花火 (6)
それ以上の反論は続かずますます閉口せざるをえない俺に、泉は困ったように言葉をかける。
「楽しみにしてたんでしょ、打ち上げ花火。去年は私に付き合わされて見られなかったから」
泉の言う通りだった。
年に一度にしか見られないあの花火は、俺にとって特別な意味を持っていた。それが、去年は泉の仕事に付き合わされたせいで、花火大会に来ることができなかったのだ。だからこそ今年は例年以上に心待ちにしていた。泉を説得しながらも、さっきから鳴りやまない背後の打ち上げ花火が気になって仕方がない、というのが正直なところだった。しかし、はいそうですかと泉を置いていけるはずもなく俺は
「だったら、打ち上げ花火を見た後でやればいいだろう」
と論理的に反論を試みていた。普段ならそういった弁舌は泉の専売特許であり、いくら俺が真似をしてみたところで理路整然とした応酬が待っていること請け合いだった。ところがそれに対する泉の反論は、ごくごく個人的で、感傷的なものだった。
「私、ああいう花火はあんまり好きじゃないし、線香花火の方が好きなんだ」
こちらに背を向けてしんみりと呟く泉の声は、委員長としての毅然とした声でも、常の憮然とした声でもない。
それは泉涼子という、ただの女の子の声。
そう感じた途端に、優秀な委員長の背中はいつか見たときよりもか弱げに見えていた。