第59話『ラッキースケベ式目覚まし爆破』
──それは、突如として始まった。
神託の館・特別室。
流星は、香の罠によって完全な昏睡状態に陥っていた。
「……これは、かなり深くやられてるわね」
アリシアが渋い表情で、香炉の残り香を手で払う。
「一見ただの“いい匂い”だけど、潜在記憶に直撃するタイプ……しかも、性的な記憶を中心に編集してる」
「要するに、“都合のいい夢”を見せて、心ごと囚える系か」ミレーユが冷静に分析する。
ベッドの上の流星は、軽く口元を緩め、うっすらと頬を赤らめていた。
「……うへへ……いやー、そりゃ、抱き枕の向こうからローズちゃんが……」
「だめだって……神官服でそれは……ああでもありがとございま──ぐふっ♡」
「……ダメだこいつ、完全に昇天寸前」
「いっそこのまま夢精させた方が早く起きるんじゃ……」ヴァネッサが真顔でつぶやく。
「却下!!!!」
リリアが全力で否定する。
「でも何か刺激を与えないと、香の魔力から目覚められないわ」
「身体の感覚を“現実”に引き戻すしかないってことね」
そこで──彼女たちは、最も“確実で、非常に物理的”な方法を選んだ。
◆
「行くわよっ!!!」リリアが叫ぶ。
「覚悟なさい……現実に引き戻すわよ、流星!!!」アリシアも叫ぶ。
──その瞬間、
\ドカァァァァン!!!/
何故か浴室側から爆発音。
床が抜け、ベッドが跳ね上がる。
天井から水蒸気が舞い、混乱と熱気が同時に吹き出した。
「スライム式風呂爆破、成功!」ミレーユが親指を立てる。
……そして。
爆風で吹き飛ばされた流星は、バスタオル一枚のアリシアの胸元へ顔面からダイブした。
「ふわっ……!? きゃあああああああああっ!!」
背中側には、なぜか下着姿で構えていたヴァネッサの太ももが迫る。
「うふふふふっ♡ 起きたらご褒美ねー?」
そして──さらに転がった先には、
「えっ!? ちょっと!こっち来るなぁぁぁあああ!!!」
叫ぶリリア。
\ボフッ!!!/
リリアの胸の中に収まってしまった流星。
そのままベッドに再着地──
──まさかの布団一枚。
そして全員が、布団の中に密着していた。
「……えっ……?」
流星の目が、ゆっくりと開く。
「あれ……夢? いや……現実? これは……?」
ヴァネッサが、じりじりと流星に迫る。
「現実だよ~♡ あたしの抱き枕、どうだった?」
「だあああああああっ!!何が起きた!?何が起きたんだよぉぉぉぉ!!?」
「貴様が寝ぼけて風呂場を爆破しようとしたからだッ!!」
「俺!? 俺のせい!?」
「うん。風俗的な幻覚に溺れた挙句、“全自動洗体システム!”とか叫んで、魔力放出してたから」ミレーユが淡々と語る。
「でもさ、みんなが全力で起こしてくれたわけだし……愛されてるねぇ~勇者くん♡」
ヴァネッサが流星の腕に絡みつく。
「やめろ!密着すなッ!頼むから距離感を!!!」流星が全力でジタバタする。
そのとき、アリシアが髪を振り払って言った。
「……今度、変な夢に溺れたら。私がビンタして起こすから」
「ビ、ビンタでいいです……」
「でもそれって“愛の鉄拳”よね~?」
ヴァネッサが肩を組みにかかる。
「俺が悪かった!今後は香炉に近づきませんからッ!!!」
リリアがふと、真顔でつぶやいた。
「──この数日、ラッキースケベのない日がなかった気がする」
「うん。マジで」
全員が頷いた。
そして流星が、布団の中で一言──
「……これが、俺の人生か……地獄だな……」
◆
だが、その夜。
“神託の泉”の奥深くでは、仮面の神官たちが静かに動き始めていた。
「──香が破られたか。だが、次の層がある」
「この男、煩悩は深い。まだ完全には目覚めていない」
「次は、“本当に愛した者”の姿を見せましょう──」
──神の名を騙る者たちが、静かに牙を研ぎ澄ます。




