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スナイプ・ハント  作者: 柚希 ハル
決別編
39/74

39 綱渡りの一晩Ⅲ



 ――時刻、23:45:13――


 海斗はその時間を測っていた。

 格好はタクシーの運転手のまま、『迎車』とだけ表示を変えてある。

 十七分と五十二秒後、茜は乗ってきたタクシーに戻ってきた。


「お疲れ。結構かかったな、どうだった?」

 海斗は帽子を取って、運転席からルームミラーで茜を見た。

 茜は心底怠そうに、長いため息を吐いて鏡越しに海斗を睨んだ。


「あんた、私がああいう人種嫌いなの分かって向かわせただろ」

「その事も含めて、茜が適任だと思ったんだよ」

 海斗は撮った写真を確認し、満足そうに頷いた。

 今野が床に落ちた乾燥大麻をポケットにしまう瞬間、そしてタクシー内で掲げて見せる姿だ。


 どちらも事前に隠しカメラを設置し、遠隔操作で狙って撮った。乾燥大麻の袋を落とした位置も、店の前にちょうどタクシーが止まっていたのも計算上のことである。今野は気付きもしないだろうが。


「それで、十七分もかけて何してたんだ?女の子達逃してたのか?」

 茜は投げやりな表情で窓の外を見つめた。


「……逃げたかったら逃げてるんじゃない。あの子達を縛り付けてる物理的なモノは壊してきたから」

 鎖とか、カメラとか、ビデオとか。

 そう呟く茜は分かっているのだろう。

 あの場に閉じ込められていた彼女達を本質的に縛っているものは、心理的な何かだということを。

 それは、一度踏み込んだだけの茜には取り外せない鎖だ。


 茜は強い。力もある。茜なら、力ずくで彼女達を外に出すこともできただろう。

 しかしそうしたところで、彼女達が本当に救われるわけではない。結局は行き場のないまま、元の場所に戻るのがオチ。この世界はそういう弱者をすぐ利用したがる。

 そして茜は、強さと賢さを持つ茜は、弱者を救えないことに対する不甲斐なさを仕方ないと諦める。

 工作員(スパイ)には似つかわしくない正義感だが、それがあってこその茜だ。


 出来ることはやったんだろ、と淋しげなその背中を励ましたいが、茜はそんな言葉を望んでいない。

「まぁ、今野が大麻を握ってる写真も指紋も取れたし、あとはそれをマスコミと警察にリークすりゃ、芋づる式でこの店も表沙汰になるだろ。そしたら何か変わるかもな」

 こう言っても、茜の反応はイマイチだ。


 だから海斗は話題を変えた。

「そうだ茜お前、偽名に人の姉貴の名前使うのやめろよな。悪寒が走る」

「……オマージュだよ。ああいう色仕掛けにはルナさんがいい手本だから」

「それはまぁ……否定できないな」

「だろ。あー、久しぶりに顔見たいな。早く帰って来ねぇかな」

「やめろ姉貴が帰ってくるなんて地獄でしかない」

「そういう割には情報のやり取りしてんだろ、仲良いじゃん」

「向こうが情報教えたがるんだよ!くっそ、そのくせ見返り求めるってどんな神経してんだあいつ……」


 姉がそう言いだすことは予想していたが、『相当な』見返りを求めるとは思っていなかったのが本音だ。

 海斗が運転しながらグチグチ言っていると、機嫌を直したらしい茜が、後部座席で小さく笑って身を乗り出した。


「それで?由奈の方はどうなってんの?」

 そう聞かれ、海斗もニヤリと笑ってみせる。

「もちろん順調だよ。深矢の奴、思った通り度肝抜かれたってよ」




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