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080 剛腕のオルタナ

 森の中を、ひとりの女性が傘をさしながら歩いていた。

 空いた左手には、スキンヘッドの男の脚が握られている。


 それは、ロンメルを抱えて逃げ、世話係としても数日苦楽を共にしたオーサスだった。

 用事があって城に残ったはずの彼は、議会最高顧問であるオルタナ・ルビィアイズに引きずり回されていた。

 死んでいなかったが、意識はない。

 森中を引きずり回され、体中至る所に擦り傷が出来ている。

 

 途中オルタナは歩き疲れたのか、突然立ち止まって息を大きく吸い込む。 

 それを一気に吐き出すと同時に、大声を張り上げた。


「ザアアミイイイイイイイイイイイイ!」


 森全体が空気の振動で揺れ動いている。

 鳥が一斉に飛び立ち、気配を消していた獣たちは一目散に逃げ出していく。


 そんな中、森のある部分で声に反応した揺らぎが発生する。

 声に対して警戒を強めたのだろう。

 その周囲に対して闘気を練り混ぜた敵意を一瞬放ち、すぐに消えた。


「いたぁあああ」


 オルタナはそれを見逃さなかった。

 障害物となる岩も木も、全てを粉砕しながら真っ直ぐと突き進む。

 引きずっているオーサスの事など一切考えていない様子で、彼の体は更に傷ついていく。


 オルタナが向かう場所にいたのは、件の戦場荒しローズ・クレアノットだった。

 向かってくる轟音に、消した闘気を再度練り上げて警戒し、念のために仮面に顔へと取り付ける。

 その近くにいたライアスもまた、計画に支障をきたす可能性を考慮してた身を隠し始めた。


 突き進む轟音と、待ち構える闘気。

 

 それは、ものの数秒で邂逅する事となった。






「あれ……ザミじゃない……?」


 ローズはその言葉を聞き流しつつ、状況を把握する事に神経を使っている様子だ。

 返答もせずにじっとオルタナを見つめていた。


「あなた……誰……? 何を……してるの……?」


 ただの人違い。

 その方向で去ってくれる事に賭けたのか、今度は言葉を返す。 


「私は旅の冒険者です。どなたかと間違われているようですが……」


 そこまで口にしてローズは硬直した。

 何を考えているのか、仮面の下の表情は固まっている。


「あ、仮面……。じゃああなたが……黒寂を騙る……襲撃者……?」


 疑問を投げかけておきながら、オルタナは自己完結して握っていた人間を放り投げる。


「それ……お土産に……持ってきた、んだけど……あいつ……ハゲ好き……だから……。でももう、いらないから……あげる。代わりに……ね?」


 血まみれのオーサスは地面の上で浅い呼吸を繰り返していた。

 生きてはいるが、傷が酷い。

 すぐに治療しなければ命に関わるだろう。


「あなたを……頂戴……?」


 致命的な質問を沈黙でやり過ごす事は出来ず、問答無用に向かってきたオルタナをローズは剣で弾き返す。

 ビィィンという強い衝撃が腕に伝わっていく。

 それはまるで、凄まじく硬いものを叩いた時のような、そんな衝撃だっただろう。


 宙に打ち上げられたオルタナは、降下しながら傘を叩きつけた。

 それを躱したローズは、自身がいた場所の破壊痕を見て驚愕する。


 振るった傘はすっぽりと地面に埋まり、半径にして10メートル程度のヒビが柵上に広がっている。

 穴は傘の大きさの分だけ。


 研ぎ澄まされた鋭い一撃ならば確かにこういった形で埋まるだろう。

 だがこうもヒビは広がらない。

 逆に超重量の武器を叩きつけたのならば、ヒビによる破壊は確かにこれくらい広がってもおかしくないだろう。

 だがああも綺麗には埋まらない。


 つまりオルタナは、超重量の武器を使う達人クラスという事。

 仮に技量が同じだったとしても、武器の質量が違いすぎる。

 まともに受けては武器が持たない。


 察したローズは中遠距離へと攻撃方法をシフトして、リベンゲルの短弓と豪弓エーレンベルグで射抜き始めた。

 しかし短弓は容易く弾かれ、エーレンベルグは多少タメが長く容易には当たらない。

 そうこうしている間に間合いを詰められる。


「すごいね……いっぱい武器……出せるんだね」


「うく……ッ!」

 

 いなし、躱し、損傷を最小限に。

 傘という武器とは言えないような物に、どうしてそこまでの重量があるのかは謎だが、受ける度に響いてくる重い衝撃は本物だ。

 にも関わらず苦も無く高速でそれを振り回す。

 超重量武器の弱点であるはずの極大の隙を付く事も出来ず、間合いを操る事も出来ないローズは攻めあぐねる。


 多種多様な武器を扱えるローズに取って、ここまで相性の悪い人間の敵は初めてだった。

 鞭も剣も飛び苦無も投げナイフも弓も効かない。

 最も攻撃力の高い斧ですら易々と弾かれ、体を晒してしまう。

 武器を奪おうにも隙が無く触れることが出来ない。

 

 一撃もらう覚悟ならば簡単に奪えるだろうが、コンマ数秒それが遅れただけで致命的なダメージを負わされる危機感が、それを躊躇させているようだった。


「あー分かったぁ。ケランの言ってた……女の子……でしょ?」


「ケラン……? それってまさか……」


 オルタナの言うケランに、ローズは心当たりがあったためか仮面の下で顔を大きく歪ませている。


「そう、ケランドール・パラケルスス……っていう。変態……だよ」


 その言葉にローズは激昂する。

 有効打を探して様子見していた先ほどとは違い、猛攻に次ぐ猛攻で攻め手を止めない。

 武器を途中で変換し、途中で複製し、目まぐるしく変わる手札でオルタナを翻弄していく。

  

 明らかに動きの質が変わったローズに付いて行けず、オルタナは遂に傘を失う。

 斧による叩きつけを弾くつもりで薙いだ傘は、突然変わった剣によって、重低音と共に斬り裂かれる。


「うそ……」


 目の前の事実が飲み込めないオルタナはふたつに別れた傘を手に持ってそう呟く。

 動きは止まり、その瞳は無残な己の得物だけを見つめていた。

 

 当然ローズがその隙を逃すはずはない。

 呆けている様子のオルタナに向かって渾身の両断撃。


 大地を穿つ苛烈に響く音が広がっていく。

 大き目のクレーターが出来上がった中心には、斧を片手で受け止めたオルタナが佇んでいた。

 ぎこちなく、ギギギと顔をローズへと向け、見開いた眼光の鋭さが闇を抱えて光っている。


 超重量の傘。

 いくら重いと言えど、所詮傘は傘。

 振る際の空気抵抗は強く、グリップが利くような持ち手にはなっていない。

 極端に言えば、ナイフの持ち手が爪楊枝になっていて指でしか持てない。そんな状態だった。


 それをこうまで見事に使いこなせていたのは、ひとえにオルタナの尋常ならざる腕力(かいなぢから)によるものだろう。

 ならば傘を使う事で、その戦闘力が著しく落ちていたのは想像に難くない。

 本当の驚異は超重量武器の傘ではなく、それを扱う膂力である。


 つまるところ、ここからが本番だと言えるだろう。


「お気に入り……ではなかったけど。ちょっと……ショック……だからちょっと……本気出す」


 受け止めた斧を掴み、強引に空中へと投げ飛ばすオルタナ。


 状況が正確に把握できていないローズ、上空へと放り出されてしまった。

 致命の一撃を放ったはずが、受け止められあまつさえ投げ飛ばされる。

 その事に対する動揺は大きかったが、ここで目的意識を取り戻す。


「灰は灰に……塵は塵に……。人は人に……」


 祈りを捧げ上空へと跳びあがるオルタナと、発現させた鎧を蹴り出す事で降下速度を速めたローズ。

 木々よりも少し高い位置で、ふたりは拳と剣を交えた。


 生身と鉄ではありえない音が鈍く鳴る。

 互いに衝撃で弾き飛ばされるも、着地と同時に即座に向かっていく。

 

 オルタナは拳を豪快に振りながら攻撃を繰り返し、重低音が響く剣撃だけは器用に避ける。が、そのせいもあってか決めきれない。

 対してローズの剣撃は服を刻むだけ、打撃を受ける際に面断ち(おもてだち)で迎撃するも躱されては拍子を外される。


 目を見開きながらこれを見ていたライアスは、辛うじて人と人が戦っていると認識できる程度だった。

 伝わってくる衝撃と、響き渡る鈍い音でオーサスも目を覚ましていた。


 最低限の応急処置を施しただけだが、見た目通り頑丈だったようで意識はハッキリしていた。

 自身を介抱してくれた男が、あの時見捨ててしまった冒険者であることには気づいていた様子だが、口に出す事は無かった。

 今は目の前の状況に脳がフル回転している最中なのだろう。

 到底理解する事は出来ないだろうが。



 眺めるふたりの男性は、戦うふたりの女性を見て何を想っただろう。

 人としての高みについてか、自身との力量差への絶望か、そこへ至った者への羨望か。

 その想いは、不意に口から零れ落ちてしまった。


「巻き込まれたら確実に死ぬなこりゃぁ……」


「そうだな……」

 

 生存本能は正直だった。

 





 戦闘は終盤に差し掛かったと言っていいだろう。

 時間にして10分も経っていないが、既に消耗が目に見えてきていた。


 オルタナの息が上がってきている。

 疲れを感じないローズの様子は当初とさして変わりがない。


 徐々に鈍くなる動きを、ローズの斬撃が捉え始めた。


「うぅ~~~!」


 まるで駄々をこねるように腕を振り回すオルタナだったが、精細さの欠けた攻撃が当たるはずもなく一方的に斬り刻まれていく。

 そして漸く、その時が訪れる。


 宙に浮いたままのオルタナの脚に、鞭が絡まり行動の自由を制限される。

 どれだけ膂力が強かろうと、それが十二分に発揮されるのは支えがあってこそ。

 自由落下中のオルタナの攻撃力は、疲れも重なり大きく損なわれていた。


 重心がブレブレの状態故か、鞭を振りほどく事も出来ず引っ張られ、空中にいるまま、体は空を仰ぐように地面と水平となる。

 そしてすぐ、下から1本の槍が腹を貫通して出てきた。

 反撃しようと無理矢理に体を回転させ下を向くが、そこにローズの姿は無い。


 今度は上から、先ほど同様背中から攻撃を受ける。

 まともに防ぐ事も出来ず、無数の刃物に貫かれていく。

 痛みに思考を奪われた瞬間、鞭に引っ張られオルタナの体は横へと投げ飛ばされた。

 背中から木々に激しくぶつかり、刺さった剣や槍が更に体の中を抉る。

 

 けたたましく響いていた戦闘音は止み、鳥や虫のさえずりも無く、オルタナも沈黙し、水を打ったような静寂が辺りを包み込んだ。


 その静けさを破ったのは、ひとりの中年の声だった。

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■ 本小説の世界の中で、別の時代の冒険を短編小説にしました。
最果ての辺獄

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