第79話『神の名を騙る者──真の支配者は誰だ?』
神殿の最奥──荘厳な石造りの聖域。その中心に設けられた巨大な祭壇の間。
そこに立つレイナ神官の身体が、小刻みに震えていた。
「……もう、限界……っ……」
蒼白な顔。こめかみを押さえる指が、明らかに異常な熱を帯びていた。
祭壇の背後──石壁に刻まれた封印文様から、淡く紫色の魔力が揺れている。
「やっぱり、お前……操られてたのか」
低く呟いたのは、常盤流星。
剣を構え、仲間たちを背にかばうように前へ出る。
リリア、アリシア、ヴァネッサ、ミレーユ──四人はすでに戦闘態勢に入っていた。
それぞれの目に、ただならぬ殺気と怒りが宿っている。
レイナの口元が、悲しげに歪んだ。
「私は……見たのです。“神の声”を……でも、それは……」
その瞬間、レイナの身体がビクリと跳ねる。
紫の光が彼女の目に走り、瞳の色がゆらめいた。
それは、明らかな“外部意志”の干渉──支配魔術の兆候だった。
「やっと気づいたのね。おバカな人間たち」
艶やかな声が、神殿内に響く。
その声とともに、石壁が軋みを上げながら崩れ、一人の女が姿を現す。
──白銀の髪。漆黒のドレス。背中からは薄く透ける羽のような魔力の結晶。
「名乗っておこうかしら。私の名前は《イゼリア》。
夢魔にして、千年封じられていた者……あなたたちの神とやらがね」
「また夢魔かよぉぉぉ!!!」
流星が絶叫するや否や、神殿内の空気が一変した。
イゼリアの瞳は、紫水晶のように冷たく、どこか憐れむように流星たちを見つめた。
「癒しも、快楽も、人の願いそのもの。私が与えて、何が悪いのかしら?
彼らは皆、笑っていた。泣くことすら忘れて──幸せだったのよ」
「それは違う……!」
リリアが一歩前に出た。
その表情には、激しい怒りと、どこか悲しみが入り混じっていた。
「心を奪われてまで笑うなんて、それは“癒し”じゃない!
本当の癒しは、自分で選ぶ自由の上にあるべきでしょ!」
「ふふ……だからあなたたちは愚かだって言うのよ。自由は人を不幸にするだけ」
イゼリアが指を鳴らすと、封印の奥から“花嫁姿”の男性たち──
かつての島民や冒険者と思しき者たちが現れた。
その目は虚ろで、口元には作り物の笑み。
彼らは、イゼリアの後ろに従者のように並び、跪いた。
「彼らはもう戻れない。私の愛に包まれて、永遠に満たされている。
さあ、あなたもどう? 勇者さま」
「断るッ!!」
流星の剣が、青白く輝く。
「風俗はなあ! 自分で選んで、自分で楽しんでこそ意味があるんだよ!!
押しつけられた快楽なんて──ただの檻だ!!」
刹那、リリアが剣を抜き、アリシアが魔力を収束させ、ミレーユが印を結ぶ。
ヴァネッサは拳を握りしめ、背中合わせに立つ。
「夢魔イゼリア。あなたの支配は、ここで終わりだ!!」
神殿の最終戦が、ついに幕を開ける──。




