第71話『招かれざる神託──南海の離島より招待状』
南国の風が吹いていた。
いや、風の匂いそのものは変わらない。だが、そこに混じる潮の香り、陽光の温もり、遠く聞こえる海鳥の声──それら全てが、旅の始まりを告げているようだった。
「……え? マジで言ってんの?」
ギルドのカウンターで、常盤流星は何度目かの確認を取っていた。ギルド職員の若い男が苦笑しながら、改めて書簡を手渡す。
「間違いありません。南海の孤島《アナナス島》より、貴殿を名指しで調査依頼が届いています」
「名指し……俺を……?」
「ええ。文面には“風俗と信仰に精通する者”と──」
「いや、それ俺しかいねぇわ!」
バンッ、とカウンターに拳を置くと、ヒロインズが一斉に顔をしかめた。
「また風俗か……!」
「流星、あんた……今度はどんな神様に失礼を働くつもりなの?」
「でも“神官服で癒してくれる”って書いてあるぞ? しかも“選べる女神官付き個室対応”。これはもう……行くしかないじゃないか!」
リリアとアリシアの額に青筋が浮かぶ中、ヴァネッサだけが目を輝かせた。
「南国! 神官プレイ! アナナス島ってたしか、水着着て踊る巫女さんがいたって噂じゃん!? 行く行く! アタシ水着5着持ってくわ!」
「いやいや、待て! 一応これは“依頼”なんだから! 神聖なる仕事なんだぞ!」
「風俗調査が神聖……?」
「ほら、前も夢魔倒したじゃん! あれも俺の煩悩がなきゃ無理だったろ!? これはもう実績あるから!」
流星のドヤ顔に、アリシアがそっと耳元でささやいた。
「……次、下半身が暴走したら、貴方の風俗歴に“永久停止”を申請するから」
「それは勘弁……!」
だが、今回の依頼は冗談では済まされなかった。
届いた文書は、王国北方研究院の印が刻まれた正式なものであり、アナナス島で発生している“神託活動における精神干渉の疑い”についての調査を依頼するものだった。
その島は数年前──風俗店に関する問題が社会問題化し、ついには“風俗全面禁止法”が布かれた異例の地域だった。
にも関わらず、ここへ来て“再び風俗が営まれている”という内部告発と共に、何故か流星の名指し依頼。
「……おい、これって……」
「ええ。明らかに怪しいです」
アリシアが眉をひそめ、リリアは腰の剣に手をかける。
「どう考えても罠……だけど、放っておいたら男たちがまた被害に遭う可能性があるわ」
「やはり我らが行くしかないな。だって俺たち、風俗戦隊だもんな」
「どこのレンジャーよそれ……」
結局──
「わかった、行こう。ただし、今回ばかりは“本気で調査”だ。俺の煩悩はちゃんと鍵付きの箱に入れておく」
「ほんとォ~~~?」
「え、信じてないの……?」
「信じるわけないでしょ」
◆ ◆ ◆
アナナス島──
かつては“海神信仰”の聖地として栄え、王国の中でも屈指の“癒しと信仰の島”として観光業で潤っていた。
だが、その裏には“癒しの風俗文化”と呼ばれる、神官服による接待行為の数々があった。
一部の宗教指導者がこれを問題視し、粛清を断行。島は一時閉鎖され、文化は壊滅状態となる。
……しかし近年、島から密かに“神託風俗復活”の噂が流れ始めていたのだ。
しかも、島で癒された者たちは全員、こう語った。
──「神の声を聞いた」
──「もう何も不安はない」
──「帰る必要がない」
「あー……もう地雷しか感じない」
船上で流星は嘆き、隣でミレーユが真顔でメモを取っていた。
「こういう依存系の癒しは危険なのよ。『帰る必要がない』って時点で、自我に問題が出てるわ」
「……まさか、また夢魔の類じゃないよな?」
「だったらやっつけて、また英雄として風俗通いすればいいじゃない♡」
「何そのポジティブ回路!?」
◆ ◆ ◆
海を抜けた先に現れたアナナス島は──
まさに楽園だった。
白い砂浜。透き通る海。椰子の葉が揺れ、祭囃子のような音楽が遠くで鳴っている。
だが──その楽園の中に、異様な気配があった。
観光客は少なく、島民の大半が目を伏せ、無言で通り過ぎていく。
市場は開かれているが、どこか静まり返っていた。
そして、島の中央にそびえる白い神殿──その門には、奇妙な看板が掲げられていた。
【神託は選ばれし者にのみ与えられる】
「選ばれし者って、なんだよ……」
流星が呟いた時、神殿から一人の女性が現れた。
金と白の神官服に身を包み、日焼けした肌に銀のアクセサリが輝く美女。
「ようこそ、流星さま。お待ちしておりました」
「え?」
「あなたにこそ──神の愛と癒しを、与えるべきなのです」
彼女の笑みは穏やかだった。だがその奥に──何か狂気に似た静けさが潜んでいた。
◆
こうして、煩悩の冒険者と、そのハーレム一行は──
“神の名を騙る島”の深き誘惑と狂信に、足を踏み入れていくことになる。




