第72話『島上陸──神託は偽りか、救いか』
──その島は、表向き“神の愛に満ちた聖域”だった。
だが、流星の鼻はすでに──その裏側にうごめく“匂い”を感じ取っていた。
「……この甘ったるさ、ただの香じゃない。女と……なにか混じってる」
島を包む潮風に、混じる微かなフェロモンの残り香。
かつて彼が嗅ぎ慣れた、“人が欲望を交わしたあとの残り香”だった。
「まさか……ほんとに、“裏風俗”が復活してるのか……?」
◆ ◆ ◆
港に降り立った流星一行は、まず島の公的案内所を訪れていた。
「ようこそ、アナナス島へ。私どもは、神託に基づく癒しと救済を──」
「うんうん、それはそれはありがたいことで……で、“癒し”って具体的には何されてるんですかね?」
「え?」
ギルド紹介の任務だと名乗る流星に、案内係の青年が微妙な笑顔を浮かべる。
「ご安心ください。当島ではかつての“俗的な癒し”はすでに排除されております」
「ははーん……完全に表向きってわけか」
(怪しい。表情が固すぎる。対応も型通り。なにより、“臭い”が嘘をついてない)
流星は心の中で確信した。
──この島には、まだ“風俗”が息づいている。
しかも、それは従来の店舗ではない。
もっと──“信仰”の仮面を被った、ややこしいヤツだ。
◆
「よし。ちょっとだけ、先に現地を視察してくる」
「ちょっとだけ……ねぇ」
アリシアが半目で睨む。リリアも警戒の視線を送っていた。
「また単独行動? そういうときって、だいたいトラブルに巻き込まれて戻ってくるのよね」
「信じてくれ! これは調査だ! 風俗じゃない! 調査!」
「風俗調査ってことね?」
「違う! いや、そうだけど……そうじゃない!」
「そうなんだ」
「ぐ……」
結局、しぶしぶ単独で動くことを許可された流星は、“市街の裏手にある廃寺”のような建物にたどり着いた。
扉には札が貼られている。
──【関係者以外立入禁止】──
しかし、すでに扉は少しだけ開いていた。
誰かが中へ入った形跡。
(……こりゃあ、行くしかないだろ)
流星は腰の剣を軽く確かめると、静かに扉を押し開けた。
◆ ◆ ◆
──そこは、地下に続く“通路”だった。
木造の階段、赤黒い灯り、そして……
「……おいおい……なんだよこれ」
──奥に広がっていたのは、“風俗”だった。
かつての風俗店とは違う。
もっと、神聖さと堕落が混じり合ったような──淫靡で、しかし幻想的な空間。
天井には布が垂れ、香が漂い、各部屋の前には“白衣の神官服を着た女性たち”が膝をついて客を迎えていた。
──そして流星の目の前に、ひときわ眩い光を放つ女性が現れた。
「ようこそ、来訪者よ。あなたに──神の愛を」
ゆっくりと近づいてきたその女神官は、流星と目が合った瞬間──柔らかな笑みを浮かべた。
「私はレイナ。この“神託の館”に仕える者です」
「……神官さんが、こんなところで……?」
「ここは神の意思に基づき、癒しを必要とする人々に“愛の手”を差し伸べる場。すべては神の慈悲の一環なのです」
「それ、ほんとに神の意思なのか……?」
流星は問いかけた。だがレイナはふわりと笑い──
「それを知るために、どうか……私と一夜を過ごしてみてください」
言葉と共に、指先がスッと流星の胸元に触れる。
(やべぇ……この女、ただの神官じゃねぇ……)
触れられた指先から、微かな甘い熱が流れ込んできた。
──これは、“魅了”の感触だ。
(やっぱり……ここも夢魔の影が絡んでる!?)
そのとき。
「──そこまでです!!」
背後から声が響き、流星の背中に冷たい汗が走る。
「お前……またやらかしてるだろッ!!」
「え? あ、いや違……!」
ドカッ。
リリアの足蹴りが流星の腹を捉える。
「おい、何してんのよこの煩悩野郎!!」
「ちがっ……これは潜入調査!あくまで情報収集!あとちょっとで手がかりが……」
「はいはい、次は全員で潜入するから、お前は指一本動かすな!」
アリシア、ヴァネッサ、ミレーユが現れ、あっという間に取り囲まれる。
レイナは静かに彼女たちを見つめていた。
「……この方は、“特別な器”を持っておられます。神の言葉を受け取る者です」
「え?」
「そして、あなた方もまた──神の裁きに耐えうる魂をお持ちのようですね」
微笑の裏に、何か狂気のような光が灯った。
「どうぞ──全ての真実は、この“神託の館”の奥にあります。今宵、皆様を特別室へとご案内いたします」
「……始まったな」
流星はつぶやいた。
そして、ハーレム全員が揃って、謎に包まれた“神の愛”の真相へと迫っていく。




