019 いざ地上へ!
療養して2日目。
今はコアさんと一緒に、野菜を収穫している。
ダンジョンを抜けるための食料を準備するためだ。
「ローズ様、そのレタスはまだ早いです。こちらのエリアから収穫してください」
「あ、はい。すみません」
「…………」
「…………」
「やはり気になりますか?」
ギクゥッ!?
「あ、あはは。分かっちゃいます?」
物欲しそうにしてるのを見られたんだろうか。
地上を目指すうえでパンは絶対に欲しい。
どうやって作っているのかは正直気になる、私にも作れるなら……。
「恐らく、あなたももう気づいているのでしょうが、彼女もまた実力者でした」
ん?
「存命中の異名は戦撃の貴婦人、斧を自在に扱う武人としてその名は大陸中に知れ渡っていたものです」
おや?
なんの話かな?
「名をレムル・アウレリア。その武勇を買われて、ブロックマスターとなりました。あなたが勧誘されているのと同じ理由ですね」
パンの話ではないな。
私が火葬した人のことを話しているんだろう。
とりあえず、食い意地が張ってると思われなくてよかった。
今は話を合わせよう。
「女性だったんですね……」
「はい、ですがいくら強くてもブロックマスターとしては優秀ではありませんでした」
ブロックマスターとして……?
「初めのうちこそダンジョンに逃げてくる野盗や犯罪者、人の道を外れたであろう者たちを招き入れては養分にしていましたが、地上で入口の管理がされると同時に、その行為をやめてしまったのです」
「……」
「理由は単純で、ただの冒険者に罪はないというものでした。それからというもの、己の内でのみ魔力の循環を行い……。ついには枯渇して死亡されたのです。愚かだと思います」
「そ、そんな言い方って」
「事実です。知らなかったとはいえ、現にその影響で魔物たちは地上を目指し、罪無き人々に牙を剥こうとしています。彼女さえ死ななければそうはならなかったというのに」
分からない。
確かにそうなのかもしれないけど、罪の無い人たちを食い物にしたくないという考えも理解できる。
その行動を愚かだと断ずるのは結果論だ。
きっと正しいことだと思ってしたことなんだと思いたい。
それは優しさから出た行動に違いないから。
「結果的にはそうなってしまったんでしょうが、それでも優しい人だったんだと、少なくとも私はそう思います」
私はそう言いながら、目の前のレタスを背中のカゴへと放り込み続けた。
「…………ありがとうございます」
ボソっと呟いたコアの言葉は、聞き取ることができなかった。
◆
「ん~! よし! 準備オッケー!」
大き目のリュックサックを背負い、斧を肩に掛ける。
その横で、ダリアは大きくした体をプルプルと震わせていた。
体の中には私が3人くらい入れるカゴを収納しているのが見える。
中身は全部食料だ。
「それじゃあ色々とありがとうございましたコアさん! パンもいっぱい頂いちゃってすみません!」
「ピピィ!」
「いえ、お気になさらずに……」
「それじゃあ! 行ってきます!」
頭を下げ、翻って歩み出そうとするが、
「……お待ちください」
と呼び止められ、コアの方を振り返る。
「ローズ様がもし、武器の扱いを極めようとなさるのであれば、残り7人のブロックマスターをお尋ねください。全員がそれぞれ特定の武器を極めた武人たちでございます。武具の支配者を目指すのならばこれほど相応しい師はいないかと」
「そ、そうなんですか! ありがとうございます!」
「それと、ここのブロックマスターであるレムルですが、あなたに弔っていただいたことを感謝しておりました。代わって御礼申し上げます」
「い、いえそんな! 大したことでは……!」
深々と頭を下げるコアに、慌てて頭を下げ返す。
「私は次のブロックマスターが現れるまでここにいます。ですので、気が向いたらお立ち寄りいただけると幸いです。その時はダリア様もどうかご一緒に」
「分かりました!」
「ピ!」
と、いってもこんな下層にそうそう来れるとは思えないけど……。
「それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「……はい! 行ってきます!」
「ピィピィ!」
改めてお辞儀をし、セーフポイントを後にする。
じゃあついに!
地上を目指します!
いくぞー!
おー!
ピー!
◆
さて、息まいて出てきたわけですが。
広い……。
本当に広いこのダンジョン……。
あのセーフポイントがあった場所は、コアさんの話では70階層という事だった。
そこから2つ上がって現在68階層。
既に数時間は歩いている。
階段があるような場所に、毎回あのサバスとかいうのがいたら嫌だなぁとは思っていたけどいなかった。
どうやらあれは、下層の最終地点ゆえの魔物だったみたい。
まぁそこから更に下があるようだけど、今は気にしない。
目指してるのは上だしね。
しかし本当に魔物の数が少ないな。
助かるっちゃ助かるんだけど、どっかで渋滞してる魔物の群れとかに出会ったらそれはそれで嫌だな。
「ダリア、ちょっと休憩しよっか」
「ピィ!」
リュックを置き、中からコアが作ってくれたサンドイッチを取り出す。
もちろんダリアの分も。
ダリアは体からカゴを取り出し、横に置いてからサンドイッチを受け取る。
「美味しい……! やっぱり穀物って素晴らしいね……!」
「ピィ~!」
丁寧に味付けされたそれらを、モムモムと食べ始め5分ほど。
次第に魔物たちが集まってきている。
シルバーウルフと変わらぬ体躯の黒い狼。
二足歩行で槍を手に持ったトカゲ。
体長6メートルほどの蛇。
匂いに釣られてきたのだろうか。
だが、食事中ということもあって私とダリアは無視を決め込んでいる。
食事を止めないふたりを前に、魔物たちはそれぞれを同じ獲物を狙うライバルと認識し争い始める。
それを見ながら、ふたりはサンドイッチを頬張り続けた。
まるでテレビでも鑑賞しているかのように。
「ご馳走様でした!」
「ピ!」
食べ終わると、目の前では勝利した巨大な蛇が他の魔物たちを丸のみにしている。
「大迫力だったねぇダリア」
「ピィ~」
荷物を背負い、その場から離れようとする。
それに気づいた蛇は、寸胴になった胴体を引きずりながら向かってきた。
「えいっ」
なんかもう、強いか強くないか分かるようになってきたなぁ。
持っていた斧で蛇の首を軽く刎ね飛ばす。
その蛇はキリングスネークと呼ばれる猛毒の蛇だ。
青プレートの冒険者では逆立ちをしても勝てないだろう。
だが既に、私に危機感を抱かせる存在ではなくなっていた。
無様に地面を転がる蛇の首。
食料に余裕があるからか、見向きもしない。
「じゃあ行こっかダリア」
「ピィ~!」
◆
「7人のブロックマスターに会え、ねぇ? しかもちゃんと斧の使い方までレクチャーしちゃって」
「いけませんでしたか?」
「いや? 別に大丈夫だよ。彼女が強くなるならそれはそれで喜ばしいことだしね。君の助言どおり武器は出しっぱなしだし、素直な子は成長も早いよきっと」
「ええ、そうですね。地上へ出る以外の目標ができ、多少なりともそれに夢中になっているのだと思います。聖書にも書かれていましたしね、『夢中になれるモノが、いつか君をすげぇ奴にするんだ』と」
「うん、それは……うん……」
「私もワクワクを100倍にして待とうと思います。彼女が戻ってくるのを」
「あ、うん……。いいと思うよ……。でもあんまり聖書の言葉を使わないようにね」
「え? はい……?」
「じゃあ、まぁ、うん。そこはとりあえず君に任せるよ、コアちゃん」
「はい、お任せください」




