第28話 リベンジ・マッチ
「一匹そっちに行ったぞ。大丈夫か?」
「問題ありません」
海斗はCランクのメンバと共に、ゲレル・グレートという毛むくじゃらのモンスターを討伐していた。単体でもそれなりに強力なモンスターなのだが、ボスが湧いてしまったために討伐依頼が出されたのだ。
ボスはCランクメンバが囲って相手をしてくれており、海斗たちDランクメンバーは雑魚を処理している。雑魚といってもCランクから見た雑魚であるため、それなりの強さを持っている。
既に2体のゲレル・グレートと闘っているところだが、更に追加で襲い掛かってきた。だが海斗の実力は着実にCランクに近づいているようである。3体になったところで大して問題ではなかった。
数が増えたため、『稲妻』を放って3体まとめて攻撃する。
既にある程度ダメージが蓄積されていたらしく、最初の一撃で2体が撃沈した。残りは新しく来た1体のみだ。
ダブル衝撃波を使えば、あっと言う間に終わられる事が出来そうだが、今のところ、そこまでする程でもないだろう。
と思っていると、海斗にお呼びが掛かった。
「おい、そこの派手なやつ。すまんがボスのほうに回ってくれないか」
「オレ?」
「そう、お前。1名欠員が出た。運悪くボスの触手にやられたらしい。補充だ」
何故Dランクのオレなのだ?と思いながらも海斗はボスのほうにまわった。
ゲレル・グレートのボスは、色が雑魚よりも少し黒いくらいで大して違いがなかった。だが、触手がかなり広範囲まで伸びており、確かに気を付けないとやられてしまいそうだ。ゲレルの触手にやられると、しばらくの間は体が痺れて上手く動かなくなってしまう。
とりあえず効くかどうか不明だが自分にウインドバリアを掛けてボスの取り巻きに加わった。触手以外は大して気を付ける所がないため、隙をみて物理攻撃を叩き込む。
少しすると、モンスターが正面を向いてきた。正面は触手に注意するため距離をとらなければいけない。海斗は仕方なく、遠距離攻撃に切り替える。だが殲滅までにあとどれ位必要なのか分からないため、魔力は温存しておきたい。火球やファイヤアロー等の強力なものではなく、ボルト系の軽いもので攻撃することにした。
結果的にそれが裏目に出てしまった。
立て続けに2人が触手にやられてしまったのである。ボスは、上手い具合に麻痺ってしまった冒険者の傍を通り抜けて逃走に切り替えた。
逃走したと言う事は、体力はあと僅かだったと言う事だ。海斗が魔力を惜しまず潤沢に攻撃していれば倒せていたに違いない。
「しまった! 皆、追うんだ」
「なんだって? 奴の足の速さは知ってるだろ。無理だよ」
「しかし、これじゃあ依頼失敗じゃねぇか」
「仕方ないぜ。今回は運が悪かったんだよ」
「運だと? 俺が言ったとおり、ちゃんとロック掛けて戦えば良かったんだよ!」
一気に場の雰囲気が悪くなってしまった。
海斗はあまり理解できてなかったが、特殊な魔石を媒体にして補助系の魔法を使う事により、触手の威力を抑制する事が出来たらしい。
しかし媒体となる魔石は結構な値段となるらしく、何名かの意見により使わずに行こうと強行してしまったのである。
とは言うものの、魔石を使わずに闘うパーティも多いため、どちらが正しいか何て誰も分からないのだ。本当に運が悪かっただけかもしれないし、触手にやられてしまうようなCランクメンバーの実力が問われるべきなのかもしれない。
ここでは格下になるため、海斗は特に何も言わず成り行きを見守るしかなかった。
結局、険悪な雰囲気のまま帰途に付く事になり、ギルドにて不名誉な報告をしてパーティ解散となった。
やはり固定パーティでない場合、こういう事もあるのだ。仕方がない。
分かっていた事だが、達成報酬が入らないのは痛い。ユリエスの分も稼ぐためにわざわざCランク向けの依頼を受けたのに、これでは本末転倒だ。
もう既に日は暮れかかっているが、短時間で出来る依頼でも探そうかと思っているとライアン達が帰ってきた。
「おう、海斗じゃねぇか。相変わらず朝が遅いんじゃねぇか? それとも俺らと一緒になるのが嫌でわざと時間をずらしてるんじゃないか」
冗談っぽく言ってくるので、「そうだよ」と笑って返しておいた。
「ちぇっ。海斗といいミカといい、ホント付き合いの悪いやつばっかだぜ」
「やっぱミカとも一緒になってないんだ?」
「なんだよ、聞いてないのか? マリンとミカはギルドを退会するらしいぜ」
「なんだって!?」
「ショップを開くとか言ってたが……」
マリンの借金返済という目的がなくなったため、ミカはこれからも冒険者を続けるのかどうか聞いてみようと思った事もあったが、答えはコレだったのだ。
ランソールで店を出すならいつでも会えるし、特に落胆する事もない。
いや、そもそも会う事が前提ではないのだが……。
やはりミカに対して特別な感情があるのだろうか。
考えるのはやめよう。
海斗は元の世界に帰る方法を見つけて皆とは別れる事になるはずなのだ。
……ユリエスは?
それも帰る方法が見つかってから考えれば良いだろう。
「ただいま~……って、あれ?」
宿に帰るとユリエスは部屋に居なかった。
どこに行ったんだろうか。
荷物をまとめて出て行った……なんて事はなさそうだ。というか元々荷物が無いので分からないのだが。一応、受付に行って聞いてみる事にする。
「ユリさんは、ただいま食事の準備をしております」
「へ?」
「本人から、料理について色々と教えて欲しいとお願いされまして。海斗さまにはいつも良くしていただいておりますので、特別にと言いますか……」
どうやら海斗が料理の練習でもすれば?と言った事を着実に実行しようとしたらしい。彼女はどうして良いかわからず、スタッフに相談したのだろう。ここのスタッフには彼女の事情も説明していたため、便宜を図ってくれたのだと思われる。
「どんな様子か見ても?」
「衛生上の問題もありますので、入り口から見る程度であれば大丈夫です」
制服に着替えたなら厨房に入っても良いと言われたが、そこまでする程ではないので、入り口で中の様子だけ見てみることにした。
思ったよりも広く、きれいに整理整頓された室内で数名のスタッフが食事の準備をしていた。ざっと見渡してみると、片隅にユリエスの姿を発見することが出来た。隣には年配の女性が付いており、何やら色々と説明をうけながら手を動かしている。
大変そうではあったが、その表情は輝いていた。随分楽しそうだ。料理が好きなのではないかという海斗の予想は当たっていたと思われる。
しばらくそんな彼女の姿を眺めたのち、海斗は部屋に戻った。
宿のスタッフには申し訳ないが、当面の間はこうやって彼女の面倒を見てもらう事にする。まぁ宿泊費用はちゃんと支払っているので問題はないだろう。
部屋に戻って暫くすると、ユリエスも戻って来た。
「おかえり。料理はどうだった?楽しかったかい?」
うん、と彼女は恥ずかしそうに頷いた。
「おばゃちゃんがね、すごく上手だよって褒めてくれたの」
「それは良かった。じゃあ明日からも練習続けるよね?」
「うん」
「そのうちオレに美味しい料理をご馳走してくれよな」
「えへへ」
まんざらでもなさそうだ。
翌日も彼女を残して海斗はギルドに向かった。
今日こそは、ちゃんと依頼を達成しておカネを稼がなければならない。
掲示板で色々と物色していると、昨日一緒に討伐に参加したギルドメンバの人が声を掛けて来た。
「また行くんですか?」
その人が言うには、再度、ゲレル・グレートのボス討伐に行くらしい。
「失敗したままなら後味が悪いからな」
「でも何処か別の場所に逃走してしまったんでしょう? 場所は分かるんですか?」
「ああ、俺の知り合いで索敵能力のある人間を連れて来たからな。と言っても、必ず探せる保証はないんだが……」
海斗は悩んだ。
確かに、討伐失敗のまま終わらせるのは心残りではある。昨日の依頼は基本的にはCランクメンバがメインとなって動いたため、ギルド内での海斗の評価は特にマイナスにはなっていないのだが。更には、例え見つけ出して仕留めたとしても報酬が出るわけでも無い。完全なボランティアだ。
だが、声を掛けてくれた人――フィッシャーは、昨日の険悪な雰囲気の中であってもちゃんと大人の対応をしていた紳士的な人だ。出来れば力になりたい。
「わかりました。オレで良ければ参加します」
「助かる! では人数がそろったら声を掛けるから待っててくれ」
フィッシャーは、あと3名ほどCランクメンバを集めると言ってそのまま何処かに行ってしまった。一人残された海斗は特にする事もなかったので適当に掲示板を見ながら時間を潰していた。
「あれ。海斗じゃん。今日はやけに早いな」
サスケだった。
確かに、ユリエスが朝食の準備を手伝うからと言って朝早くに起きたため、海斗も連れられて起きたのだった。
「まぁ色々あってな」
「んじゃまた一緒に依頼受けようか?」
「悪い。既に別のやつを受けちまったんだ」
「マジかよ。せっかくミカ達も居るのに」
「え?なんで?辞めるんじゃなかったっけ」
「脱退手続きに来たらしいんだが、さっきばったり外で会ってさ。最後に何か受けようって事になったんだ」
サスケと話していると、ミカ達もやってきた。
「海斗! どおしてこんな朝早くから?」
「ぐ……。ミカまでも第一声がそれか」
「海斗のやつさぁ、既に別の依頼受けたんだってさ」
「えええ! 何よ~せっかく最後に一緒に行けると思ったのに」
厳密に言うと依頼では無いのだが。
海斗は昨日の失敗談を話して聞かせた。すると、ミカ達も一緒に行くと言って来た。
「マジで?報酬出ないんだよ?」
「分かってるわ。どうせ最後なんだし私は気にしないわ」
「俺も!」
逆に気楽に行けるとか言ってるが、モンスターがゲレル・グレートと言うのは理解してるんだろうか。
「大丈夫よ。Cランクの人たちが沢山いるんでしょ? 海斗も居ることだし」
「そーそー。ヤバくなったら例のやつで飛べばいいんだろ? 楽勝じゃねぇか」
確かに空間回帰があるので、オレ達だけなら大丈夫だが。
そうか。人数が増えたのでパーティを二つに分けさせてもらえば良いのか。何か自分達だけ逃げるのは申し訳ない気がするのだが。
しばらく待ってると、予定の人数を集め終わったフィッシャーが戻って来たのでミカ達を紹介した。ギルドランクは低いが、今まで海斗と共にブランカまで旅して来たので大丈夫だと説明し、慣れたメンバで連携したいのでパーティも別にさせてもらう事で了承を得た。
全部で11名になったので馬車も2台借りて出発することになった。
「さっきは聞き流したんだが、ブランカって相当強いモンスターが居ると聞いてるんだが、大丈夫だったのか?」
「あれって結構デマ情報みたいですよ。実際には大したことなかったです」
「そうなのか」
フィッシャーが興味津々に尋ねて来たが、海斗は当時の様子を話して聞かせた。
「なるほどな。たしかに、それならDランクメンバでも大丈夫そうだ」
「でも海斗のやつ、もうちょっとで死ぬとこだったんだぜ」
サスケが茶々を入れてくる。
「あれは、また別の話しだろ。まさかAランクの敵に狙われるなんて想定外だよ。そもそも死にそうになったのはライアンじゃないか。腕を切断されたくせに」
「やめてくれ~ あの時の事は忘れたいんだ!」
「しかし神獣が出たときは、さすがに俺も死んだと思ったぜ」
「ホントホント。良心的な神獣で良かったわ」
「……なんか、とんでもないな」
フィッシャーは少し引き気味だ。
「でもみんな無事に帰れたし、結構楽しかったよね、ミカりん」
「あんたは危機感が無さすぎなのよ」
「ううう、マリンちゃん。これから寂しくなるぜ。冒険者をやめてショップを開いたら、毎日買い物に行くからね!」
ライアンが号泣しだした所で馬車が停止した。
おそらく探していたゲレルのボスを見つけたのだろう。馬車を降りてもう一方のグループに合流する。
「なんだと? 本当か?」
「ああ、はっきりとは分からなねぇが、このサイズは尋常じゃないぞ」
何やら怪しい雲行きだ。
索敵能力のある人を中心に集まって深刻そうに話している。
「どうしたんだ」
フィッシャーが問いかける。
話を聞いてみると、ボスの近くに別のヤバそうなモンスターが居るそうだ。
「それってゲレル・ジャイアントじゃないか?」
「俺もそう思う」
「マジかよ。そりゃあ逃げるしかないぜ」
「まぁ待て。まず俺が行って確認してくる。皆は此処で待機しててくれ」
「大丈夫か?」
「ああ、上手くやるさ」
ゲレル・ジャイアントはゲレル・グレートのボスよりも更に強いらしい。そんな敵に遭う想定はしていなかったので、もちろん闘うという選択肢は無い。だが折角ここまで人を集めて狩りに来たのだから何としてもボスのほうは倒しておきたい。
それは皆も同じ気持ちだったようで、偵察から帰って来たフィッシャーの報告を聞いてもなかなか方針が決まらなかった。
やはりボスの傍にはジャイアントが居るらしい。それも、短時間で動く事はなさそうとの事だ。




