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第27話 パパは沢山稼ぐべし


「はいコレ。長旅の時に持っていく保存食だから大して美味しく無いと思うけど、お腹すいてるでしょ」


 海斗は店で食事をとるのをあきらめて、今日はそのまま宿に泊まることにした。宿のロビーで食料を手渡して食べさせ、その間にチェックインの手続きを行う。


「お客様、申し訳ございません。当宿では称号の無い方の宿泊はご遠慮いただいておりまして……」


 スタッフが困った表情で言う。本当に申し訳なさそうだ。

 海斗はもう、この宿の常連だから信用があるのだろう。だから無下に断る事も出来ず、かと言って規則は規則だから困っているようだ。


 思わぬ所で問題が発生した。

 確かに、この世界では称号が重要視されるのだ。特に、こんな高級宿では尚更だろう。


 といっても今から別の宿を探すのも大変だ。


 海斗がうーん、とうなりながら考え込んでいるとスタッフが助け舟を出してくれた。


「一応、保護者の方と同室であれば大丈夫なのですが」


 スタッフの話しによると、生まれながらにして称号を持っている訳では無いので、親が称号の無い子供を連れて宿泊するのは大丈夫らしい。そりゃそうだな。

 

 だが、どう見ても海斗の子供ではない事はバレバレだ。それは見て見ぬ振りをしてくれると言う事なのだろう。さすがに口には出さないが。


 海斗はチラッと女の子を見る。

 無邪気に海斗の渡した乾き物を食べている。渡したものは保存食の中でも比較的まずい部類に入るものだ。しかしそれを美味しそうに食べている。よほど、今までの食事がひどい物だったのだろう。

 

 暗い所では分からなかったが、こうして建物のなかで魔道具の灯りに照らされて見ると体のあちこちに傷跡が見えた。


 こんな子供を部屋に連れ込んで一夜を明かしたとなると、元の世界なら変な罪に問われるかもしれない。しかしここは異世界だ。同室に泊めても問題ないだろう。たぶん。

 

 さすがに海斗もそっちの趣味は無いのだ。

 それよりも、このまま放り出すほうが道徳的に問題が大きい。


「分かりました。ではツインルームでお願いします」

「かしこまりした」


 風呂の料金も前払いで済ませ、海斗は女の子を連れて部屋に入った。


「お風呂って入り方わかるか?」


 返事は分かっていたが、念のため聞いた。

 海斗は上半身だけ裸になり、石鹸やシャンプーの使い方を実演して見せる。すると女の子はその場で服を脱ぎだした。


「だぁーっと。待って待って。オレは外に居るから、一人でやるんだよ。いいね?」


 そう言って慌てて自分の体を拭き、風呂場から出ようとした所で彼女の着替えが無い事に気が付いた。


「そっかぁ。着替えも無いよね」


 こればっかりはどうしようもない。かといって、今着ているのは何処に落ちていたボロ雑巾だよって感じの物だ。せっかく体を洗ったのにアレをまた着せる訳には行かない。

 

 海斗は自分が使っている物のなかから、何とか紐で絞ったりしてずり落ちずに着れそうな服を一式探し出した。下着は残念ながらどうしようもないので、ぶかぶかのまま付けてもらい、上からズボンを履いて紐で縛るしかないだろう。


          ◆


 翌朝海斗が目をさますと、隣のベッドでは女の子が小さな寝息をたてて眠っていた。突然変な男に連れられて同じ部屋に入れられても特に気にした様子もなく、すぐに眠りについてくれた。


 さてこれからどうしたものか。


 少し危険かもしれないが、海斗は宿のスタッフに聞いてみることにした。

 正直にありのまま、罪人に襲われている所を助けたのだと言って。


「でしたら衛兵へご連絡されるのが良いと思います」

「衛兵?」

「はい、この辺りはコンラート領になりますので、コンラートの役人が何名か常駐しておりますので」


 そういえば以前、この世界に来て間もなくの頃にボスゴブリンを退治した事があった。ナッシュやアンジーと共に。その際に、ナッシュが親父さんに報告したと言っていた。確か、親父さんはコンラートの騎士だったはずだ。

 

 この町にも同じように、コンラートの騎士が常駐しているのだろう。

 スタッフから場所を聞き、後で連れて行ってみる事にした。


 部屋にもどると女の子は目を覚ましていたので、二人で朝食に行く事にする。


 この宿は1泊で銀貨15枚という比較的高級宿であり、付いている食事もなかなかのものだ。あくまでこの世界標準では。


 女の子は、一口食べてパァーッと顔を輝かせた。

 よほど美味しかったのだろう。


「遠慮しなくていいからね。ゆっくり食べてよ」

「……うん」


 最初の内は全くと言っていいほど言葉を発しなかったのだが、次第に警戒心も無くなって来たのかぽつぽつと言葉が出てくるようになってきた。


「じゃあ半年前までは、ミムの村に住んでいたんだ?」

「うん」

「お父さんとかお母さんは?」


 ううん、と彼女は首を横に振った。

 どうやら孤児だったようだ。小さい頃の事であるため、本人もいきさつ等は分からないらしい。気が付いたら一人だったと言うことか。


「あーちゃんとか、ガウン君とかも捕まってるの」


 ユリエスは言った。

 この言葉は海斗にとって、重い言葉だった。昨日は運良く逃げる事ができたが、正直あのクラスの人間が複数いるなら、とてもじゃないが対応できない。


「ごめんね、ユリちゃん。オレがもっと強かったら皆を助けてあげれるんだけど……」


 海斗の想いがどれだけ伝わったのか分からないが、彼女はその後も静かに食事を続けた。


 食事が終わると海斗は女の子を連れて衛兵の詰め所へと向かった。

 そこで昨日の事を詳しく説明する。


 Dランクにもかかわらず、ユングスタットの森で一人で狩りをしていた事にかなり不信感を持たれてしまったが、ユリエスの証言もあって何とか信じてもらえた。


「おそらくマフィアのアジトだろう」

「マフィア?」

「人身売買を行っているグループが世界各地に点在しているんだ。おそらく、そのなかの一つであろうな」


 衛兵の話しによると、専属従者館のように堂々と店を構えて営業している所ばかりではなく、役人の目の届きにくい形で様々な違法な店が存在しているのだと言う。そんな店であれば、どんな待遇になるのか容易に想像は付く。


 彼女もそのうち同様の店に送り込まれるところだったのだろう。


「とにかく知らせてくれた事には感謝する。騎士団には報告を上げて置くようにしよう。ケーレとかいう男の事も騎士団経由でギルドに連絡が行くだろうから、そのうち称号も剥奪される可能性が高いだろう」


 衛兵はそう言うと、話しは終わったとばかりに退出を促した。


「え? それでこの子はどうなるの?」

「申し訳ないが、こちらで預かる訳はいかない。どこか引き取ってくれる所を探して預かってもらうんだな」


 あまりにも非情な言葉が発せられた。

 まさかと思ったが。

 

 これはやはり、元いた世界との常識の差なのであろうか。

 いや、良く考えてみると、元の世界と言うより日本との違いと言うべきか。元の世界でも、見渡してみれば生きて行くのが大変な国も沢山あった。彼女の様に身寄りのない人間を保護したからと言って、最低限の生活保障をもらえるのは日本をはじめ、限られた国だけであろう。


 これが、この国の常識なんだ。

 そう理解し、海斗は席を立った。


「とりあえず、ミムの村にでも戻ってみる?」


 ユリエスにそう告げる。

 すると、衛兵が「少しいいか?」と海斗を別の部屋に移動させた。彼女には聞かせたくない事なのだろうか。


「村に連れて行くのは止めたほうがいいぞ」

「どうして?」

「結局、また売られるだけだからな」


 総じて点在する小さな村々は貧困だ。ミムの村は、とりわけ貧しいらしい。そんな村人たちが、どうやって生きて行くか。中には子供を売って生き延びる村人たちも居るのだ。


 海斗は、その話しを聞いて更なる衝撃を受けた。

 昨日襲い掛かって来た罪人や、マフィアだけが悪ではないのだ。


「と言っても我々も面倒は見れない以上、キミに指図も出来ないんだがな。どうするかはお任せするよ」


 そう言って衛兵は立ち去っていった。


 引き取ってももらえず、村に帰すのもダメ、となるとどうすれば良いのか。

 海斗はホトホト困り果てた。


 当面は今と同じように衣食住を提供してあげても良いが、宿泊費用だけで銀貨25枚にもなる。昔に比べれば随分と強くなって稼ぐ事もできるようにはなっているが、それでも結構痛い金額である。

 

 しかし、海斗もこの世界に飛ばされた直後は大変だった。グレンという商人が食事と住む場所を提供してくれたおかげでここまでやってこれたのだ。その恩返しと考えても良いかもしれない。


「しばらくは、昨日と同じ場所で生活するか」


 ユリエスの顔が、パッと輝いた。

 あまり贅沢させるのは良くないかも知れないが。

 

 そうと決まれば、まずは称号だ。

 聞くところによると、役場で称号を貰えるらしい。海斗はもう一度役場に戻り、今度は別の受付で称号を欲しいと告げる。


 すると、さっきと異なる担当者が現れていくつか説明をしてくれた。

 何やら小難しい事を色々と並べ立てられたのだが、結局は年に一度税金を支払う必要があると言う事が分かった。


「あれ? そういえばオレって税金払ってないな……」


 呟いてから、しまった!と思った。

 もしかして脱税とかで罪人にさせられたりしないだろうか。


「大丈夫ですよ。冒険者の方はギルドより徴収させていただいておりますので」


 そういう事か。

 どおりでピン跳ねする金額が大きいと思っていた。これならあまり文句も言えないだろう。


 だが、税金の額を聞いて驚いた。


「銀貨130枚!?」

「はい、ランソールの称号ですとこのお値段になります。他の町でも同じくらいですが……」


 村人ならば、もっと安い金額になるらしい。

 どこか適当な村に連れて行っておカネを支払えば付けてもらえるとのことだ。村人なら値段はマチマチだが、今から探して移動するのも面倒だ。海斗は、金貨1枚と銀貨30枚を支払い、ランソールの称号を付けてもらうことにした。


===============

Name:ユリエス

Caption:

 - 職業:町人

 - 所属:ランソール

基本スキル:

===============


 これでとりあえずは安心して町を歩く事ができる。

 宿泊も別々で部屋を取る事も可能だ。だがしかし、2部屋とると銀貨30枚になってしまう。ツインルームだと銀貨25枚で済む。既に仲良く(?)なったことだし、同じ部屋で良いかもしれない。


 海斗は一日かけてたっぷりとランソールの町を散策した。ユリエスへの案内も兼ねて。彼女も次第に元気になって来たようで、言葉数も少しずつ増えて来た。


 特にショップで色々な調理具を見ている時は、かなり楽しそうだった。村に居た頃は山菜を集めてすり潰したり、こねたりして食していたらしく、自炊するのはまんざらでもなさそうだ。


 ちなみに、山菜をこねる時に使うのはスライムゼリーだそうだ。海斗も一度食べてみた事はあるが、とてもじゃないが人間の食べ物だとは思えなかった。でも確かに、スライムなら子供でも何とか倒す事が出来るので、贅沢さえ言わなければ生きて行く事はできるようだ。


「明日からオレはギルドの依頼(クエスト)を受けに行くので、ユリちゃんは部屋で留守番するか、適当に料理の道具を買って練習をするとかしておいてくれるかな?」


 彼女が上手に料理が出来るようになれば、もっと安い宿に泊まっておカネを節約する事ができる。


「ユリも一緒に行きたい……」

「だーめ。ものすごーく怖いモンスターが出るからね」


 一人になるのは不安なのか、なかなか承諾してくれなかった。海斗は、そのうち町の外で一緒にモンスター退治をやって強くしてあげるからねと言って何とか説き伏せたのだった。

 

 翌朝ギルドに行って手頃な依頼(クエスト)を受ける。これからはユリの分も稼がないといけないし、何よりも早く実力を付けて世界中を旅する必要がある。当然、背伸びをしてCランク向けの討伐依頼を選んだ。今までの功績からすんなりと了承もおり、パーティメンバ達と現地に向かう。



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