアムルとニッキが心配そうな顔で海斗の事を見ている。


 これはもう少し、助けるべきか。とりあえず行ってみて何とかなりそうだったら助けよう。馬車を出そうとすると、アムルとニッキも付いて来た。少し悩んだが、連れて行く事にする。小型の馬車だから、ぎゅうぎゅう詰めだ。無事にカルミンを連れ戻す事ができたなら、中型の馬車に借り換えないといけない。


「ドトロフ城下町って行った事あるの?」

「オラは無いよ」

「わたしも」


 地図はあるので場所は分かるが、勝手が分からないな。

 まぁゴルドリックやブランカの城下町など色々と癖の強い町は経験済みなので何とかなるとは思うが。


 ドトロフへは半日程で到着した。

 心配したほどに癖の強さもなく、普通の町だった。アムル達も初めての町に興味津々である。ザルバの町よりも随分と広いことだし。二人はまるでお上りさんのようだ。


 で、どうやって情報を集めるか。

 海斗としてはギルドで聞くくらいしか思いつかないが、内容が内容だけに今回は無理だろう。


 あとは専属従者館か。

 その線で行ってみる事にする。アムルとニッキはさすがに連れていけないので、海斗は適当な宿をとって二人を待たせておいた。


 思ったとおりドトロフにも専属従者館はあった。

 特に人を雇うのが目的ではないため、ただ単に質問してもダメだろう。ミカがやってたように銀貨を何枚か渡して色々と話しを聞いてみた。


「我々のような正規の店ではない場合、やはり役人の目がありますのでなかなか探すのは困難でしょう」

「やはりそうですか……」

「告発が目的で無いのであれば心当たりのある店を紹介できない事もないのですが。我々も立場上、お教えできない決まりになっておりまして……」


 更にカネが要ると言うことか。

 海斗が銀貨を上乗せすると、一件の店を紹介してくれた。


 当然ながらマトモな店ではないはずなので、こちらにも二人は連れて行けない。

 教えてもらった店に入ってみると、多種多様な人間でごった返していた。中は薄暗く、カウンターでは酒も販売していた。冒険者ギルドの中よりも騒がしい状態だ。


 適当な飲み物を2つ注文し、テーブルにつく。2つのコップを教えられたとおりに並べるのだ。


 待つ事30分。

 テーブルの向かい側に、超色っぽいネェちゃんが座った。

 一瞬、単なる勧誘かと思ったが。


「ずいぶん若いわねぇ。今日は仕入れ? それともキリトリ?」

「どっちでも無いんだ。話しだけ聞きたくて。これで良いかな?」


 ここで『仕入れ』って何? などと聞いては行けない。専属従者館で聞いたところ、裏商売の隠語らしい。


 海斗は銀貨20枚をテーブルに置いて、単なる情報収集をしたいだけだと伝えた。

 相場も教えてもらったとおりであるが、なかなか痛い金額である。乗りかかった船とはいえ。


「いただくわ。で?」

「ザザル村で税金を払えなくなった子供が今日、この町に連れてこられたんだ。カルミンって名前なんだけど。買い戻したいんだよ」


 手短に用件を伝える。ここでは愛嬌も礼儀も要らない。要るのはカネだけだと聞いた。逆に変に愛想良くすると疑われるとか。


「聞いてくるわ。待ってて」


 女が確認に行ってる間ずっと、海斗はそわそわしていた。

 こんな雰囲気の店にはもちろん来た事がない。まるで犯罪者の温床のようだ。鑑定してみると実際には『罪人』の表示は無いのだが、きっと違法な事ばっかり行っている人たちばかりなのだろう。


 中には自分のような目的の人間も居るのかもしれないが。


 確認の結果、カルミンは見つかったようだ。だが現在は別の場所に居てて、今直ぐに連れて来る事は出来ないので明日の朝にまた来てくれと言われた。カネはその時で良いらしい。


 話しが終わると女はさっさと立ち去ってしまった。海斗が注文した飲み物はしっかり全部飲んでいるが。

 まぁ色気はあるがどう見ても20台後半なので海斗としても特におしゃべりしたい訳ではない。


 海斗も一仕事終えて緊張の糸が緩んだのか、喉の渇きを覚えた。そして手つかずだった飲み物に手を取り、一口含んだ時だった。


「海斗!!」


 振り返ると、グレンが居た。

 何故に??


 一瞬、他人の空似かと思った。

 でもその隣にはナッシュが居たので間違いなさそうだ。そもそも、自分の名前を呼ばれている時点で本人である事は明白だ。


 二人の驚きようも相当なものであった。半年ほど前に苦労してコンラートへと一緒に戻ったのに、今度は帝国で再会するなんて。それも、こんな超ディープな場所で。


「まさかこんな場所でお前と会うなんてな」

「オレもびっくりですよ」

「ってか折角コンラートに帰ったのに何でまたこんな遠くに来たんだよ?」

「いやぁ色々ありまして……」


 グレンもこの店で一仕事終えた所らしいので、場所を変えて話すことにした。

 ここだと流石に落ち着かない。


「やっぱりアンジーも一緒なの?」


 オレはユーグリで彼女が見せた複雑な表情を思い出していた。

 苦労して故郷に帰還したというのに、今一つ浮かない顔をしていた。それとこれが何か関係あるのかどうか分からない。


 だがグレンの返事は歯切れが悪い。

 普段から酒を飲んだオヤジのようにがばがばと物を言うくせに、今は変にもごもごしている。

 何か事件に巻き込まれたな、とピンときた。


「かなわねぇな、海斗には。どうやって誤魔化そうかと考えたんだが」

「そんなに深刻なんですか」


 また助けを仰ぐような事になるのを遠慮していたのか、それとも他に理由があるのか。

 さんざん勿体ぶったあとに、ようやくグレンは状況を説明してくれた。


 アンジーが何者かに連れ去られたと。

 何者かといっても、素性は分かっている。帝国だ。


 おそらく要人の家族だと勘違いされて連れて行かれたとグレンは言った。人質に使うのだろうと。だから無事でいる可能性は高いらしい。


「じゃあ、今は監禁されている場所を探っているんですね」

「ああそうだ。あの店に行ってたのもそのためだ」

「そっかぁ。じゃあオレと同じだ。オレも人探し中なんだ。あの店のお陰で見つかったけどね。明日連れてきてくれるらしい」

「そいつは良かったな」

「うん。だからまぁオレの用事は明日で終わるから、その後手伝うよ」


 と言ってもアムル達を村に帰してからだけどね、と付け加えた。


「そう言ってくれるのは嬉しいんだが。海斗よ。今回はダメだ」

「え?なんで??」

「お前を巻き込む訳には行かねぇ。今回はよりによって帝国だからな。危険が大きすぎる」


 海斗はここ1年で、ずいぶんと危険な事にも慣れっこになった。それに自力も随分と着いた。きっと並みのCランクよりも上の実力があるだろう。もしかするとBランクに肩を並べる事ができるかもしれない。


 あまり自慢げになるのは嫌だったが、なかなかグレンが首を縦に振ってくれなかったので多少大げさに説明もした。


 それでも拒否られてしまった。


「心配すんなって、海斗。俺達で何とかするからさ」


 ナッシュまでもそう言って来た。


 これは益々ヤバイ事になっている気がする。

 絶対にまだ何かを隠している。

 海斗はそう思った。


 そもそもアンジーが捕まったのは帝国領内で、だ。

 ということは、あのあとユーグリから此処まで移動してきた事になる。


 一体何の用事で来たんだよって事だよな。

 その辺りは上手くはぐらかされて説明されたので、きっと隠しておきたい理由があるのだろう。


「でも実はオレもグレンさんの助けが欲しいんだよね」

「はぁ?何だと??」

「知り合いの子がさ、神獣に捕まってしまってね」


 海斗も説明が難しかったので、とりあえず適当に誤魔化しながら話しておいた。まぁ細かいところは後で訂正していけば良いだろう。とにかく神獣を探し出してユリエスが大変な事になっているのであれば助ける、という事が伝わればOKだ。


「だから、是非ともアンジーを助けたあと、ユリエスも一緒に探して欲しいんだよ」


 その後もあーだこーだと会話した結果、もう少し状況が分かってから再度相談しようという事になった。どちらにしても、今はどこに囚われているかすら分からないのだ。捜索は二人に任せて海斗も一旦はユリエスのほうを当たる事になった。海斗のほうも、まだ神獣が本当にユリエスかどうか不明な状態なのだ。


「んじゃ、とりあえず海斗にも念話石を渡しておくよ。そっちが落ち着いたら、また此処に戻って来て発信してくれ」

「わかった」

「もしドトロフから移動する事になったら、ギルドで伝言しておくからね」


 こんな感じで多少後ろ髪を引かれる感はあったものの、海斗はアムル達が居る宿に戻った。

 そこでカルミンが見つかった事を話すと、もちろん二人とも大喜びした。


「後は明日、村長に返してもらったおカネを支払えば、無事カルミンも戻ってくるよ」

「やったぁ!」


 本当は手数料として結構な額の上乗せが必要にはなるが。まぁそこまでは言わなくても良いだろう。


 専属従者館や怪しい店への賄賂も含めて今回は大出費だった。

 しかしそのお陰で偶然ではあるが、アンジーの危機を知る事も出来た。おカネのほうは、色々なドロップを合成してそれなりに稼げるようになったので大丈夫だ。まぁレイチェルへの借金返済がどんどん遠くなるのは仕方がない。


「よし、んじゃあ晩メシにするか!」


 ちょうど夕食時になったので、一階にある食堂へと向かった。


 それほど高級宿ではないのだが、かなり丁寧な言葉遣いの店員に案内され、海斗達は個室へと入った。


 そこで海斗は懐かしいものを見た。

 畳だ。

 良く見ると色々と異なる部分はあるが、椅子に座る形ではなく座布団のような物に座る感じになっている。


 二人ともおっかなびっくりって感じだ。


 そして次々とテーブルの上に料理が並べられる。二人は運ばれてくる料理を、まるで小動物のように目で追っている。


「すげぇ……オラこんな料理初めてだよ」

「わたしも。いいのかしら」


 こんなもので驚くのであれば、日本の料理を見せたら失神するのではないかと海斗はちょっと可笑しくなってしまった。


 そんな海斗も、畳と座布団という光景を見ただけで日本の料理が恋しくなってしまったのであった。


「でもカルミンは残念だね。これ食べれなくて」

「ホントホント。ちょっと残しておいてあげようよ」

「そうだね。んじゃオラはコレとコレ」

「わたしはコレね」


 なんとも仲睦まじい姿である。


 おそらく二人にとっては夢のような食事が終わり、部屋に戻った。

 部屋に戻ると海斗は何か違和感を覚えた。それが何なのか、すぐに分かった。


 畳で懐石料理(ではなかったが)とくれば、温泉だ。

 そういえば、風呂に入ってなかった。


 が、まあ村人達はあまり風呂に入る習慣が無い。今日は無くて良いだろう。だがもう一つの問題は部屋が一つで良いのかって事だ。

 

 二人が小学生くらいの年齢なら気にしなくて良いのだが、高校生くらいの年齢だ。果たして同じ部屋で良いのだろうか。もう一部屋取るべきか。


「アムル、ちょっとちょっと」


 アムルを呼び、小声で聞いてみる。


「あのさぁ。ニッキと同じ部屋で寝ても大丈夫なの?」

「ん?どういうこと?」

「だからさ、女の子だし」


 途端にアムルは顔を赤くした。


「だ、だって、兄ちゃんも居るし……」

「まぁオレは二人が何かをしてても気づかない振りするから大丈夫だけどぉ」


 あんま激しいのは止めてねと言うと、顔は真っ赤を通り越して紫になった。

 面白いからもう少しからかおうと思ったら、ニッキに「聞こえてるよ~」と先手を打たれてしまった。


「村だと皆一緒に寝るもんね。アムルも一緒だし。変な事しないよ」

「え?そうなの?」

「うん。だって子供が寝るとこ一か所しかないし。村長の隣の家だよ。親が居ない子は皆一緒だよ」


 そういえば、あまり深く考えてなかったけど二人には親が居ないようだ。カルミンも同じだろう。連れて行かれたと騒いでいた時に、それらしき人間は居なかったから。


 二人の親は、両方ともモンスターにやられてしまったらしい。

 村で家を持つのはカネが掛かるのだ。

 だから、より強いモンスターを倒して稼がなければならない。そうすると危険が増すわけで、命を落とす人間が沢山いる。親がいなくなると当然家がなくなるばかりか、子供であっても自分で活動資金という名の税金を稼ぐ必要がある。


 そして戦闘能力が弱い子供は売られて行くのだ。

 なんとも悲しい現実である。


 海斗がこの世界に来て最初に武器を買おうと思った時、値段の高さに驚いた。とても購入できる金額ではなかった。しかも、細身の剣という冒険者が使う剣を持っているにも関わらず、一番安い武器を購入できるだけのカネを貯めるのは大変だった。


 まぁ大変なのは海斗が食事の質を求めすぎた事が主な原因なのだが。


 とは言っても何の武器も持たない村人が、ちゃんとした武器を手に入れるのは大変な事なのだろう。

 村人が貧しい理由が少しわかったような気がした。


「でも兄ちゃんのお陰で、これからは随分と楽になりそうだ」

「頑張ってね。強いモンスターを倒せば倒すほど、自分も強くなるからね。でも絶対に無理しちゃだめだよ」


 剣を上げたために命を落としたなんてシャレにならないからな。



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