22 隠すべき事、憑りつく噂Ⅱ
「やっぱりダメか……」
梟の事務室、広い作業机の上で海斗が携帯端末を弄っている。茜はそれをつまらなさそうに眺めていた。
「SIGの査問委員会を盗聴させるバカがどこにいるんだよ。持ち物検査で引っかかってるだろ」
「もちろんダメ元だっての……雑音しか聞こえない。電波が遮られたか壊されたな」
海斗がイヤホンを耳に当てながら呟く。
「そもそも査問委員会ってどこでやってんの?」
「さあな。本部のもっと地下深くかもしれないし、別の場所かもわからない」
「それと今朝のあの事件、あたしらも現場にいたことは上も知ってるのに、何で招集されたのは深矢だけなんだ?」
「そりゃあおそらく……」
海斗は手元の機械を机の中央へ押しやった。
「深矢が『規格外の問題児』だからだろ」
数日前に朱本がそう言っていたのを思い出す。
先代の大学長暗殺事件の容疑者であり、青嶋学園の脱走者。
そしてSIGのエージェントの暗殺現場に居合わせた男。
全て繋がりがあるとしたら――
「三年前の事件を追っていた、とか?」
「もしくは三年前の事件でSIGを憎み、敵対組織と組んで復讐を図ってる、とかな」
関わってるよ、けど犯人じゃない。
深矢はそう言っていた。あのセリフが本当なら海斗の推測は違う気がする。
「……殺された男がどんな奴かによるってことか」
「大方三年前の事件に関わりがある奴だろ……だとしてもどうやって調べるかな。殺されたんじゃあ機密レベルも格段に上がって、いっかいの構成員には情報にアクセスできなくなるだろうし。一応、狙撃場所と思われる場所にも行ったけど手掛かりは何も残されていなかったしな。殺した側の情報も不透明だ」
「それもそうだけどさ、」
茜は真剣に考える海斗に呆れた視線を投げる。
「任務の方はどうすんだよ?あいつの査問期間中、あんたと私だけで進めるしかないじゃん。それに査問だって長引きそうなんだろ?」
「長期戦になるな。何せ不審な点が多すぎる。それこそ深矢のバックに何かデカいものが付いてたら別だけど。それも査問委員会を打ち切りにさせるくらいの……」
あーもーこいつ、寝ても覚めても深矢の事しか考えてねぇ。
気持ち悪いを通り越して呆れてくる思考回路だ。
茜はやれやれと頭を抱えた。つい半年前の青嶋にいた頃の方が有能だった気がする。
「……とりあえず、明日の作戦は私一人でも行くよ」
貿易会社の本社に潜入し、武器商人との取引の証拠を探しに行くのだ。
こういった潜入モノは深矢の方が適任だと踏んで持ち掛けた。
だが当の本人が塞がってしまったのだから仕方ない。
「深矢の腕がどれだけのもんか、見てみたかったけどな」
海斗が何気なく呟く。茜はそれに苛立ちを覚え、舌打ちをして席を立つ。
そんな茜の突然の態度に海斗は怪訝な顔をしたが、それを無視して事務室を荒々しく出た。
「一体何なんだよ気持ち悪い……」
その呟きは本人に聞こえたのかどうなのか、海斗は茜が出て行った扉を呆然と見尽くしていた。




