噂
「うるさいですよ。お2人とも。」
キャメルは耳を手でふさぎ顔をゆがませる。
「これが騒がずにいられますか。」
フローラは怒りをにじませながら叫ぶ。
「ちょっとキャメル、ちゃんと話しなさい。なぜジーク様がアベリアお姉さまに惚れただなんて言うのですか。」
アリーは更に弟に詰め寄る。
「わかっていますから。ちゃんと理由を話します。」
コホンと咳払いし、話す準備を整えキャメルは話す。
「あの日、パーティー会場についた彼に応対したのは僕でした。彼と雑談しながら、皆さんの待つ場所まで歩いていた時です。そこに丁度アベリアお姉さまが現れました。その時です。最初に疑念が生じたのは。彼の表情が、他の人を見る目と違っていました。しかもずっとアベリアお姉さまのことを目で追っているのです。
その後も彼は僕にアベリアお姉さまのことばかりお聞きになりました。何が好きなのか、どんな人なのか。さらに彼は一言、二言しかフロミス様にお声を掛けず、アベリアお姉さまにばかり話しかけていたでしょう?」
そう話し終えると、ふーっと息を吐き2人を伺い見た。
「そう言われれば………。確かに。」
「初めてお会いしたから気を使っていらっしゃるのかと思っていましたが………。」
2人は話を聞くと深く黙り込み、思案する。そしてフローラが口を開く。
「つまりこういうことですの?ジーク様はお姉さまの婚約者でありながらアベリア様にうつつを抜かしていると?」
「そうなりますわね。しかしおかしいですわ。そんなことならお姉さまが一蹴し、友情が壊れることなどあるはずがありませんわ。」
アリーはフローラにそう返す。
「そうね。お2人が友情をそんなことで壊すなんて。それにお姉さまとジーク様の婚約関係はまだ継続しています。」
「もしもジーク様が本気でお姉さまを好きなら、それ相応の誠実な対応をするのではありませんか?」
「僕もそうは思ったのですが………。いやな噂を聞きまして。」
2人の会話に挟まり神妙な面持ちをしてキャメルは呟く。
「「噂?」」
2人の声が重なる。
「これはフローラ様にとっては嫌な話になるのですが、このお話をすることをお許しいただけますでしょうか?」
キャメルはフローラを真剣な顔で見る。
「はい。かまいません。」
フローラも真剣な面持ちになり、キャメルの方へ体を向けなおす。キャメルはその反応を見、うなずく。
そうしてキャメルは学園の臨時講師兼キャメルの家庭教師をしているオギー先生から聞いた話を始めた。
「では。お話しします。アベリアお姉さまとフロミス様は、今年から学園の高等部に通い始めましたね。そこでの噂です。フロミス様がアベリアお姉さまに対して、その、良くないこと、虐めのような事をしているという類の噂が出回っているそうです。」
「「はああああああああああああ?」」
「お2人とも息が合いますね。」
キャメルはもう慣れましたというような顔をして2人を見る。
「どういうことですの?そんな低俗なことお姉さまが、ましてやアベリア様になさるはずがありません。」
フローラはバンッとテーブルを叩く。
「そうですわ。絶対におかしいわ。ちょっとキャメル。あなた何を言っているの?」
アリーは弟のキャメルをぶんぶんと揺さぶる。
「アギッ。」
キャメルは首を絞められ変な声を出す。
「どういうことですの。そんな変な噂。」
げほげほとせき込みながら、何とか姉の手から逃れたキャメルは、服を直す。
キャメルの話をもっと詳しく聞くとこうだった。高等部に進学ししばらくたってからアベリアには不可解なことが起こった。置いていた教科書がなくなる。服が捨てられている。偶然とは言えないような事が次々と起こった。
そしてある噂が立ち上がった。側にいるフロミスが裏でしているのではないかというものだ。
さらにもう1つ。フロミスの婚約者ジークが本当はアベリアのことを慕っており、2人は恋仲だということだ。それにもかかわらずフロミスが彼らの仲を邪魔しており婚約関係を解消できないという話が回った。
その話を聞いた皆は思った。フロミスがしていることで間違いないと。
結果、噂は当事者2人の元まで届く。悪い形となって。
「「………。」」
「アリーお姉さま、フローラ様。」
キャメルの呼びかけに2人は答えず沈黙し続ける。しかし、ちらりと2人の手元を見るとアリーの手元のメモは握りつぶされ、フローラの手元は怒りで震えていた。
「これは。私たちが思っているよりも深刻ですわ。こんな悪意のある噂、絶対にどこかに出所があるはずよ。」
フローラは怒りに震えながらも声を絞り出す。
「ええ。これはしっかりと調べなければなりません。」
アリーも握りつぶしたメモを掲げ挙げる。
「僕も微力ながらお手伝いします。」
キャメルもうなずき2人を見る。
その言葉を受け、フローラとアリーはキャメルの方を向く。
「「ありがとう。キャメル。」」
キャメルは不意に2人に礼を言われ少し照れくさそうな顔をする。
「じゃあ僕はこれで。何か手伝えることがあれば声を掛けてください。」
礼をして、席を立ちそそくさと退散していった。2人は、キャメルを温かい目で見つめ屋敷に入るのを見送る。キャメルが完全に見えなくなると2人は椅子を引き、座り直す。
そして話し合う。
「どう調べるのが1番いいかしら?」
「そうね………。」
「やはり1番は学園で聞くのがいいと思うのだけど。」
「でも中等部は高等部への立ち入りを禁止されているわ。」
妹2人は中等部、姉たちは高等部。高等部への進学まで後数か月ある。
「いえ待って。あるわよ調査方法が。」
「いったいどんな方法?」
「メイドたちよ。」
「どういうこと?」
「みんないろいろなところから来てもらっているけれどメイド同士でのつながり、コミュニティがいくつかあると思うのよ。だからその膨大な連絡経路を活用してその噂について探ってもらうのがいいと思うわ。」
「それはいい案ね。アリー。」
「しかしその元締めを口の堅いものにお願いしないといけないわ。」
「それが大事ね。お互いの家のことを知っていて、それでいて義理も口も堅い者にお願いしなくちゃ。」
そう言いあうと2人は腕を組み、頭の中で考えるのだった。
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