表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/229

第18話『護送されるお嬢様、爆誕──その正体は天才魔術士』

貴族用馬車の中は、静まり返っていた。


天蓋付きのクッションシートに腰かけ、背筋を伸ばした少女は、窓の外に目もくれず、膝の上の書物に目を通していた。


「“空間座標転位陣式の第六法則は、実際の次元歪曲をともなわずに――”」


声に出して読むのは、完全に習慣のようだった。

無意識のうちに魔力の制御を行うその佇まいは、まさに“王都の魔導学院主席”の名に相応しい気品があった。


 


だが──


 


「なあ、王都の“癒しエリア”って、やっぱ貴族向けと庶民向けで違うのか?」


「……うるさい」


「リリアはどっちが好き?」


「質問の意味がわかんないけど、とりあえずあんたは黙ってて」


「アリシアは……」


「お前、本気で叩くわよ?」


 


馬車の外、隣を歩くリリアとアリシアが即座に警戒を発し、流星は苦笑いしながら引き下がった。


 


その様子に、馬車の中の少女──ミレーユ=エトワールは、ようやく本から顔を上げ、ため息をついた。


 


「ほんっと、うるさいわね……」


 


扉がカラン、と開く。

馬車の天窓から顔を出したミレーユは、流星に鋭い視線を向ける。


 


「ちょっと。いい加減静かにしてくれない?」


「いや、別に俺の話で馬車が揺れてるわけじゃ……」


「あなたみたいな凡人、空気を震わせることすら価値がないわよ」


「お、おう……」


あまりの一刀両断に、流星が小さくなった。

横で見ていたリリアが思わず吹き出し、アリシアも肩をすくめる。


「……あれはあれで、完璧すぎて怖いわね」


 


◆ ◆ ◆


 


その日の夕方、旅籠の離れでキャンプを張ることになった一行。

焚き火を囲む中、アリシアが静かに話し出した。


 


「実は……今回の護送任務、かなりデリケートなのよ」


「ほう。まさか護送対象が王族絡みとか──」


「正解」


「えぇっ!?」


 


リリアが焚き火に薪をくべながら説明を加える。


「ミレーユは、“エトワール公爵家”の嫡女で、母方が王家直系。

つまり、王位継承権を持つ“血族”でもあるの」


「ま、マジでか……!?」


 


思わず流星は焚き火の火箸を落とした。


 


「じゃあ……なんでそんなのを俺らが……って、ギルドも知ってて任せたのかよ!?」


「裏に動いてる勢力を牽制する意味もあるのよ。

正規の騎士団だと、あまりに目立つから。

“外部冒険者による護送”は、その裏をかく手段として有効なの」


アリシアはまっすぐ焚き火を見つめながら呟いた。


「……それに。

“暗殺者”が既に王都周辺に潜伏してるって情報も入ってる。

今回の旅は、文字通り“命がけ”なのよ」


 


流星は、しばし黙って火を見つめた。

その焔の中に、何かを見たように。


「──なるほどな」


「怖くなった?」


「いや。むしろ燃えてきた」


「また、そうやって……」


アリシアが眉をひそめる。


 


「正直、護送とか命がけとか、昔の俺だったら絶対に逃げてたかもしれないけどな。

……でも今は、仲間もいるし。あと、王都の風俗街にも行きたいし」


 


「台無しだわ、最後の一言が」


アリシアがすぐにツッコんだが、リリアはクスリと笑って言った。


「でも……そんなあんたでも、護りたいって思ってくれるなら、少しは信用できる気がする」


 


そのとき、馬車の中から魔力の気配がふっと漏れた。

ミレーユは静かに天窓を閉め、焚き火の気配に耳を傾けていた。


 


(バカみたい。でも……)


──彼の言葉は、ほんの少しだけ、胸に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ