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第29話 そして日は暮れる


「よし、俺が囮になろう」

「どういう事だ?」

「俺はヤーヴェのテイミングを持ってるんだ。たぶん、この辺りにも居るだろうから探し出して連れてくる」

「そんな直ぐに見つかるか?」

「さあな。数時間くらいは掛かるかもしれんが、どうする? ここでこのまま待っていてもおそらく状況は変わらんぜ」

「確かにな。それに賭けるしかないか」


 海斗には何のことかさっぱりだったので、サスケに聞いてみた。


「なあ。ヤーヴェって何なのさ?」

「モンスターだよ。テイミングで支配すれば馬のように背に乗って移動できるんだ。馬よりもかなり早いらしいが、俺も見た事はないな」


 時計がないので正確には分からないが、それからたっぷり3時間は待たされる事になった。そろそろ日が傾いて来たかなと言う頃に、ようやく男がヤーヴェに乗って現れた。


「すまん、やはり遅くなった。直ぐに行くぜ」

「オーケー。準備は出来ている」


 初めて見るモンスターだったが、見た目はラクダとカンガルーを足して2で割ったような感じだ。走る時だけ前足を使って四足で移動するが、立ち止まると前足を上げて後ろ足で立っている。変わったモンスターだ。背中にこぶがあるから、立ち止まった時でも振り落とされる事はなさそうだ。


 だが、確かに馬の何倍も速いスピードで移動できるようだ。海斗は、ヤーヴェのテイミングとやらを手に入れようと密かに思いながら見ていた。


 作戦通り、まずはヤーヴェに乗った男が2匹のゲレルに仕掛ける。もちろん敵うはずも無いので男はそのまま距離を保ちながら逃走を図る。すると、移動速度的にジャイアントの方が早いので、ボスは上手く引き離された。

 

 その瞬間を見計らい、皆で遠距離攻撃を仕掛ける。すると、ボスのターゲットが上手くこちらのメンバに切り替わった。

 

 成功だ。


 昨日と同じように皆でボスを囲い、次々と攻撃を仕掛ける。また今日は発起人のフィッシャーが責任を感じたのか、自腹で購入した魔石を使ってロックを掛けた。

 

 ロックが掛けられたボスの触手は、ぼやっとした光に包まれている。これで触手にやられても大丈夫なはずだ。

 

 更には、海斗も今日は魔力の出し惜しみをせず、がんがん火球を投げた。

 

 ここまで用意周到に、且つ完璧に戦闘を行って負けるはずもない。

 あっという間にゲレル・グレートのボスは昇天した。


「ふぅ。皆、すまなかったな」

「気にするな。お前には何度も助けられたしな。それよりも奴は大丈夫か?」

「問題無いだろ。ヤーヴェの足に追い付けるモンスターなんぞ、一握りしか居ねぇよ」


 その言葉どおり、落ち合う約束をしていた場所で囮となった男と無事合流する事が出来た。


 ヤーヴェの姿は無かった。


「なんだぁ? もうリリースしちまったのか」

「ああ、どうせ今日は野営するだろ。俺一人で町まで戻っても良かったんだが、まぁ付き合ってやるよ」


 そのやりとりを聞いて、海斗は辺りがもう暗くなっている事に気がついた。


 しまった!

 野営するとなると、当然、宿に帰るのは明日になってしまう。

 こんな事になるとは思っておらず、ユリエスには何も伝えてないのだ。海斗が戻らなければきっと心配するだろう。まさか一人で町を出て探しに行くとは思えないが、何といってもまだ子供だ。不安にかられてどんな行動をするか分からない。


 幸いにも馬車は別々だ。海斗はフィッシャーに伝えて先に帰らせてもらう事にした。


「大丈夫なのか? 夜間の移動は危険だぞ」

「わかっています。十分気を付けますので」

「そうか。なら任せた。今日は本当に助かったよ」


 海斗達はすっかり暗くなった夜道で、月明かりを頼りに馬車を走らせた。


「ねぇ、どういう事よ。ちゃんと説明してくれるのよね?」


 ミカが詰問してくる。

 こんな強引な帰り方をしたのだから当然だろう。海斗はユリエスの事を説明した。


「うそ……信じられない。そんな子供まで商売道具にしようと言うの?」

「オレも耳を疑ったよ。でも一番驚いたのは、村人たちが進んで子供を差し出してるっていう事実だな。これを何とかしないとマフィアを潰した所で惨劇は無くならなさそうだ」


 皆も直ぐに理解できたようで、そのまま口をつぐんでしまった。

 現状では何も手立てがないのが明白だからだ。海斗がやった事も、とりあえず目に着いた一人の子供を助けただけで、世界には同じような境遇の子供たちが数多く存在する。まさか世界中を回って一人ひとり保護していく事なんて出来る訳がない。


「ま、まあとにかくユリちゃんのために急いで帰るか」


 ライアンが口を開いた。


「そういうことだな。ここまで来ればもう大丈夫だから、今からスキルを使って飛ぶね」

「え? 今使ったら馬車はどうなるんだ」

「大丈夫だよ。一度テストしておいたから。馬車に乗った状態で使えば、馬車ごと転送されるみたいなんだ」

「なんだよそりゃ。すげぇな」


 空間回帰を使い、ランソールの町まで飛ぶ。


「ねぇ海斗。ユリちゃんの事だけど、もし良かったら私たちのショップで働いてもらうってどうかな?」


 別れ際にミカが提案してくれた。

 彼女も彼女なりに何か力になりたいと考えたのだろう。


「それってめっちゃ助かる! 早速話してみるよ」


 ショップがオープンするのは3カ月後なのだが、生活スペースは確保しているのですぐにでも引き取る事は可能らしい。


 海斗は宿に戻ると早速ユリエスにミカ達の事を話した。

 だが意外なことに彼女の表情は暗い。

 どうやら今日も厨房で料理の練習をしたらしく、楽しく過ごせたらしい。だからきっと、練習が続けられなくなる事が悲しいのだろう。


 だから海斗は一週間の猶予を取った。

 一週間たっぷりと料理の練習をしたうえで、ミカの家で実際に皆のご飯を作って食べようと提案した。


 相変わらず表情は暗いままではあったが、最終的には海斗の提案を受け入れてくれた。


          ◆


 一週間が経ち、チェックアウトの際におばちゃんが見送りに来てくれた。


「ユリちゃん、これからも頑張るんだよ。寂しくなったら何時でも帰っておいで」


 ユリエスの事をぎゅっと抱きしめ、まるでこれから異国の地にでも旅発つかのような別れを演出している。実際には歩いて20分くらいの場所に移動するだけなのだが。


 きっとおばゃちゃん達にも気に入られていたのだろう。

 仰々しい送別を終え、ミカの家へと向かう。海斗も実際に訪問するのは初めてだ。

 

 思ったよりも立派な建物に若干驚きながら、ドアの呼び鈴を鳴らす。


「はーい」


 マリンの声だ。

 ガチャッとドアが開けられてマリンが顔をだす。


「おはよ」

「いらっしゃーい。ああーこの子がユリちゃん? かわいい~」


 その後、ミカも現れてとりあえず海斗達は中に入れてもらった。


「へぇ。もう全然準備が出来てる感じじゃん?」


 室内を見渡すと、ショーケースや棚などがずらっと並んでおり、あとは商品を置けば何時でも店が始められるような感じだ。


「まだまだよぅ。灯りとか計算機とかの魔道具が全然揃ってなくて。一応、中古品を入手する手配はしてあるんだけどね。値段の交渉とかが上手く言ってないし」


 色々と苦労はあるようだ。


「自炊する器具とかはあるの? この子、料理が好きみたいなんだ」

「もちろんあるよ。わたしたちは料理が苦手だから期待してるわぁ」

「おおお、それは良かった。ね、ユリちゃん?」


 だがユリエスは浮かない顔だ。

 うつむいたまま、黙り込んでいる。


「どうしたの? このお姉さんたちはいい人だから心配は要らないと思うけど」

「ま、まぁ緊張してるのよね? 急に知らない人達に囲まれて怖いよね」


 ミカもフォローしてくれるが、やはり彼女は押し黙ったままだ。

 ユリエスはしばらくしてから、小さな声でつぶやいた。


「ユリもお兄ちゃんと一緒に冒険したい……」


 一瞬、あたりが静寂に包まれる。

 それが彼女の本心だったようだ。


 彼女をミカ達に預けるために、海斗は冒険の話しをした。自分はこれから世界中を回らないといけない。世界にはとんでもない恐ろしいモンスターが沢山いる。だから、ユリエスを連れて行くのは危険なんだ、と。


 だが思い出してみると、そのうち戦い方も教えて強くしてあげると言った事も事実だった。あの時は、それほど深く考えずに言ってしまっていた。しかしそれが彼女の記憶にしっかりと残ってしまっていたのだろう。


 ユリエスを連れて世界を回る。

 そんな事が可能なのだろうか?


 レイチェルのように強力なバリア等を持っているなら可能かもしれない。しかし、今の海斗には無理だ。


「随分と信頼されちゃったみたいね。良かったじゃない、海斗」


 ……全然良くはないのだが。

 更にマリンが被せてくる。


「お姉ちゃんも海斗さんと色々と旅をしたけど、楽しかったよぉ」


 この天然娘は状況を把握してくれているのだろうか?


 結論を出す事もできず、とりあえず一旦はここに住んでもらって、これからの事を考えようと話しを強引にまとめた。


          ◆


 ピィピィという笛のような音で海斗は目を覚ます。

 ついに手に入れた、というか強引に渡された魔道具だ。


 当面は、朝からユリエスの修行をしなければいけない事になった。午前中は彼女の訓練を行う事で何とかミカ達と住んでもらう事を了承してくれたからだ。


 朝早くから起きれないかも、と言うとミカが魔道具を貸してくれたので寝坊という言い訳も使えない。


「じゃあ、まずは町の近くにいるコボルトあたりで練習しよう」


 既にスライムや兎は村に居たときから沢山倒していたらしいので、コボルトで大丈夫だろう。最初からいきなり豪華な装備をするのもどうかと思うので、海斗の時と同じく鉄パイプ剣――正確には細身の剣という名称なのだが――を手渡し、一人で戦わせてみる。

 

 なかなかどうして、筋は良さそうだ。

 やはりスライムと言えど幼い頃から何百匹も倒していれば、モンスターとの戦いに対する慣れも相当なものなのだろう。身体能力もそれなりに上がってるに違いない。貧しい村の子供は、皮肉にもその生い立ちからたくましく育つものなのだろう。


「いい感じだよ。これなら問題なさそうだね」

「ホント? やったぁ」

「いやいや、勘違いしちゃダメだよ。あくまで修行を進めるのに問題ないってだけで、オレと一緒に世界を回るには程遠いんだからね」

「……うん」


 海斗の言葉に一喜一憂だ。

 これはこれで、かわいい。


 と、顔を緩めていてはいけない。


「じゃあ、まずはドロップであるコボルトソードが16本出るまで、ここで修行ね」

「えええ!そんなにも?」

「そそ。修行の道は大変なのだ」


 本当は、単に彼女のためのコボルトソードを作って上げるためだけなのだが。


 午前中一杯、コボルトを狩って今日の修行はお開きになった。

 午後は自分の修行のために依頼(クエスト)を受けるか適当な場所に狩りに行くことにする。海斗も早く一人でガザム山脈を越えるだけの実力を付けなければいけないのだ。


 ユリエスを家に帰した後、まずはギルドに向かってみる。

 あまり良いものは無かったが、とりあえず銀貨20枚程度の依頼を受ける事にした。ランクC向けの依頼だが、報酬が少ないために長く放置されているものだ。海斗としても15枚は宿泊費用として飛んで行くので十分な金額ではないのだが、他に半日で可能なものは無さそうだった。


「海斗さま。指名依頼が入っておりますので、あちらのカウンターへお願いできますでしょうか」

「ええっ! オレに?」


 手続きをしようとすると、まさかの通達に見舞われた。

 一応、まだランクはDのままなのだが。


 文句を言っても始まらないので、指定されたカウンターへと向かう。

 そこで説明を受けると、理由が判明した。


 一年ほど前に大規模襲撃対策として受けた依頼(クエスト)があったのだが、その時にグループのリーダーを務めていたチェストンという男からの紹介だったのだ。

 

 彼も気を使ってくれたらしく、断っても特にペナルティは無いとのこと。ランクB~C向けの依頼であるが、たとえ海斗がDランクであったとしても正規の報酬が支払われるらしい。かなり優遇してくれた形だ。


 ランソールの南西に位置するエリアには小さな村々が点々と存在している。その村々の中心部にダンジョンが発生したらしく、内部にはびこるモンスターを一掃するのが仕事だ。


 どうしようか悩んでいた海斗だったが、近くの村として名前が挙げられている中に、『ミムの村』を見つけたこともあり、受ける事にした。


 ミムの村はユリエスの出身地だ。だからどうって事はないのだが。


「分かりました。受ける事にします」

「ありがとうございます。出発は4日後の朝になります」



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