↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

流行り

「ドイツ歌曲の伴奏の仕事入りました。詳細、メールしときます」

「了解です」


「またか……」

 LINEの画面を確認しながら、神崎は独り言ちた。

 咲奈恵とのドイツ歌曲の評判が口コミで広がり、神崎の元に伴奏の依頼が急に増えた。仕事が増えるのは大変ありがたい。自分が好きなドイツ歌曲というのも、単純に嬉しい。しかし、……。

 皆が、咲奈恵の真似をする。これは……、いただけない。


 コンサートの画像や音源は、動画配信でもしていれば別だが、CDにでもしない限り、流出することは無い。もちろん、会場での無許可録音は犯罪である。しかし今回、音楽事務所のホームページで、咲奈恵の声を「予告」として流していた。しかも、「Morgen!」の、半分くらいだ。

 当初口コミは、会場に聴きに来ていた観客から始まったのだが、聴きそびれた歌い手達が、こぞってホームページに訪れ、この音源に飛びついた。そして、ちょっとした流行りになっているのだ。


「分かるなぁ。私の声程度なら、みんな自分の方が上手いって思うもんねぇ。これが、木之内さんなら、『さすがだわぁ』で終わっちゃうんだけど〜」

 と、咲奈恵は笑いながら言うが、神崎は納得していなかった。

「あれは、僕と咲奈の『Morgen!』なんだから、真似しても何の意味もない。耳コピして歌ったって、同じになるはずないのに」

「そうよねぇ。その人の歌に合った伴奏を、先生はしてくれるんだから、よっぽどその方がいい歌になるのにね」

「そうだよ。それぐらいのこと、分からないのかなぁ」

「……」

 きっと、先生なら何とかしてくれると思っているのだ。それ程、神崎の伴奏は人の歌を変える。こんな新人でもない、無名の歌手を、あれ程にまで引き上げるのだからと、誰でも考える。そしてそれは、正解でもある。咲奈恵は誰よりも良く分かっているからこそ、不安な気持ちが抑え切れないでいた。


 今日は久しぶりに2人でディナーをした。神崎の車で移動したため、駐車場に停めた車まで戻りながら話していた。広い一般駐車場の一角に停めたので、結構歩く。間もなく車に到着するところだ。

「……私、今だから言えるけど、『Morgen!』の最後の音、いつも先生にキスされてるような気持だった。ふふっ、すごい想像力でしょ」

 車の助手席側に回ろうとしている咲奈恵の腕を、神崎は掴んで引き寄せる。

「……間違ってないよ」

 頬を両手でそっと包んで、優しく唇にキスをした……。そう、これだ……。

 神崎の唇が離れても、咲奈恵は目を瞑ったままだった。そして、小さく溜息のように息を吐く。

「先生……」

「ん……」

 咲奈恵はそのまま神崎の胸に体を預け、両腕を腰に回した。

「これ、皆んなにするんですね……」

 「するわけないだろ」と、言ってやれれば安心するだろうが、愛の曲なのだから、その表現が2度とないとは限らない。相手の歌次第だ。それを分かっているから、今君はこうやって甘えている。

「実際に触れるのは、咲奈だけだから」

 髪をそっと撫でてあげれば、咲奈恵はちゃんと聞き分ける。顔を上に向けて、ニッコリ笑った。

「うん。そうだね」

 神崎はギュッと咲奈恵を抱き締め直した。あぁ、このまま帰したくないなぁ。と口に出そうになるが、お互い明日も仕事なので、そうもいかない。咲奈恵を家まで送り、そのまま神崎も帰宅した。


「ええ、やはりそれは、無理ですので……」

「でも、こちらにも問い合わせが結構来てるんです。どうですか?」

 咲奈恵は、音楽事務所の今川と、電話をしていた。木之内のツアーは、結局咲奈恵は今川の事務所に所属しないまま、フリーの立場で参加した。それは咲奈恵の意思で、神崎は尊重してくれた。

「本当にありがたいのですが、神崎先生の伴奏以外で、私の歌が通用するとは思えないので」

「もちろん、神崎さんのスケジュールが開いているときは、お2人のペアで構いません。ただ、ご存じの通り、今、神崎さん、既に飽和状態で……。こちらとしては、別の伴奏者をご紹介もできるんですが」

「……ありがとうございます。先生のスケジュールが開くことがあれば、またお誘いください。ホントに、すみません」

「そうですか……。分かりました。では、また何かあれば、ご連絡します」

「あっ、くれぐれも、このことは先生には内密に願います」

「分かってます。では」

 ステージのオファーが増えたのは、神崎だけではなかった。咲奈恵にも、実はかなり依頼が来るようになっていたのだ。ただ、咲奈恵は音楽活動を公にしているわけではないので、咲奈恵に直接オファーをする手段がない。結局手掛かりとして、今川の事務所にオファーが届くらしい。そこで、事務所への所属を勧められていた。それを頑なに断り続けている。


 私は、先生以外の伴奏では、もう歌わない。

 

 それが、考えた挙句の、咲奈恵の答えだった。感傷的に決断したわけではない。もしこれが4年前なら、何がなんでもこのチャンスを手に入れたいと思っただろう。守を巻き込んで、無理にでもステージに立ち、必死に喰らい付いていったに違いない。

 だが、今ではもう、それはできないことだった。守にしても、闇雲に一般企業に就職したわけではない。

 

 私達は、自分の才能に、見切りを付けた。

 音大卒業後、がむしゃらに演奏の場を見つけて、一生懸命活動した。守はバイトを掛け持ちした。もちろんそのバイトも、音楽関係を優先して、ピアノをいつも弾けるようにしたし、咲奈恵も派遣をしながら、どんな小さな音楽会にも、惜しまずに出掛けた。

 それが楽しかったし、そうしなければ世に出ることはできないと信じていたから。けれど、結局それは「自己満足」に過ぎなかった。年齢が進むにつれ、その方向性に疑問が生じ始め、モチベーションが支えきれなくなっていった。

 「自分の歌は、誰にも求められていない」

 その気持ちが芽生えてしまったのが、最後の決定打になった。

 

 そもそも芸術活動は、どんなものにしても、自分から発信し続けなければ、それで終わりだ。そんな基本的な情熱すら、もう自分からは生み出すことができなくなっていた。今なら分かるが、そんな2人の音楽など、聴いていても退屈なだけだ。どんどん悪循環のように、気持ちが付いていかなくなり、最後は咲奈恵の体が悲鳴を上げた。

 

「咲奈恵、俺、名古屋に就職決まった」

 卒業して、4年が過ぎていた。

「そっか……。おめでとう。私も、次の契約で、正社員にって打診が来た」

「……よかったな。東京に、残るんだな」

「うん。こっちの方が、仕事沢山あるから」

「そっか……」

「……うん」

「最後に、ジョイントコンサートやらないか?」

「……いいね、やろう。最後に」


 そうして実現したのが、名古屋のメニコンANNEXホールでのコンサートである。あの時のあの決断は、今でも正しかったと思っている。後悔もしていない。

 人の才能に見切りを付けるのは、他の誰でもない、自分なのだと、咲奈恵はあの時初めて知った。


 舞台の上では、あの「Morgen!」が歌われている。それを、咲奈恵は冷静に鑑賞していた。

 今日のリサイタルは、ソプラノである。客席は200席強の、小ホール。平面のホールに、可動式の椅子が並べられている。前方に少し上がった舞台が設置してあるが、これも可動式のため、全て取り払えば、クラシック演奏に限らず、色んな種類の催しに使える多目的ホールである。

 その一番後ろに、咲奈恵は座って聴いていた。

「そうなるんだ……」

 声に出そうになって、慌てて飲み込んだ。


 ステージ上のソプラノは、まだまだ若い、大学を出たばかりと思われる女性だった。プロフィールを見ても、コンクールの受賞歴があるわけでもなく、発声も音楽性も、突出しているわけではない。声も張りがあるものではないから、きっとオペラのアリアは歌えないだろう。プログラムも、この歌の他にドイツ歌曲を数曲と、日本歌曲が用意されている。

 その彼女の「Morgen!」は、前半、咲奈恵の歌にとても良く似ていた。神崎の「耳コピしても……」という言葉が頭をよぎる。自分の真似をされるというのは、小恥ずかしい気もするが、ちょっと面白い感じもして、不思議な体験だ。けれど、それはすぐに終わる。元々短い曲で、しかも前半しか音源はないのだから、後半はオリジナルということになる。そこで思わず、先程の言葉が出掛かった。


 咲奈恵が、いつもほんの少し入るのをためらう小節で、彼女はそのままインテンポで進めていく。当然、神崎もそのまま進めて、神崎が音でテキストを表現するために、少しリズムが緩む場所も、そのままインテンポで歌ってしまう。

 このまま進んで、どこで2人はリンクするのだろうと思っていたら、やはり最後まで交わることがないまま終わってしまった。当然、最後の1音も、軽く鍵盤を弾いて終わっている。つまり、表現をする暇が、全くなかった。

 こんな時、神崎はどうしているのだろうと見る。特に不満気でもなく、次の曲に進んでいる。次の曲も、音符をなぞっているだけで、それはやはり「歌」にすらなっていない。きっと神崎は合わせの段階で色んなアドバイスをしたに違いない。それでもこんな結果で、彼は不満ではないのだろうか……。

 あぁ、違うな……。これが、彼女の今の最善なのだ。神崎だから、ここまでまとめ上げられた。そう考えるべきだ。そして咲奈恵は思う。自分に翻(ひるがえ)って考えれば、自分も彼女同様、最善を尽くしたつもりでも、もっと上手い人達にとっては、それは取るに足らない音楽表現ではなかったのか?

 あまりに神崎が満足気に演奏会を終えたので、咲奈恵の疑問はいつまでも解決されないまま、モヤモヤと心に残り続ける。神崎は、舞台の上では、どんな感情もコントロールしてしまう……。


 楽屋を訪ねて、神崎の顔を直接見れば、そんな疑問をぶつける勇気は、出てこなかった。

「お疲れ様でした」

「どうだった?」

「相変わらず、先生は完璧」

「……」

 それだけ? という顔をしたので、言葉を足す。

「彼女はフレッシュで、素直な性格。これから、もっと違う曲にも、挑戦して欲しいな」

 その言葉に神崎はニッコリと笑った。

「そうだね」

 つまり、彼女にはまだ「Morgen!」は早い。「愛」を知らない女性が歌うには、荷が重い。流行り物に手を付ける怖さが、ここにある。もし大学在学中ならば、きっと指導者はこの曲を歌わせなかっただろう。

「先生」

 そんな未熟な歌手の伴奏をさせられても、神崎は不満の1つも漏らさない。

「ん?」

「私の……」

 私の伴奏は、不満ではなかったんですか? と確認したかった。けれど、きっと今の自分では、どんな答えを聞いても疑ってしまうだろうと、口をつぐんだ。

 不安そうな咲奈恵の表情を、神崎が見逃すはずはない。いくつかある花束の中から、1輪バラを抜き取って、咲奈恵の顔の前に差し出した。

「どうしました? お姫様」

 咲奈恵はそんな神崎に、心の緊張を緩める。笑いながらバラを受け取って、その香りを楽しむ。

「ありがとうございます。とても楽しかった。自分の真似されるって、ちょっと面白かった」

 神崎は咲奈恵の頭に手を置いて、クシャっとする。

「皆んなね、勘違いしてる。僕たちの『Morgen!』は、咲奈の高いテクニックだから、実現できてる。それを分かってない」

「……」

 ポロッと、咲奈恵の目から涙が落ちた。神崎は驚いて、珍しく狼狽える。

「どうしたの? どっか、痛い?」

 首を横に振りながら、咲奈恵も慌てて涙を拭った。全ての不安が、この一言で一蹴される。やはり神崎以外に、自分の声を託す相手はいないと、再確認した。

「先生って、やっぱり麻薬みたい……」

「何? どういうこと? 大丈夫なの?」

 咲奈恵の顔を覗き込むように心配している神崎に、咲奈恵は笑顔で答えた。

「今日はこれから打上げですね。楽しんできてください。これで私も、ゆっくり寝られそうです」

「あっ、うん。ホントに大丈夫?」

 何度も頷いて、笑いながら楽屋を後にした。言った通りその夜は、一輪挿しのバラの香りを楽しみながら、ゆっくり寝ることができた。


 しかし、そんな平和な夜もそれほど長くは続かなかった。次々に神崎は「Morgen!」の伴奏を続けたからだ。咲奈恵も時間が許す限り、それらを聴きに行った。そして悟る。やはり自分のテクニックなどは、最前線で活躍している歌手にとっては、当たり前のレベルなのだと。


 今日のメゾの米村などは、年齢が40代後半で、ドイツに年の1/3は居住している有名な歌手だ。ドイツでも歌劇場のオペラに出演し、ちゃんと役をもらって歌っている。そんな彼女まで、「Morgen!」を歌うのだ。流行りというのは、恐ろしい……。


 その米村の「Morgen!」は、咲奈恵とは全く違ったものだった。テキストの扱い方も、声の張り方も、別の曲かと思う。咲奈恵より、はるかに煌(きら)びやかな声で、歌曲以外のアリアもたっぷりと歌える重量感を持っている。

 そしてその声で表現される「Morgen!」は、まるで荒波を超えたカップルの様な、いや、まだ現在超えている最中かの様な2人を彷彿とさせ、甘さだけではなかった。

 もちろん神崎のピアノも、前奏から全く違った色合いで始まり、その時点で咲奈恵は驚いた。結局、彼女の表現を十分に受け止めた前奏だったのだと、後になって納得したが、最後の音も、「見つめ合っている2人」で終わってしまい、キスなどには至らない。その見つめ合いも、優しさに溢れたものではなく、むしろ、お互いに激情をぶつけ合った後のような、探りあっている愛情表現で終わっていた。

 

 咲奈恵は、衝撃を受けた。こんな「Morgen!」もあるだ。いや、それより、こんな「Morgen!」でも、神崎は表現しきってしまう。そのことに、衝撃を受けた。

 あぁ、そうだ……。先生は、それ程までの音楽家だった……。


 自分の身近にいる人間が、世界的規模だと分かった時の衝撃を、一体どれほどの人が経験するのだろう。たとえ経験したとしても、それを誇りに思うだけに留めておける人が、どれ程いるのだろう。

 大抵は、「本当に、凄いな」から始まり、「それに比べて自分は……」と、一度は悩むのではないだろうか。ましてやそれが、自分が愛する人であった場合のダメージは、計り知れない。「私の彼氏、カッコいいでしょ〜」と言っておけばいいのか……。横にいて相応しい自分である自信は、皆一律に持っているわけではない。


「咲奈、来て! 米村さんに、紹介したい」

 咲奈恵が楽屋を訪ねれば、神崎は演奏後の興奮を抱えたまま、咲奈恵の手を引っ張って、米村の楽屋に飛び込んだ。

「米村さん、彼女が『Morgen!』の火付け役です」

「あら、あなたの噂は聞きました。お陰で、久しぶりに『Morgen!』歌ったわ。楽しかった」

「初めまして。真野咲奈恵です。どの曲も、すばらしかったです」

 賞賛の言葉をしっかり受け取って、ゆったりと微笑む。タイプは違うが、どことなくその雰囲気は木之内を思わせる。隠しきれない自信が、溢れ出ている。やはり彼女も、トップスターなのだ。

「いいわねぇ、こんな名伴奏者でいつも歌えて。あなたが羨ましいわ」

「……いえ」

 咲奈恵は微妙な笑顔で、その先が続かなかった。彼女は、いとも簡単に「羨ましい」と口にした。こんな顕示欲が強いソロ歌手が、この言葉を使う時は、相手との差が歴然としている時だ。上から目線でなければ言えないセリフだ。そんな些細な事実も受け入れられない程、咲奈恵には全てのことがボディブローのように堪えていた。


「咲奈、どうした? 顔色が悪い……」

 自分の楽屋に戻った神崎は、咲奈恵の様子に気が付いた。咲奈は慌てて気持ちを取り繕う。せっかくの楽しい演奏後の興奮を、これ以上邪魔したくはない。

「そんなことないよ。ちょっと、緊張したー! あの米村メイだもん。あっ、サイン貰うの忘れた! なんたる不覚……」

「貰っといてあげる。パンフレット貸して」

「いい、いい。荷物になるでしょ。大丈夫。お話しできただけで、自慢になる〜」

 精一杯はしゃげば、咲奈恵も少しは心が軽くなった。神崎にサインを求めさせるようなこと、できっこない。対等な2人なのだ。彼自身なら、絶対しないようなこと、させるわけにはいかない。

「ありがとう、先生。こんなに色々すごい人に会えるなんて、ぜーんぶ先生のお陰」

「それは僕のセリフだな。咲奈の歌がなければ、あの『Morgen!』は誕生しなかったんだから」

「先生……」

 どこまでも神崎は、咲奈恵の欲しい言葉をくれ続ける。この言葉で、咲奈恵は何とか神崎の手から、こぼれ落ちずに済んでいる。

「咲奈、明日休みでしょ。僕も明日は一日オフだから、ウチでゆっくりしよう」

「ダメだよ。明後日また本番でしょ。明日はゆっくり休んでください。そのための休日なんだから」

「咲奈は最近、ちっとも僕の言うこと聞かない。来て。待ってるから」

「う〜ん。やっぱり、来週まで我慢する。そしたら、もう少しスケジュール楽になるでしょ」

「なんでそんなに僕のスケジュールに詳しいの? 今川さんか? 咲奈に入れ知恵してるのは」

 はい、そうです。昨日のゲネでも、先生少し疲れてて、ミスタッチが多かったって聞いたんだから……。

「へへっ。真野探偵社は優秀なのであります。また、辛抱強いのでもあります」

 胸に手を当てて、宣言する。少し笑った神崎は、しょうがなく諦めたようだ。

「分かったよ。じゃ、明日は、家でのんびりするかな」

「うん、そうして。LINEするね」

「分かった。……あぁ、咲奈」

 楽屋を出ようとした咲奈恵を、神崎が手招きした。何だろうと傍まで行けば、そのまま首を力強く引き寄せられて、キスをされた。腰を抱えた左腕にも、強く力が入っていた。

「咲奈……。咲奈が一緒に喜んでくれるから、僕もホントに嬉しいんだよ。もっともっと、喜んでもらえるように、頑張るよ」

「先生……」

 咲奈恵は、思わぬ言葉を貰い、一瞬思考が止まった。そうか……、これが先生の愛し方……。私、幸せなんだ……。

「うん、頑張って。世界の皆んなが、先生を待ってる!」

 咲奈は神崎の腕の中で、右手の拳を突き上げた。

「……、咲奈は規模がデカいな……」

「そう、私は欲が深いのです。先生がバルトリの伴奏をする日を、夢見てます!」

 チェチーリア・バルトリ。現在最高峰のメゾ・ソプラノと言われている人である。

「ごめん……、それは無理……」

「ははっ、諦めないぞ〜」

 もう一度強く抱き締められて、「がんばります」と小さく告げられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。