第4話 とりあえず狩りへ
ショップのおっちゃん――名前はグレンなのだが、なかなか覚えられない――が提供してくれた食事は、村のものよりもかなりマシだった。あくまで村のメシと比較して、だが。もし元の世界で店に入って出されたなら、百円くらいしか払う気にならないレベルなのではある。
グレン曰く「うちはメシにはカネを掛けるんだ」との事だったから、この世界でおいしい物を食べれるようになるのは、一体いつになることやら……。
翌朝、狩りに行く時間が来たので店頭に行くと、グレンの娘さんらしき子が居た。
海斗は一瞬で見とれてしまう。
この世界では彫りが深く目鼻立ちがはっきりした人が多い。まるで外国に来たようである。その娘も異国の顔立ちだった。
「アンジー、彼が護衛をしてくれる海斗だ。ギルドランクGだが、まあ町の周辺で狩る分には問題ないだろう。気を付けて行くんだよ」
早速アンジーと呼ばれた娘を鑑定してみる。
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Name:アンジェリカ
Caption:
- 職業:剣士
- 所属:ギルド・エイベン
- ギルドランクG
基本スキル:
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名前はアンジェリカというらしい。アンジーというのは愛称か。海斗とおなじくギルドランクG、スキル無しだった。もっともスキルは隠している場合が多いらしいが。
「勝手に鑑定しないでくれる?」
「え? あ、ああ、ごめん」
海斗がランクGとか呟いたのを聞いて、早速咎められてしまった。何となく、この世界では勝手に鑑定するのはマナー違反ではないような雰囲気だったが、違うのだろうか。
「わっはっは。海斗、すまんな。うちの娘はどうも人見知りでなぁ。別に怒っている訳じゃないんだ」
グレンのフォローを受けながら、なんとか二人で狩に行く準備も終わり店を出た。
すると、アンジーはどんどんと先を進み、やがて事前に話していた道とは異なるルートを歩みだした。
「ちょ、ちょっと待ってよ。確か向う側じゃなかったっけ?」
「いいから黙って着いてきて」
グレンから聞いたのだが、アンジーは海斗と同じ18歳とのことだ。しかし、この高慢な態度は一体何なのだろうか。ひどく攻撃的でもある。単なる人見知りの範囲を超えているような気がする。もしかして出会って数秒で嫌われてしまったのだろうか。
海斗の好みのタイプなのに。
ちょっと悲しかった。残念ながら異世界での彼女ゲット、の展開にはなりそうになかった。
やがて予定していた町の出口とは全く別の出口に辿り着いた。
「よお、アンジー。早かったな」
「ごめんね、待たせちゃったかしら?」
「そうでもないさ。俺も今来たところだからさ。んで、彼が例の?」
「そそ。まぁ父さんの頼みだから仕方ないわね」
「そう言うなって。これからは無理に隠れなくても堂々と狩りが出来るんだからさ」
「確かにね」
海斗の知らないところでどんどんと会話が進んでいく。一人ぽつんと取り残された感じだ。
「父さんには内緒よ。言ったらタダじゃおかないからね」
「え? ええぇ?」
「アンジー。彼氏、分かってないんじゃないの? ちゃんと説明した?」
「ああそっか。何も言ってないわね。父さんが狩りを許してくれないんで、今までこっそりナッシュと狩りに行ってたの。彼、ギルドランクEだし」
鑑定してみると、確かにそうだった。
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Name:ナッシュ
Caption:
- 職業:賢者
- 所属:ギルド・コンラート
- ギルドランクE
基本スキル:
- ライトニングボルト
- アイスストーム
- アイスウォール
- 衝撃波
- 流水
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所属ギルドはエイベンではなくコンラートだった。コンラートというと、確か北に位置するお城がある町だったはずだ。
というより、スキルがすごくない?
Eランクということは、ロベルトよりも下のはずなのに。
そんな怪訝な表情をしていると、ナッシュがこちらを見てニヤニヤと笑っていた。
「ごめん、勝手に鑑定して」
「気にしなくてもいいよ。スキルを見て驚いたんだろ?」
「ナッシュの父親はコンラートの騎士だからね。スキル魔石が手に入りやすいのよね」
「まぁそういうこと。アンジーにもあげるって言ってるのに」
「私は実力で手に入れるの」
「おほーっ。きついお言葉。まぁ確かに俺は親のスネかじりだよ」
結局三人で狩りに行く事になったのだが、狩場は町周辺の低レベルモンスターエリアのみだ。ナッシュが居るのでもう少し遠出はできるのだが、そして、以前から時々お忍びで狩りをしていたアンジーも既にEランク程度の実力があるらしいのだが、主に海斗がパーティに加わっている事が原因で、当面はコボルトクラスのモンスター狩りだけだ。
他二人にとってはフラストレーション溜まりっぱなしのようだが、グレンにばれるのはマズイとの事で我慢してくれている。
◆
狩りを初めてから一週間が経った。
いよいよ明日からは狩場を広げようという前日の夜、海斗は目の前にコボルトソードを並べて考え込んでいた。
コボルトばっかり狩っていたので、ドロップ品であるコボルトソードがかなり溜まって来たのだ。もちろん三人で均等割りしたうえで、である。
それに加え、以前手に入れた緑の粉もある。これは、一度売ってしまったのだがグレンに頼み込んで元の金額で買い戻させてもらったのだ。理由は『合成』である。
当面の生活が確保された以上、いよいよ合成をやってみるべきである。失敗しても無くなるだけだ。たぶん。
そう考え、海斗は緑の粉とコボルトソードを『合成』してみた。
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Name:コボルトソード
Caption:ドロップアイテム
基本スキル:
特殊スキル:
- 体力回復
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「おおっ」
スキルが付いた。
名前からして、これは使えるんじゃないだろうか。
ついでに、もう一つ気になっていた合成もやってみる事にする。
それは、コボルトソード×2だ。これも出来る事は確認ずみである。8本もあるので少々無くなっても問題ない。
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Name:コボルトソード
Caption:ドロップアイテム
基本スキル:
特殊スキル:
- 強化1
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「おおおっ」
こちらもスキルが付いた。嬉しいのは両方共に特殊スキルであることだ。これならば他人に見られても単なるコボルトソードとしか見えないだろう。
明日は早速、この武器を使って狩りをしてみようと思った。
◆
「へい、海斗! 何だよその武器は」
「ふざけないでくれる? 昨日までならともかく、今日からは一段強いモンスターを狩るのよ」
翌日、二人からバッシングを受けた。
他人には見えないスキルというのも、良し悪しと言う事か。
「大丈夫だよ、たぶん。この武器の上手い使い方を思いついたんだ」
と、苦しい言い訳をしたが二人からはジト目で見られた。そして、まずはコボルトで試せと指令が下った。
確かにそれが無難だ。一段上の狩場にいく前に、先にいつもの狩場でコボルトを狩る。二人は見学だ。
まずは、威力強化されたほうのコボルトソードを使ってみる。
「てやっ」
「とうぅっ」
「うりゃぁぁ」
「チェストー」
「……ぐぁっ」
「なんの!」
「これしきっ」
「……どわっっ」
だめだ。普通のコボルトソードと変わらない気がする。
一応、回復スキルのついた方も試してみる。
「これならどうだっ」
「えいっ」
「どりゃっ」
「もひとつぅ」
ん?何か切りかかる度に体力が回復している気がする。
以前の海斗なら、小さいダメージの認識が出来なかったのだが、実践を重ね、細かいダメージ認識が出来るようになっていた。
だから、ほんの僅かな回復であっても分かるのだ。
しかしそれは、回復量が微々たるものである事も認識できていた。
仮に半分くらいの体力が奪われた状態であるならば、100回くらい切りかからないと全快に至らないのではと思う程であった。
(またまた意味ねぇ……)
どうやらハズレだったようだ。
あきらめて鉄パイプ剣でやっつけた。
二人の視線が痛い。非常に痛い。
「とりあえず、いつもの剣で行きますです、はい」
あらためて仕切り直し、新たな狩場に出発した。今日の予定はゴブリン狩りだ。コボルトよりも少し強く、何よりも厄介なのは数が多い事だ。だから一人で複数体のモンスターに対応できるくらいでなければいけない。
事前にグレンからはグリーンポーションを沢山もらっている。狩場を強化するのであれば、念のため持っていけとの事だった。もちろん使った分はドロップ品の売却などでちゃんと支払えと言われたのだが。
「アイスストーム!」
ナッシュが切り込み隊長として、ゴブリンの群れに魔法を叩き込む。範囲魔法はこういう場合に役に立つ。魔力を調節し、僅か数体が残るくらいの威力で構成された冷気の嵐がゴブリンたちを襲う。
ナッシュの計算どおり、後に残ったのは3体だった。それをアンジーと海斗で片づける。この場所であっても、まだお荷物は海斗なのであった。そもそも今まではナッシュとアンジーの二人でこの辺りまで狩りに来ていたとのことなので、それも当然か。
その日は新しい狩場の初日という事で早めに切り上げとなった。
良く考えると護衛と称してメシを食わしてもらっているのに足手まといってどうなの?状態である。まぁ、二人の嘘に上手く付き合っているお駄賃と考えれば良いのかもしれない。
だが海斗は、もう一つ試してみたい事を思いついたのだ。
狩を切り上げて部屋に戻った海斗は、合成済みのコボルトソード2本を取り出した。
「どうせ使い物にならないのなら」
そう思って、その二つを更に『合成』する。
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Name:コボルトソード
Caption:ドロップアイテム
基本スキル:
特殊スキル:
- 体力回復
- 強化2
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できた。もしかして、これに残りの6本も『合成』できるのではないだろうか。
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Name:コボルトソード
Caption:ドロップアイテム
基本スキル:
特殊スキル:
- 体力回復
- 強化8
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これはもう、強化しまくるしかない。
一日でもはやく、足手まといを解消するために。