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095 女の敵

特定表現を削除、修正しました。

(2020/08/04)

「灰は灰に、塵は塵に……。土は土に……」


 慰めの言葉を発し、私は剣を霊装化して周囲を見回した。


 蓋を開けてみればなんてことはなかった、とも言えない状況。

 敵自体は大したことなかったけど、ここにはザガンさんとエルモアさんしかいない。

 それだけの被害が出たということだろう。


「おふたりとも、大丈夫でしたか?」


 放心していたふたりに声を掛けると、少し遅れて反応が返ってくる。


「え、ええ……あ、あなたのおかげで命拾いをしました……。なんとお礼を言っていいか……」


「俺からも礼が言いたい……ローズ君、君がいなければ俺たちは死んでいただろう……」


 可能であれば助ける、その程度の腹積もりだった。積極的に助けようとはしていない。

 お礼を言われるようなことをしたつもりがなかったので、私はその言葉を無視して話題を変えた。


「……他の方々は?」


 私の質問を受け、ふたりはキョロキョロと辺りを見渡す。

 すると、遠くから様子を窺っていたのか4人ほどが戻って来た。

 ひとりはヘカトンケイルの人だ。ちょっと小太りでボロボロの鎧を纏っている。

 残りの3人はなんかトカゲみたいな……。鎧の特徴からカラードの人だと思う。 


「……た、倒したのか……? あれを……?」


 爬虫類が話しかけてきた。いや、ごめん失礼だね。

 爬虫類系の亜人さんだろう。ここまでがっつり爬虫類っぽいと思ってなかったし、実際に見たのは初めてだからちょっと怖い。

 私は彼の見た目に気を取られて返答するのを忘れてしまっていた。


 答えてはもらえないか。というような残念そうな顔をした後、彼は続けて言葉を発してくる。


「……とにかく、もう脅威は無いのだろう? ならば被害状況の確認をしたい。それぞれの兵団の代表は生き残りを集めて来てくれないか……? 余力があれば我がカラードの者も集めてくれると助かるのだが……」


 気を利かせてくれたのか、ザガンさんが私の代わりに応対してくれた。


「分かった。最大の脅威はこのローズ君が葬り去ってくれたが、他にいないとは限らん。十分に注意してほしい。それと、ローズ君は宿舎に戻って休んでいてくれ。何かあった際に君の居場所がハッキリしていると心強い」


「……分かりました」


 あまり当てにされても困るけど。まぁいいか。


「では行こう」


 それぞれが静かに頷き、散開して闇の中へと消えていく。

 宿舎で待っていろということなので、私は闇に消えていく彼らを少しの間だけ見ていた。

 全員が、隠してはいるようだったが小さく震えている。


 ……。


 私は彼らの胸中を想像することをやめ、宿舎へと入った。


 


 しばらくして、私のいる宿舎へと生き残りが続々とやってきた。

 カラードの傭兵は全部で8人。全員同じトカゲのような顔で誰が誰だか全く見分けがつかない。

 ヘカトンケイルはザガンさんと最初に戻って来た小太りの男性だけ。

 アグネアストラはエルモアさんの他に、残りふたりが後を付いてやってきたが酷い怪我を負っていた。

 チェルミーさんに至っては全身に裂傷があるようで、手当の跡はあるが滲みだしている血が赤々と痛々しい。


「これだけですか? あの、キリングさんは……?」


 只者じゃない雰囲気のあのお爺さん。

 まさかやられはしないと思うけど、隷属の首輪をつけていると誰にも抵抗出来ないって言ってたし……。


「これだけだ……。死体が残っていないからまだ外にいるかもしれんが、これ以上は探すのは体力的にも厳しい。それにアグネアストラの3人は早く休ませてやる必要がある」


 青ざめた様子の女性陣は、ザガンさんの紳士的な対応も無視して奥の部屋へと入っていく。

 今度はカラードの傭兵が話しかけてきた。

 

「我々も休ませてもらいたい。詳しい話は明日の朝でいいだろうか……? ローズクラウンの団長殿」


 トカゲさんたちが全員でこっちを見てくる。

 なぜ姿勢を正しているのかは分からない。というかなんで私に許可を得ようとするんだろう。


「どうぞ、元々夜間警備は私の仕事なので、皆さんは構わず休んでください」


「か、かたじけない……!」


 トカゲさんたちは全員が胸に手を当てて顔を上げる。

 そしてすぐ、整然と並んでそれぞれの部屋とへ入っていった。


 あれは敬礼か何か?


「ではすまないローズ君。俺も休ませてもらう」


「はい、おやすみなさい」


 軽く会釈をして、ザガンさんは同団員の男性と一緒に空いている部屋へと入っていった。


「……」


 私だけになった宿舎入口広間。

 夜間警備もあるし、外に出よう。


 ガチャっと扉を開けると、鉄の臭いが鼻をつく。

 死体がないために死臭はしないが、酷い血の臭いだ。


「クラウン、そろそろ出てきたらどうかな?」


 ポツンと肩に小さな影の塊が出てきた。


「……その、すまなかった」


 素直に謝ってくるクラウン。すごい脅えようだったけど、あれは本能的なものだろう。

 だから私は別に気にしていない。


「別にいいよ、苦手なものは誰にだってあるしね。それよりも夜間警備、また上空でお願いできる?」


「……ああ、任せておけ」


 そう言ってクラウンは元気に影から飛び出し、上空で旋回を始めた。





 ◆





 ――翌朝。


 朝早くから目覚めたカラードのトカゲさんたちと、ザガンさんが外の状況確認に出ていた。

 私は宿舎の屋根上からそれをボーっと眺めている。


「……」


 ひとしきり見終わったのだろう。戻って来た彼らに声を掛けられ、宿舎内へと私も戻る。

 そこで朝食も無しに昨日の話になった。


「まず俺から、ひとつ報告しないといけないことがある」


 ザガンさんが1番に口を開く。


「ヘカトンケイルの生き残りは俺とこのポポロ、それと恐らくは奴隷の爺さんも生きている」


 え! キリングさん生きてるの!?

 ……いないけど……?


「それ以外の3人、内ふたりは昨日の戦闘で死んでいるを確認している。残りのひとり、ファルコのことだが……」


 ギリっと歯を強く噛みしめる音がする。

 チェルミーさんだ。


「昨日、ヴァンピールの出現で皆が散り散りに逃げた後。深手を負っていたチェルミー君は、食料保管の小屋に隠れたんだそうだ。そこに、真っ先に逃げたはずのファルコが……――」



 ◆



 ――昨夜、ヴァンピール出現の直後。


『ハァ……ッ! ハァ……ッ! もうダメ……ここでやり過ごすしか……』


 チェルミーは小屋の中で隠れられそうな場所を探していた。

 しかし大きな麻袋が大量にあるだけで目ぼしい場所は見当たらない。

 麻袋も、現在の深手では動かすことができなかった。

 そこに、ファルコが現れる。


『よ、よお……鉄拳女……』


『お、お前……何しに来た! 隠れるなら別の場所にいけ!』


『あ、ああ? どうせ、隠れたって死ぬぞ……? ヴァンピールだ、ヴァンピールだぞ? 逃げ切れるわけないだろぉがッ!』


 傷だらけのチェルミーは、大してダメージを負っていないファルコに殴り飛ばされた。


『うぐ……っ』


 傷に響いたのか、その呻き声は重い。


『あはははは、ざまぁみろよ。俺の顔を思いっきり殴ったりするからだ。このままサンドバックにして、脚でもへし折れば……お前を餌に俺だけ逃げ切れるかもなぁ!』


 抵抗する力が残っていないチェルミーに、ファルコは容赦なく拳を浴びせ続けた。

 最初は苦悶の表情で悔し涙を浮かべていたが、やがてチェルミーの顔は表情すら窺えぬほどこ腫れ上がる。


『は、所詮女なんざこんなもんだろうが。四肢全部砕いて二度と動けないようしてやる……ッ』


 その時だ。

 ブツンという鈍い音がした。何かこう、肉を貫いたような、そんな音だ。


 まぁ原因なら明らかである。

 誰だろうとすぐに気付く。

 ファルコの腹から、農作用の鍬が突き出ているのだから。


『なっ……おぼぉっ』


 どうやら背中から突き刺されたようだ。

 傷は肺を貫通し、吐血もほどほどに膝が折れて小さくなる。だが意地を振り絞ったのかファルコは余力で振り向いた。

 そこにいたのは、あの小汚い奴隷の爺。


『おい爺……これは……何の……』


『いけませんなファルコさん。女性は優しく扱わなければなりません。弱ったところに暴力を振るうなど、紳士の風上に置いておけない。そういう輩が最後に行き着く先は大体同じですよ……』


『あ? 何言って――』


 ファルコの体は突如、ベキベキと音を立てて小さくなっていく。


『ぁ……ぱぁ……なん……』


 丸く、どこまでも丸く。腹に刺さった鍬と共に。

 その質量からは考えらないほど小さく。

 最終的にビー玉ほどの大きさまで縮小し、それはポトっと地面に落ちて少しだけ転がった。


『お嬢さん、爺の服で汚いですが、これを羽織りなさい……』


 チェルミーは腫れぼったい顔で見返し、そこで意識が途絶えた――。



 ◆



「我が兵団からとんでもないクズが出てしまったことを、ヘカトンケイルの団長ギネスに代わり、深くお詫び申し上げる」


 ザガンさんはチェルミーさんを中心に、女性陣全員へと向け頭を床にこすりつけた。

 合わせて、ポポロという名の同団員も床に額を付けている。


「……」


 とんでもないクズだった。

 私があの時、殺しておけばよかった。

 純粋に心の底からそう思う。


「結果として、そちらのお爺様に助けられはしましたが、チェルミーの受けた心の傷は深い。チェルミーにはあなた方の謝罪を受け入れるつもりはありませんし、私個人としても到底受け入れられるものではありません」


 エルモアさんが毅然とした態度でザガンさんの謝罪を跳ね除けた。

 私でも同じようにする。


「……ですが、当人が既に死亡しており、且つ兵団同士の処遇について互いに団長がいないこの場では決められません。全てはナロッゾに戻ってからです」


「承知した……」


 重苦しい雰囲気だが、この空気を払拭しようという気にはならない。

 男という生物に対しての嫌悪感だけが募っていく。

 そうでない人だって当然いるだろうけど、そういう生き物なのだと、思い知らされる。


「それで、そのキリングさんはどこに……」


「それが……チェルミーの話では、目覚めた時には既にいなかったそうです。腰にはしっかりとぼろ布が巻かれていて、手当までされていたようですが……」


 いなかった?

 何故消える必要が?

 というか、そもそも奴隷が主の背に鍬を突き立てるなんて……。

 まさか……。


「……ザガンさん、キリングさんは誰の(・・)奴隷だったんですか?」


 私は疑問を投げかける。


「それは勿論、ファルコの……いや待て、だとすれば主人のファルコを殺すことなど……」


 そう、よくよく考えればありえない。

 この様子なら少なくともザガンさんの認識では主人はゲス野郎。

 でも、チェルミーさんが襲われた話が本当なのだとすれば、それはありえないはず。

 疑うわけではないけど、1度現場を確認したい。


「すみません、その小屋に案内してもらえませんか」





 ◆




「これだ、この玉だ」


 真っ黒いビー玉サイズの小さな玉が落ちている。

 それ以外には特に変わった様子はない。

 キリングさんの足取りの手掛かりでもあればと思ったけど……。


 仕方なく現場検証を終え、私は玉を拾い上げようと掴んでみた。

 だが予想に反して重く、すぐには持ち上がらなかったがまぁなんとか持ってみた。


「ろ、ローズさん! そんな汚らわしい物に触れてはいけません!」


 離れた位置からエルモアさんが忠告してくる。

 どうやらこれには近づきたくないようだ。

 それは私もそうだが、これがそのクソ野郎ならバラバラに刻んでやりたい。


「よく持てたなローズ君、俺には重すぎて拾い上げることは出来なかったんだが……」


 ザガンさんの言葉に、目だけ向けて返答はしない。

 そしてすぐ視線を玉へと戻す。


 持った感じ、硬くはない。

 だが異常に重い。


 キリングさんと食器を洗いに行った時にも、似たようなものを持たされた……。

 ならやっぱりこれはキリングさんの仕業だと思ってもいいだろう。


 私はそれを指で上空へと弾き飛ばし、エーレンベルグを発現させる。

 そのまま一矢放ち、汚らわしすぎるあの玉を射抜いた。


 射抜かれた玉は粉々に砕け散り、風に乗って空へと消えていく。


 ……ざまみろっ!


「じゃあ戻りましょうか」


 ふぅ。ちょっとスッキリした。

 心なしか、女性陣も同じように多少鬱屈した雰囲気が晴れた気がする。

 気のせいかもしんないけど。

 

「戻るのなら、来ていただきたいところがあります。ローズクラウンの団長殿」


 振り返ったところで話しかけられた。

 なんでそんな畏まった言い方するのこのトカゲさん。



 少し歩いてやってきたのは、腰から下が突っ立っている騎士の死体がある場所。

 えーと、あのヴァンピールはローガンとか呼んでたよね確か。


「この大盾に描かれたエンブレム。これはご存じですか?」


 トカゲさんが二人がかりで、半分ほどに割れた盾を支えている。

 どっかに落ちてたのかこれ。


「いえ、知りません」


 ベテルギウスの兵団エンブレムだって、君たちのしか分からないよ私。


「これはカタディアンの、国章です」


「こくしょう……?」


「はい、国を表すものですね。カタディアンでは、このエンブレムを自身の武具に付けられる人間は数名しかおりません。その中で大盾を使用する者は、私の知る限りではひとりだけ」


 もしかしなくても偉い人なんだろうか。


「名を、ローガン・ストラトス。カタディアンの軍を指揮する大将のひとりです」


 ああ、めっちゃ偉い人だった。


「この男も、ローズクラウンの団長殿が?」


「え、ええまぁ……はい」


 オオ、とトカゲさんたちが感嘆の声を漏らす。

 なんか恥ずかしいんだけど。


「ヴァンピールのみならず、あの猛将まで……! 我らカラード一同、感服の至りにあります……!」


 トカゲさんたちがまた胸に手を当てる。

 そして先ほどから率先して喋っていたトカゲさんが急に私の前に跪いた。


「恥ずかしくも私は恐怖で逃げ出した口、本来ならお声を掛けることすら憚られるべきかとは存じますが、どうか1度我らの長にお会いいただきたい……!」


「え、えーと……?」


 正直状況についていけてない私。


「是非会うべきだローズ君。カラードの団長は、今やこの国で最も有名な方だからな、そうそう会う機会などないぞ」


 横からそう助言するのはザガンさんだ。

 そうそう会えない人物だとしても、用もないのに会うとか正直面倒くさい。


「我らカラードの長の名は、ミルノード・バルバロイ。現在、この国を代理で治める立場にある傑物でございます。どうか……!」


 え、バルバロイなの?

 代理で治めてるって、え、まじか。

 

 まさに棚から牡丹餅の気分だった。


 そこからは話がトントン拍子に進んだ。

 まず、一応の重要拠点であるはずのヘルメスだが、しばらく防衛の必要がないという意味不明なことを言われ、ナロッゾへ撤退。

 その理由に関しては、自分の口からは言えないとトカゲさんは教えてくれなかった。

 ナロッゾに着いて、アグネアストラの3人と別れる。

 3人には後でアグネアストラの拠点に来て欲しいと言われたので、こっちの用事が済んだら顔だけでも出しに行こうと思う。

 アイシャさんのおかげで、一気に目的に近づけたしね。


 そしてナロッゾでは軽く補給だけを済ませ、屋根付きの馬車を借りてベテルギウス首都、オウロムへと出発した。

 何故かザガンさんも一緒である。

 アグネアストラの3人とには、後日改めて団長共々謝罪に行くと伝えたらしく、いつの間にか私と同じ馬車に乗り込んでいたのだ。


 ――移動中、馬車内。


「しかしローズ君、何故実力を隠したりしていたんだ?」


「いえ、別に隠してたわけじゃないですけど……」


「しかし測定不能だと言っていただろう。あれでは皆下位クラスの傭兵だと思ってしまうぞ。差し支えなければ実際のクラスを教えてくれないか?」


「あ、あの、だからですね……」


 なんて言えばいいのこれ。

 強すぎて測定不能でしたって言う?

 自分で?

 自慢してるみたいで恥ずかしいんだけど。


「ザガン殿、測定不能というのはA++という測定限界を超えた場合にも表示されるのですよ」


「なんと……それは知らなかった……」


「差し詰め、ローズ殿はA++を超えて、S以上の実力があるのでしょうな」


「え、英雄クラスではないか……!」


「既に英雄ですよ。ヴァンピールすらも倒しているのですから」


 トカゲさんが代わりに説明してくれたのはいんだけど、本人の前で褒めちぎるその感じはやめてほしい。

 こっ恥ずかしい。

 そんでSではない。


「ローズ殿はいったいどんな鍛錬を積まれたのですか? 良ければ参考までにご教授いただけないでしょうか」


「あー……そのー……、いっぱい戦いました……」


 う、嘘は言ってない。

 言ってないぞ。


「ふむ、実戦に勝る鍛錬無しということか」


「な、なるほど……! とにかく経験を積めと……! 深い……!」


 何も深くないよ!

 大雑把に言っただけだよ!

 好意的に拡大解釈するのもやめて!


 終始こんな感じで、武器を出したり消したりはどこに閉まっているのかとか、強すぎる腕力で日常生活はどうなっているのか、とか。

 色々と根掘り葉掘り聞かれ、適当に答えながら首都オウロムへと進んでいった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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