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第81話『神の名に誓う自由──島に春を』

静寂が、島の中心に戻っていた。


空を覆っていた不穏な雲は晴れ、長く閉ざされていた神殿の天窓から、やわらかな陽が差し込む。


 


剣を手に、勇者・常盤流星は静かに深呼吸をついた。


その足元、砕け散った祭壇の中心に、封印術式の光が脈動している。


その中心──


黒く蠢いていた“夢魔・イゼリア”の姿は、今やか細い人影のように震え、力を失っていた。


 


「……なぜ、負けたのか……理解できない……」


 


夢魔は嗄れた声でつぶやいた。


 


「私はただ、“幸せ”を与えていただけ……それが、なぜ……」


 


「──あんたの“幸せ”は、誰かに強いたもんだ」


流星の声が、凛と響く。


 


「現実を無理やり夢に書き換えて、意思を縛って、自由を奪う癒しなんて──そんなの、誰も救えやしない」


 


イゼリアの目が、細く閉じられた。


一筋の黒い煙が、封印の結界に吸い込まれていく。


 


「……愚かな、男……」


「そうだよ。オレは愚かだ。風俗に行くたびに煩悩まみれで、女子にどやされて、怒鳴られて……」


 


リリア、アリシア、ヴァネッサ、ミレーユ──


四人の仲間たちが彼の後ろに並び、口々に叫ぶ。


 


「それでも、あんたは自分で選ぶ。現実を受け入れた上で、誰かに向き合ってる!」


「快楽に飲まれるだけじゃない……その先に、ちゃんと想いがあるから!」


「だから私たちも、支えるの! あんたが何度転んでも、そのたびに尻蹴って起こしてやる!」


「王家として誓います。彼の自由意志は、誰にも縛らせない……!」


 


夢魔の残滓が、静かに結界の中へ吸収され、完全に消えた。


封印術式が輝きを収め、ついに“神殿の闇”は終わった。


 



 


その瞬間。


神殿の奥、転送の結界の向こうから──一人の女性が、膝をついて現れた。


 


それは、《神官レイナ》。


 


彼女は、長らく“神の声”と称してイゼリアの支配下にあった。


その瞳は虚ろで、記憶を取り戻しきれないまま、ゆっくりと顔を上げる。


 


「……私……?」


「レイナ!」


アリシアが駆け寄る。

レイナは涙を流しながら、自らの胸元を押さえた。


 


「私……ずっと……“神の意思”が私のすべてだと、そう信じていたの」


「でも……あれは“声”じゃなかった。私自身の声なんて、最初から……なかった……」


 


流星が、そっと近寄る。


 


「いいじゃん。これから出せば。今度こそ、あんた自身の声で、さ」


 


レイナは目を見開き、そして小さく笑った。


 


「あなた……風俗に通ってるんですってね?」


「……おう、そりゃもう魂込めて」


「──ふふっ……でも、わかる気がするわ」


 


空気が、軽くなった。


リリアたちは思わず顔を見合わせ、どこか安堵の表情を浮かべた。


 


「自由に癒され、自由に求める。

 それが人の、本来の生き方だったのかもしれない……」


 



 


数日後。


アナナス島の神殿は“再出発”に向けて改修が始まっていた。


今度こそ、“癒し”と“信仰”のバランスを取った、真の意味で開かれた施設として。


 


神殿は「祈りと癒しの共存施設」として再定義され、誰もが訪れてもいい“島の心の拠り所”へと姿を変え始めていた。


 


流星たちは、それを高台から眺めていた。


 


「……また、風俗で事件起こしたな……」


リリアがぼやく。


 


「いや、オレが事件を起こしてるわけじゃない。風俗が、事件を起こすんだ」


「どっちも同じに聞こえるんだけど」


 


アリシアが本を閉じて、横から真顔で言う。


 


「そろそろ真面目に考えて。あなた、癒しの旅っていう名目で、王国のあちこちに災害残してるのよ?」


「違うって! 解決してるじゃん!」


 


ヴァネッサが笑って割り込む。


 


「でもあんたの剣、ほんと頼りになったよ。ね、今夜は久々に……あたしの部屋で、どう?」


「寝るッ! 今夜は寝かせてッ!!」


 


ミレーユが笑いながら呆れ声をあげる。


 


「あなたたち、どんだけ騒がしいの……でも、そうね──この島に“春”が来たなら、それはあなたたちのおかげかも」


 


やさしい風が吹いた。


波の音が、どこまでも穏やかに響いていた。


 


煩悩と愛と、自由の旅路。


流星たちはまた歩き出す。


 


──次なる“癒し”を求めて。


 


(つづく)

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