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リボン隠れ鬼  作者: 作空うむき
9/20

4-後

 「皆リボンは用意した?」

 場所は六年一組の教室。夢の問いに全員が頷く。

 放課後、遂に決行されるリボン隠れ鬼を前に、小助は興奮を隠しきれずに武者震いをした。ついでにゾクゾクと背筋も震わせる。

 結局、夢によると莉々亜もユッコもゲームをしていなかったそうだ。何故か外してはいけない気がしてそのままにしていたが、莉々亜は母に、ユッコは姉に取られてしまい、その後は今までの考えが嘘だった様にリボンを気にしなくなったという。

 ちなみに同じ様な境遇に陥った子がそれぞれの学年にもちらほらいるそうなのだが、夢によるとどの子もゲームはしておらず、中には既にリボンを外して平和に学校生活を送っている子もいるらしい。

 おかげで夢の機嫌は急上昇。それもそうだろう。今の所ルールを破った人が誰もいないという事を自分の力で突き止めたのだから。

「それじゃ最後の確認ね。勝君達のグループは勝君が鬼。あたし達のグループでは小松君が鬼。情報交換はこのグループ内でのみ。他の人に聞いたら絶対に駄目だからね」

「うぃーす」

「分かった」

「正、逆に聞かれた場合は答えてあげてね。無視しちゃうのも悪いし。あっ、なんだったら嘘ついても良いよ」

 夢の発言に皆顔を見合わせて笑う。

 もしかしたら夢は四つ全てのルールを破る気かもしれない。

 ちなみに小助のリボンはまだ結人の手の中だ。というのも夢が、

 ーー小松君なら何かしかねないからギリギリまで渡さないでね!ーー

 と結人に何度も念を押していたからだ。

「じゃあ他のルールも確認しておこうか。先ずは鉄則! 女子しか入れない、若しくは男子しか入れない所は禁止ね」

「………トイレ、更衣室、駄目」

「あとは立ち入り禁止の場所も」

「特に屋上とかね。先生達が絶対入れない様にしてるけど、実は裏技があるみたい。まぁただの噂だけど」

「職員室とか司書室も禁止。皆先生に怒られたくないでしょ?」

「保健室ならまだしも司書室の先生おっかねぇもんな」

「あーなんかドキドキしてきたー」

 結人の口調はいつも通りふわふわとしているがその頬は僅かに赤い。というよりもこの場にいる全員の気分が高揚していた。五月中旬の独特な暑さも相まって、僅かに汗もかいている。

 かくいう小助も汗が止まらず、先程から何度もTシャツの袖で汗を拭っている。

「何、お前緊張してんの?」

 ニヤニヤと笑う勝が小助の脇腹を小突く。それに対し小助はなんともいえない表情を返した。

 頭がボーッとする。体の節々も痛い。悪寒もするし、正直座ってしまいたい。まるでーーーーーそこまで思って、漸く気付いた。

 ーー………それはないーー

 まさか、なぜ、こんな時に風邪を引いてしまうのだ。

 流石魔の月曜日。

 夢にバレたらそれこそ三発ものだ。

「たっ多分今更ながらに、ルール破るの怖くなってきっ、きたのかも」

 視線がキョロキョロと忙しなく動く。だが気付かないのか勝はふうんと鼻を鳴らすだけ。でも夢の方は怖くて見れなかった。

「昨日見たホラー映画じゃ何も反応しなかったのにな」

「あっあれは作り物だし……案外こういうのには弱いのかも。多分」

「多分ってなんだよ。自分の事だろ。ウケる」

 違う意味で吹き出た汗を拭う。その袖が既にしっとりと濡れていて、これはもう勝以外にはバレているのではないかと思った。

 だが皆が皆小助の事を見ているとは限らない。その証拠に夢が「じゃじゃーん」といってポケットから白いリボンを取り出した。

 輝く瞳を見てホッとするのと同時に、少し悲しくなった。

「それじゃ早速……」

「あっねぇねぇ夢ちゃん! もしかしてこれからリボン隠れ鬼?」

 弾んだ声がして教室の入り口を見れば四組の女子が息を切らせて夢に手を振っていた。

「うんこれからなの」

「じゃあさ、三組のユッコ見つけたら教えて頂戴! 中々見つからなくて」

「ユッコだね。オッケー」

 指で丸を作った夢に女子は礼を言ってまた駆けていった。揺れる髪に赤いリボンがついている。今日中に見つかると良いな、と思った。

「さてさて今度こそやろっか! 皆リボン着けて」

 夢の掛け声で全員が腕にリボンを着ける。ただ結人だけは自分の分を付ける前に預けていた小助のリボンを笑顔で渡してくれた。一週間振りの赤。

「ありが……」

 ありがとう、そう言いかけた時ざわりと鳥肌が立って勢いよく振り返った。突然の事に夢と京香が小さな悲鳴を上げ、勝がぴょんと飛び上がる。直ぐ側の結人は目を白黒させていた。

 だがそれに気を止める余裕も謝る余裕もない。

 ーー今……誰かに見られてたーー

 無感情の強い視線。今は何も感じないが、思い出すだけで悪寒が増す程に怖かった。これを機に、小助の体調は一気に悪化し始める。

「ちょっとびっくりさせないでよ。心臓に悪いから」

「……」

「……小松君顔色悪いよ。大丈夫?」

「……」

 大丈夫かと問われれば勿論大丈夫ではない。でもそう言えない。ただ黙っていると友美が近付いて来てハンカチを差し出した。そんなに汗が酷いのだろうか。

 だが女子のハンカチを汚すのは申し訳ない。断ろうとしたその時、勝が大きく溜息をついた。

「小助ってもしかして霊感ありますって言うタイプの人間? 俺そういうの正直凄く苦手なんだけど」

「……えっ」

 驚いて目を張った。その小助の目の前で結人が勝の頭を小突く。頭を摩る勝が居心地悪そうに顔を歪めた。

 恐らく勝の事だから後先考えずにただ思った事を言ったのだろう。先程二人で交わした会話と急に振り返った様子から“霊感少年”という答えに行き着いたのかもしれない。

 ぞわり、とまた違う鳥肌が立つ。

 無機質な視線よりも、今向けられたばかりの冷めた視線の方が遥かに怖かった。

 折角出来た友人をなくしたくない、そう思った小助は体調の悪さを全て無視して結人に手を差し出す。

「ごめん、怖がり過ぎた」

「そう? 大丈夫?」

「うん。ごめん」

 そうだ、今は風邪を引いているだけ。先程感じた視線もそこから来たのだろう。

 結人からリボンを受け取る間、少し悪くなった空気を夢が盛り上げた。徐々に戻り始める皆の笑顔を見て、流石皆のリーダーだなと思った。

 ホッと一息つきながら受け取ったばかりのリボンを右腕に嵌める。

「あっ」

 だが、確かに右腕に通したと思ったのに、リボンは床に音もなく落ちた。思わずちらりと上目で夢を見ればにこりと笑っている。

 ーーこれ以上もたついたら張り手じゃ済まないーー

 早く拾おうとして床に片膝を着きーーーーー目が合った。

 彼女は机の下にいた。体中のあらゆる場所から骨が飛び出ていて、皮一枚で繋がった首をぶらぶら揺らしている。煤けたブロンドの巻き毛と青い瞳が重そうに光を反射した。

「……」

 声が出ない。口を動かすことすら出来ない。

 だが彼女は揺れる首の中で口を動かし、何かを言ってくる。だが首が折れているので声も息も漏れない。代わりに煤で汚れた真黒な口から折れた歯がぽろぽろと落ちた。

「ちょっと、小松君どうしたの」

 夢の苛立を押し殺した声が聞こえる。

 それでも動けないでいると、彼女がゆっくりと爪のない手を小助に伸ばしてきた。だがその動きも歪。

 通常肘と手首くらいしか大きな間接はない筈なのに、所々から骨が出ているせいで壊れた蛇の玩具の様にカクカクと動いて小助を目指す。

 そのあまりにも遅い速度に油断していた小助だが、それはあっという間に目の前に来た。当たり前だ。彼女との距離は、たった半歩もないのだから。

 ポタリ。ポタリ。指先から、血が滴り落ちる。

「ねぇ」

「っ!!!」

 肩に置かれた手を思い切り叩き落とすと椅子や机を巻き込んで豪快に倒れた。響き渡る金属音と女子の悲鳴。打った肘や手の平がキンと痛んだ。

 だがそれを抑えるよりも小助は酸素を欲した。

 どうやら息を止めていたらしい。

 ぜえぜえと激しく喘ぐ小助はどうしても気になって机の下を見た。

 ーー………いないーー

 教室を見回す。

 だが周りを囲う勝達が邪魔で全部は見渡せない。

 ぎょろぎょろと視線を動かしていると尻餅を付いてぽかんと口を開けている夢と目が合った。

「……………ちがう」

 肩を掴んだのは夢だった。彼女ではなかった。なら彼女は一体どこにーーーーーと再度教室を見回そうとした瞬間、肩にそっと手が置かれた。「来た!」と思って逃げようとするとその倍以上の力で押さえつけられる。小助が初めて聞いた声で結人が叫んだ。

「小助鼻血! 大丈夫!?」

 次に肩を掴んだのは結人だった。その事にほんの少しだけホッとすると、自分の鼻から水っぽいものが滑り落ちた事に気付く。

 ふと見下ろせばTシャツには赤い血が点々と付いていた。まさか先程手を伸ばされた時に落ちた血だろうか。サッと血の気が引くと、そこに赤がポタリと落ちた。

 天井を見る。ーーーーー何もない。

 服を見る。ーーーーー血が落ちた。

「…………血……」

「そうだよ血だよ。ねぇ誰かティッシュ……」

 放心したままそれを見ていると、「ふっ」という息づかいが聞こえた。次いで「げっ」と言う勝の声。

「あっちょっユウ!」

「ユウ」

 慌てた京香の声と友美の冷静な声。

 小助は重い頭を何とか上げて夢を見た。そしてぎょっとする。

 夢はギリギリまで泣くのを我慢していた顔を更に歪め、そして遂にわぁんと泣き出した。

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