第14話『私は遊びではないの!アリシアの過去』
村を覆っていた戦火は、ようやく静まった。
夜明けとともに、残党のコボルトもすべて撤退し、村人たちは傷つきながらも笑顔を取り戻していた。
しかし──三人は、その戦いで想像以上の“消耗”をしていた。
流星は、村の裏にある井戸のそばで水を汲みながら、ふと背後を見た。
「……ずいぶん遠く見てるな、アリシア」
金髪を風に靡かせて佇むアリシアの背は、どこか寂しげだった。
「……」
「……」
流星は、彼女の隣に腰を下ろす。
重苦しい空気が漂うが、あえて黙ってそのまま、数分。
ようやくアリシアがぽつりと呟いた。
「……貴方みたいな人を、最初から否定してしまってたの。……ごめんなさい」
「いや、俺も初対面から“風俗”連呼してたし、仕方ない。正直、口は災いの元だった」
「ふふ……そうね。でも、ちょっと驚いた」
「何が?」
「……あのとき、村を守るために身体張って飛び込んだでしょう。あれで、少し思い出したの」
──彼女の瞳は、少し遠い過去を見ていた。
「兄がいたのよ。私より五つ年上で、優秀で、剣も魔法も一流。家の誇りだった」
「へえ……」
「でも、ある日突然“女遊び”にハマったの。……娼館に通って、相手の女の子にのぼせ上がって、金を注ぎ込んで。
仕事も放り出して、親の信用まで使って──」
言葉に、少しずつ怒りと悲しみがにじみ出てくる。
「……家は没落寸前。兄は出奔。母は病で倒れた。……私は、跡を継ぐために“完璧”でなきゃいけなくなったのよ」
「……」
「だから、“遊び”が嫌い。
刹那的な快楽が、どれだけ人を壊すか、身をもって見てきたから。
私は、笑って流せるような子じゃない。
──強く、真っ直ぐでいないと、生きてこれなかったのよ」
風が吹く。
その横顔は、どこか危うく、美しかった。
「……それで、俺のことも重ねたんだな。お兄さんと」
「……」
「……そっか。じゃあアリシア、安心しろよ」
「え?」
流星は、顔をこちらに向けて、穏やかに笑った。
「俺は、“遊び”で風俗行ってねえ。
……“生きるため”に行ってんだ」
アリシアの目が、わずかに見開かれる。
「現実のストレスに押し潰されそうなとき。
どうしようもなく心が凍って、何も感じられなくなるとき──
“癒してくれる誰か”がいてくれたら、また頑張れる。
それがたまたま、俺にとって“風俗”だったってだけなんだ」
「……あなたって、本当に……馬鹿正直すぎて、疲れるわ」
「ほめてる?」
「どちらかと言えば、呆れてる」
──でも、次の瞬間。
アリシアの唇から、そっと、こぼれた。
「でも……ありがとう。話してよかった。
少しだけ、心が軽くなった気がする」
「へへっ、だったら俺の勝ちだな」
「……勝ち負けじゃないって言ってるでしょ、もう」
二人の間に流れる空気が、ほんの少し和らぐ。
それを見ていたリリアは、遠くから二人を眺めながら呟いた。
「まったく……
戦うと強くなって、語ると距離が縮まって……次は何? お風呂イベントでも来るのかしら?」
──来ます(※たぶん)




