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093 夜襲

接続詞の誤字を修正しました。

 夜、私たちは代表者のみで集まり、昼間の一件について落としどころを話し合っていた。

 私の仕事の時間だけども、今は他の傭兵さんたちが代わってくれている。

 

「さて、どうしましょうか。うちのチェルミーは彼をここから追い出す方針を頑として譲らないのですが」


 アグネアストラからはエルモアさんが代表で来ている。

 チェルミーというのは昼に鉄拳を放った茶髪で外ハネ短髪の女性のこと。

 すごい拒絶反応を起こしていて見かけるたびにプリプリ怒っていた。


「ファルコにも事情を聞いた、言い寄ったのは事実らしいが一切触れていないと主張していた。そしてそれは当事者であるローズ君も認めている。拘束する分には了承できるが、ナロッゾに戻すのは承服しかねる」


 ヘカトンケイルからはザガンさんが代表で来ている。

 ファルコというのは私に言い寄って来た男性だ。そして私は触れられてはいないことをちゃんと認めた。

 気が動転して着衣が乱れてしまったのだろうと言い訳したけど……。


「裁定には従うと聞いていましたが……」


「従うつもりだ。だが、感情的になって下した決断で護衛任務に支障をきたすわけにはいかない。戦力の低下を招く指示を通したいのならばそれを補えるだけの代替案と根拠を示してほしい」


「うーん、補うというか。我々は既にファルコさんを戦力としてみなしていませんので、ゼロがいなくなってもゼロのまま。補う必要性を感じません」


 う、うひょぁー。エルモアさんこわぁ……。

 けっこうキツいことを仰っている……。

 虫けらは虫けらだからってことでしょ? ゴミはいなくなった方がいいってことでしょ?


 などと、自分でも酷いことを言っていると気づかず、私はふたりの様子を見ていた。


 どうにもアグネアストラの3人は、男性を毛嫌いしている様子だ。

 女性だけの兵団って話だったし、そういう女性ばかりが集まってるんだろうか。

 アイシャさんのイメージからはそんな負の面は窺い知れなかったけど、女性だけというのにはそれなりの事情があるんだろうな。


「ローズさんからは何か要望はありませんか?」


 黙ってみていたところに急に話しかけられて焦る私。


「え、えと……」


 ああ、あの場で私があしらうだけにしておけば……。

 気持ち悪かったのは事実だけどこれはこれでめんどくさい。

 ちょっとオーバーに見せ過ぎた負い目があるので、なんとなく申し訳ない気分になる。

 なので、これでいこう。


「私に話しかけないでもらえればそれでいいです」

 

 私がそういうと、ふたりがキョトンとした顔でこちらを見た。


「そ、それだけでいいのですか?」


 意外そうな顔をしないでほしい。

 もうさっさと終わって欲しいんです私は。


「はい、いいです。今は仕事に集中したいですし」


「……分かりました。それではザガンさん、当事者であるローズさんの恩情により、彼には二度と私たち女性陣に話しかけないという罰だけで済ませましょう。絶対に反故にしないようきつく言っておいてください」


「心得た。ローズ君、感謝する」


 私に話しかけるなって言ったのに、女性陣全員になってるんだけど。

 口を出して長引いても面倒だったので私はお口チャックで頷くだけにした。




 ◆




 話し合いが終わって岩の上。

 今頃宿舎内では、今日の出来事の罰則を申し伝えていることだろう。

 哀れファルコ。しかしお前が悪いのだ。悔い改めて生きるがいい。

 などと考えながらボーっとしていると、横にキリングさんが現れた。

 ちなみにクラウンは上空を飛び回りながら警戒している最中です。


「よっこい……せ……。いやぁ随分と背の高い岩ですなぁ……。老体には堪えます……」


 軽々登ってるようにも見えたけど。

 まぁそこは言うまい、野暮になる。


「随分と寛大な処置で済ませたみたいですな。この国では男性に対する不信がとにかく強くてですね。皆あなたの心の広さに驚いておりましたよ……」


 そんなに驚くほどではないと思ったけど、そういう風潮があるならあのふたりのキョトン顔も納得できる。

 この国では過去にいったい何があったんだ……。


「ファルコさんはね。ヘカトンケイルに所属してから目覚ましい成長を遂げましてな。急成長だったせいか、だいぶ自信も付けまして……、兵団に所属したことも要因のひとつでしょうな。……いわゆる全能感というやつです。自分には何でもできる。全て思い通りに出来る……と。たかだかクラスCで、随分とイキがったものです」


 ……。


「ローズさんは全能感を感じたことはありますか?」


 全能感か。聞いたことはあるけど、結局どういうものか分かんないな。

 自分には何でもできる、なんて。

 思ったことがあるような、ないような。

 

「どういうものなんですか?」


「そうですね。簡単に言ってしまえば、怖い物が何もなくなるということですかね。それが自身の力であれ、虎の威を借るであれ。といったところです」


 怖い物が……。


「いやはや、意地悪を言いましたな。あなたはないでしょう。そういうの」


「……」


「地に足が付いていると言いますかね。あなたからはそういった驕りを感じません。そもそも全能感を感じるというほとんどの人間は、ただ錯覚しているだけです。他力本願の怠け者だけが陥る、夢見心地なただの錯覚。本当に力を持つ者は、自身の立ち位置がちゃんと分かっているものですからね」


 難しい言葉ばっかりでちょっと難解だけど、なんとなく褒められてるんだろうなってのは分かる。


「ローズさんは何が切っ掛けで扉を開けたのですか?」


「……分かりません。その、扉というのを開けた自覚はありませんし、その中にいるという実感もありません。ただ、いつの間にかこうなっていただけで」


「そうですか。ですがそれは、確実にあなたが歩んできた歴史です。錯覚するのはいただけませんが、自分に自信を持つというのは大事なことです。力というのは、どれだけ自分を信じられるかだと思いますよ」


 はは、なんだろ。見透かされてるみたいだ。

 今更、何を迷うわけでもないというのに。その言葉が胸の深い部分に突き刺さった気がした。


「おや、そろそろ戻らないと。お仕事の邪魔をして申し訳ありません。ローズさんだけなんですよ、私と対等に接してくれるのは。……()()()()()()()()()()()ゆっくり昔話でもしたいものですね」


「……そうですね。是非そうしたいです」


「では……」


 そう言ってキリングさんは岩場から降りて行った。

 彼についている隷属の首輪、私ならきっと外すことができる。

 私が干渉していい事柄なのかは分からない。けれど、明日もう1度話す時に言ってみよう。

 首輪を外したくないか、と尋ねてみよう。


 落ち着いた風に吹かれながら、穏やかな夜空を見上げた。


「ローズ! 敵襲だ! 汽笛をならせ!」


 突然急降下してきたクラウンが、私の影に飛び込み大声で叫ぶ。

 私は慌てて渡されていた笛を鳴らした。


 ピィー! という鋭い音が敷地内に響き渡る。

 次いで慌ただしさが増していく。


 護衛任務として増員された私以外の8人が外に出てくる。

 その中にキリングさんの姿はない。

 今度は主要護衛兵団であるカラードの面々が外に飛び出してきた。

 全員がフルプレートを身に着けていて剣や斧を装備している。数は24人。

 後方支援がいないじゃないか。


「とにかく叫べローズ! 敵の数は50! 50だ! 闇に紛れて魔物も混ざっている!」


 私は言われたことをそのまま口にして仲間へと伝えた。

 そしてすぐ、敵勢存在の確認を行う。


「狼? と……騎馬!」


「ローズさん! 早く降りてきてください!」


 下からエルモアさんの声がする。

 そうだった、私は後方支援だ。

 高さ的にはいい場所かもしれないけど、身を隠す場所がない。初心者弓兵がいていい場所じゃない。

 早く向こうに行かないと、と急ぐあまりいつもの調子で跳んでしまった。


「あ……」


 彼らの頭上を越え、宿舎の屋根に到達。

 私の飛翔を見守っていた彼らは開いた口が塞がらない様子だった。


「ろ、ローズさん! そこから支援射撃をお願いします! もしもの時は宿舎内に避難するか退避を!」


「は、はい!」


 これ後で追及されないだろうか。心配だ。

 いや心配はあとだ。今は迎撃に集中しよう。

 

 目を凝らしていると、カラードの傭兵たちが集まっている方角から叫び声がする。 


「敵勢力! 数50! 情報通りカタディアンの傭兵部隊だ! 数でやる戦争の時代は終わった事を教えてやれお前ら!」


「おおおおおおおおお!」


 すごい士気の高さだ。

 ただ、情報通りという言葉が気になる。


「クラウン」


「ああ、考えるのは俺に任せてお前は戦闘に集中しろ」


 月明かりしかないが、距離が詰まるにつれその姿がよく見えるようになってきた。

 騎馬が50程度、それに追従するように狼の群れ。

 狼は20頭くらいだろうか。流石に移動速度が速い。


 カラードの24人は全員前衛職。

 下の8人は正直分からない。近接系が多いと思うけど、支援系はいないのだろうか。

 数は向こうが倍。万が一の場合は私が動いてもいいけど……。


 あと十数秒もすれば敵が入り込んでくる。

 その前にエーレンベルグで一射放とうとした。

 その瞬間だった。


 突然、重苦しいプレッシャーが圧し掛かり、重低音が響き渡る。

 発生源は遥か上空……!


「上……!?」


 見上げた空。

 そこには見慣れないモヤモヤとした何かがふたつあった。

 それぞれの中心には、白く月明りを反射した鎧を着込んだ人間がひとりずつ見える。

 モヤモヤが消えると同時に、そのふたりは地面へと向かって降下し始めた。

 敵騎馬隊の遥か頭上、あの高さから落ちて平気なのだろうか。


「転移魔術だローズ! どちらか片方でもいい! 降下が完了する前に撃ち落せ!」


「わ、分かった!」


 引き絞った弓、私の手に握られた矢は2本。

 片方と言わず、どうせなら両方落としてしまえ。

 

 豪弓から同時に放たれた2矢は、凄まじい風切り音を発しながら目標へと突き進んでいく。

 緩い曲線を描きながらも確実に降下中のふたりに向かっていった。


 直撃したひとりはバラバラになって降下を継続。かに見えたが、自らバラバラになったようだった。

 四散した肉体が明らかに指向性のある動きを取っている。

 もうひとりの方にも矢は到達したが、剣か何かで斬り払われて迎撃されてしまったようだ。


「ローズ……。まずいぞ……あのバラバラになった方は……ヴァンピールだ」


「――!?」


 ヴァンピール。昔お母さんに聞かされたことがある。

 亜人種の中でも特に生命力が強く、膂力や魔力も人間とは比べ物にならない存在。

 純粋な吸血鬼をヴァンパイア、人との混血として亜人となったのがヴァンピールだ。

 その規格外の強さから魔物と呼ばれることもあり、国によっては災害指定の魔獣と同列視される。

 同列視されるだけで、あくまでも亜人なためテイムすることはできない。

 純粋な吸血鬼であるヴァンパイアほど強くはないが、それに準じた戦闘力は人間にとって災害そのものであることは間違いない。

 血よりも肉を好み、その主食となっているのは鳥。

 そう、同じ災害指定級であるクラウンフォーゲルが大の大好物だったはず。


「本当にいるんだヴァンピールって……」


「いるに決まってるだろう! 逃げるぞ!」


 メチャメチャビビってらっしゃる!

 脅えたクラウンとか新鮮だ。

 どうやら好物について間違ってはいないようだ。


 でも私は逃げない。本当に災害指定級に強いのなら、私がいなくなったらきっとここは全滅だ。

 それに、いい加減護衛任務を達成できないジレンマからも脱したい。

 なにより、たかが災害指定級の亜人に逃げてるようじゃ、国を滅ぼすなんて脅しに真実味がないじゃない。

 これを撃退して、一気にベテルギウスの重鎮に近づく。これが理想的だ。


「おい何してる! 早くしろローズ!」


 喚くクラウンの声は、到達した敵勢力の怒号に掻き消された。

 騎馬による襲撃、それに対して地上から迎撃を試みる傭兵たち。


 どちらも傍から見ればそこらの兵など相手にならないと思えるほどに動きが機敏だ。

 個々の傭兵の実力を見極めるいい機会、やっぱりここで逃げるのは下策だろう。


「おおおお!」


 ザガンさんの気合の入った掛け声。

 馬上の敵を引き吊り降ろしていく。数ではこちらが劣るけど心配は無さそうだ。

 援護射撃も必要ないと判断し、私は降下中のあれに目を向けた。


 私の矢を迎撃した方は依然降下中。

 クラウンがヴァンピールだと言った方は、降下速度を上げて地面に今まさに到達した。

 

 着地の衝撃音がここまで届く。

 軽くクレーターを作っているようだが、降り立った人物に影響はない様子。

 遅れて騎士の方も地面に到達した。

 こちらの方が重量があったのか、さきほどよりも大きな着地音が響く。

 その後、ヴァンピールが着ていたと思われる鎧類がバラバラと地上に降り注いでいた。


「な、なんだ……!」


 カラード、ヘカトンケイル、アグネアストラ。

 3兵団ともに、降下を完了した存在を感知し軽く動揺していた。

 転移魔術とやらの発生音に気づいてなかったのだろうか。


 そんな動揺の隙を突かれてか、数の不利も相まって押され始める。

 すると、情けない声が私の耳まで届いた。


「キリング! キリングウゥ! 俺を助けろぉ! おい! 命令だぞ! 早く助けろぉお!」


 ファルコだ。

 剣を無様に振り回しながら、馬を失った敵と対峙している。

 1対1だと言うのに随分なへっぴり腰だ。

 奴隷を身代わりにでもするつもりだろうか。

 あれでよくイキがれたものだ。


「あああああ! くるなぁ! くそやろうがぁっ!」


 見かねて助けてやろうかとも思ったが、そんな余裕はなかった。

 既に岩の上に、あのヴァンピールがいる。

 ジッとこちらを見つめてきていて、視線を外そうものなら即座に向かってきそうだった。


「おいローズ……俺はお前の影から出ないからな……頼むぞ、本当に頼むぞ。大丈夫だ、お前なら勝てる。じゃあ後でな。任せたぞ」


 そう言い残して、クラウンはうんともすんとも言わなくなった。


「全く……」


 さて、初心者弓兵もここまでかな。

 たいして弓も撃ってないし、支援攻撃もしてないけど、こうまで見つめられたら無視できないよね。


 弓を霊装化、次いで剣を発現。

 ヴァンピールってのがどれくらい強いのか分からないけど、試してやろうじゃん。


 ……これが全能感ってやつかも? 特に怖くはないし?

 確実に勝てるとは言い切れない。けれど負ける気はしない。

 それともこれは錯覚?

 

 いいや、負ける気がしないのは確かだ。

 それは私が自分で歩んできた道が裏付けしてくれる。

 多くに助けられた道かもしれないけど、それでもそこを歩いたのは自分だ。

 自分で歩いたんだ。歩いてきた道のりは、錯覚じゃない!


 キリングさんに言われた言葉を反芻し、私はヴァンピールを睨みつけた。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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