第五章:霧の中へ|第1回
翌朝、朝陽が南方澳の小さな漁村を金色の光で包んでいた。空気には露と海風の清らかな匂いが漂い、遠くの港からは海鳥の声がまばらに聞こえてくる。すべてはいつもどおり穏やかだった。トビーは、芸潔が用意してくれた藍衫に着替えていた。軽く、動きやすく、心地よい。村の入口に立つ彼の炎のような赤い髪は、朝の光の中で跳ねるように輝き、周囲の素朴な風景とのあいだに鮮やかな対比を作っていた。
三人の若い壮漢は、すでに準備を整えていた。先頭に立つのは阿明。引き締まった体つきで、目は鋭く落ち着いている。ひと目で経験豊かな猟師だとわかった。肩には粗末な木製の猟弓を背負い、背中には数本の矢を掛けている。その後ろに続くのは小胖。丸みのある体格だが、足取りは安定していた。革製の大きな背嚢を背負い、中には食べ物と飲み水が詰め込まれている。最後は阿光。三人の中で最も若く、少しはにかんだ様子で、腰には短刀と麻縄の束を差していた。
彼らは皆、鄭公が村の中から慎重に選び出した若き精鋭であり、「天選の子」を導く重責を背負っていた。
鄭公はそばに立ち、白髪まじりの髪を微風に揺らしていた。出発しようとする四人を見つめるその目には、深い期待が宿っている。
「これからの道のりは長い。皆、くれぐれも気をつけるのだ」
鄭公は低い声で言い聞かせた。視線は阿明、小胖、阿光を順に見渡し、最後にトビーへ落ちる。
「子どもよ、道中は阿明の指示に従いなさい。天公がお前たちの旅の無事を守ってくださるように」
トビーは鄭公へ深く一礼した。
「長老、そして皆さんのご厚意に感謝します。気をつけます」
彼は周囲を見回した。あの見慣れた、いたずらっぽい姿は見当たらない。芸潔は現れなかった。祖父の固い決意に、最終的には同行を諦めたのだろう。トビーの胸にかすかな寂しさが広がったが、それが彼女の安全のためであることも理解していた。
「出発するぞ!」
阿明が手を振り、小胖と阿光を連れて、まず村の後方に広がる山林へ向かって歩き出した。トビーもその後に続く。一行四人は、預言の地を目指す旅へ踏み出した。
彼らの予定では、西北の方角へ進み、後山の森を抜ける。森の中には非常に深い遺跡の隧道があり、鄭公によれば、その隧道を抜ければ目的地へ到達できるという。
一行は静かに三時間あまり歩き続け、ようやく後山の密林の入口へたどり着いた。陽光はなお明るく、茂った葉のすき間から斑の光を地面へ落としていた。土の香りと植物の清らかな匂いが正面から押し寄せ、トビーにこれまで感じたことのない「生命力」を感じさせる。ベイシティの合成植生は清潔だったが、ここにある自然の野性味は欠けていた。彼のセンサーは全速で稼働し、周囲のあらゆる微細な情報を捉えていた。葉のこすれる音、昆虫の羽ばたく低い響き、名も知らない鳥の澄んだ鳴き声。
阿明は前方で道を切り開きながら、トビーへ道中の注意を言い聞かせた。
「この山には生き物が多い。大半は友好的だ。こちらから刺激しなければ、向こうも攻撃してこない」
「ただ、特に注意しなきゃいけないものもある」
小胖が補足した。大きな背嚢を背負っているのに、足取りはなお安定している。
「黒熊、それから群れになった野犬だ。この二つは距離さえ保てば、たいていは人を襲わない。でも近づきすぎると、縄張りを侵されたと思うかもしれない」
阿光は道端に絡みつく蔓の一群を指さした。そこには鮮やかな赤い花が咲いていた。
「それと、これ。肉食性の変異植物だ。甘い匂いを出して小動物をおびき寄せ、蔓で絡め取って飲み込む。通るときは気をつけて。あの花に惑わされちゃだめだ」
トビーはそれらの情報を黙って量子生体脳へ入力しながら、「自然生物」と「変異植物」を好奇心深く観察していた。彼のデータベースにも生物に関する知識はあったが、実際に身体で感じるのはまったく別のことだった。強化された感知能力を通して、植物内部をゆっくり流れるエネルギーや、灌木の陰に隠れる小さな生物の微かな熱源までも察知できた。
しばらく進むと、前方の山道はいっそう険しくなり、樹木もさらに高く密になった。まるで空を覆い隠そうとしているようだった。阿明は足を止め、蔓と苔に覆われた深く暗い入口を指さした。
「この先が深山だ。この道が後山へ入る唯一の道になる」
彼らが深山の入口へ踏み込もうとしたそのとき、横の灌木から小さな影が突然「えいっ!」と飛び出した。阿光は驚いて、危うく短刀を抜きかけた。
「芸潔!?」
トビーは驚いて叫んだ。
やはり芸潔だった。彼女は体格に合わないほど大きな藍衫を着込み、自分の身体より大きな包みを背負っていた。髪は少し乱れ、頬は赤く、明らかに彼らに追いつくために全力で走ってきたのだとわかる。その目には、頑固さと興奮の光がきらめいていた。
「村に残るなんて絶対いや! 私も冒険に行く!」
芸潔は腰に手を当て、息を切らしながら宣言した。
鄭公の言い聞かせはまだ耳に残っている。だが芸潔は、すでにここまで来てしまっていた。トビーは一時、どうすることもできなかった。鄭公が芸潔の安全を思っていたことはわかっている。けれど、憧れに満ちた彼女の目を見ていると、拒む言葉が出てこなかった。それに彼の心のどこかでは、この活発な人間の少女が、この未知の旅へ少しばかりの面白さをもたらしてくれるのではないかとも感じていた。
「はあ……」
トビーは軽くため息をつき、ついに折れた。
「わかったよ、芸潔。でも約束して。道中は阿明兄さんたちの指示に従うこと。勝手に走らないこと。わがままを言わないこと。いいね?」
芸潔はたちまち顔を輝かせ、力強くうなずいた。
「約束する! トビー、安心して!」
そして阿明たち三人へ顔を向ける。
「阿明兄ちゃん、これで私がいるから、もう怖がらなくていいよ」
阿明、小胖、阿光は顔を見合わせた。困った様子ではあったが、トビーが同意した以上、この突然加わったお供虫を受け入れるしかなかった。
芸潔が加わったことで、隊の空気は一気に軽く、にぎやかになった。芸潔はトビーの赤い髪を興味津々に眺め、さらに彼の藍衫を指さし、小さな口を少しも休ませなかった。
「トビー、あなたの住んでいるベイシティってどんなところ? そこにいる人たちは、みんなご飯を食べないの?」
トビーも芸潔の矢継ぎ早の質問に笑ってしまった。そしてゆっくりと、ベイシティの光景を彼女へ語りはじめる。雲を突くスマートタワー、空中を滑るように進む個人用移動機、ネオンのきらめく清潔な街路、AIたちがデータとプログラムを通して生活を運営する仕組み。
芸潔は大きく目を見開き、何度も驚きの声を上げた。
同時に、トビーも芸潔に南方澳の日常生活、村の習俗、海怪や「天選の子」にまつわる伝説について尋ねた。芸潔は村の細部を丁寧に説明してくれた。漁の方法から藍衫を作る工程、さらには海怪に関する民間の物語まで。トビーはこの世から隔絶された古い人類社会への理解を、いっそう深めていった。
二人は道中ずっと話し続け、互いがよく知る世界の知識を交換した。どちらにとっても新鮮で、得るものは多かった。ベイシティでは当然のように存在していた「テクノロジー」が、芸潔の口では不思議な魔法になり、芸潔が語る素朴な「生活」は、トビーの耳には未知と挑戦に満ちた冒険のように響いた。
彼らの会話は、まるで数千年を隔てた二つの世界の壁を破るようだった。互いの視野は、そのぶんだけ広がっていく。
一行はさらに山林の奥へ進んだ。草木の茂る谷あいを通りかかったとき、芸潔が突然、前方を指さして叫んだ。
「見て! あれは何?」
トビーが彼女の視線を追うと、阿光が前に話していた肉食性の変異植物の一群が、数本の蔓を伸ばし、一匹の黒い幼犬をきつく絡め取っていた。幼犬は弱々しく鳴き、もがく身体は小さく震えている。すでに力尽きかけているのは明らかだった。
「まずい!」
阿明の表情が変わった。彼はすぐに背中から弓を抜いたが、ためらいもあった。この植物は攻撃性が強く、むやみに近づけば隊全体が危険にさらされる。
トビーの生体脳は瞬時に計算を終え、最適な救出手順を導き出した。彼は深く考えず、稲妻のように飛び出した。皆が反応する前に、すでに幼犬のそばへ到達している。彼は素早く手を伸ばし、生化学躯体の強靭さを利用して、幼犬に巻きついた蔓をつかみ、力いっぱい引いた。
「ブチッ!」
蔓が強引に引き裂かれ、切れ目から緑色の汁液が飛び散った。幼犬はトビーにそっと抱き上げられ、危険から逃れた。肉食性植物は脅威を感知したように、蔓を狂ったように振り回し、再び獲物を捕らえようとする。だがトビーは幼犬を抱えたまま素早く後退し、隊の中央へ戻っていた。
幼犬はトビーの腕の中で弱々しく息をし、濡れた鼻を彼の藍衫へ軽くこすりつけた。阿明たちはトビーの身のこなしを見て、驚きの表情を浮かべていた。
彼らは幼犬を地面へ下ろし、遠くから聞こえてくる犬の吠え声の方角へ、慎重に送り届けた。幼犬が無事に群れへ戻ると、もともと警戒していた野犬たちは、幼犬から善意を感じ取ったのか、トビーたちを攻撃しなかった。むしろ一斉にトビーを見つめる。先頭にいた体格の大きな野犬が、低く小さく唸った。それは、感謝を示しているようにも聞こえた。
その後、野犬の群れは去らなかった。隊の後方、少し離れたところを黙ってついてくる。安全な距離を保ちながら、旅に同行しはじめたのだ。彼らの存在は、隊に見えない守りを一つ加えた。
夜の帳が下り、一行は比較的平らな空き地を見つけ、焚き火を起こして夜を過ごすことにした。火の光が跳ね、周囲の闇を払い、暖かな光が皆の顔を照らした。犬の群れも周囲に一定の距離を置いて草むらに伏せ、四方の動きを警戒している。まるで見張りを手伝ってくれているかのようだった。
夜更け、トビーは澄んで遠く響く、不思議な鳥の鳴き声を聞いた。彼は好奇心から芸潔に尋ねる。
「芸潔、あれは何の鳥の声?」
芸潔は耳を澄ませ、それから小声で答えた。
「あれは夜梟。夜にだけ出てくる鳥だよ。目が二つの灯籠みたいに光るの」
翌日、朝日が昇ると、一行は荷を整えて出発した。阿明は遠くの山並みを眺めながら、行程を見積もる。
「あと一日進めば、隧道の入口に着けるはずだ」
旅は順調だった。野犬の群れが同行しているおかげで、道中の危険な生物たちもいっそう慎重になっているようで、すべては無事に進んだ。芸潔の活発さは旅にかなりの楽しさを添えた。彼女は絶えずトビーに質問し、トビーも辛抱強くベイシティのあらゆることを説明する。二人の交流は、互いにこの世界への理解をさらに深めさせていった。
二日目の夜、彼らは高くそびえる崖のそばで夜を明かすことにした。そこは視界が開けており、遠く広大な海を一望できた。夜風が柔らかく吹き、波の音が耳に届く。遠くの水平線は星空と溶け合い、壮麗で美しい景色を作っていた。
無事にここまでたどり着いたことを祝うため、小胖は大きな背嚢から陶器の壺を取り出した。
「さあ! 村で醸した穀物酒だ。みんなで少し飲んで、体を温めよう!」
阿明と阿光は陶器の壺を受け取り、頭を仰け反らせて一口飲み、満足そうに声を漏らした。芸潔も興味津々で近寄ったが、阿明に止められる。
「子どもは飲んじゃだめだ!」
トビーは彼らが酒を飲む様子を見て、珍しさを感じていた。好奇心から手を伸ばすと、小胖が彼に小さな杯を注いでくれた。トビーは彼らの真似をして杯を口元へ運び、試すように少しだけ口に含んだ。
辛く、焼けるような液体が、口内の生化学感覚皮層を滑っていく。生体脳はすぐに高速分析を開始した。トビーの目に驚きが走る。




